第44話 ローゼの恋
「君たちが探しているドナーという男は既に死んでいる」
老人は家に着くなり私たちが一番知りたい情報を淡々と話し出す。
「ヘスリッヒはいずれ聖女の香で傀儡した傀儡兵を使って王都へ攻め入るだろう。もう、残された時間は少ない。このまま退却して王都へ戻り、真相を国王陛下に告げるが良い」
ここでも私は2択を迫られる。老人のアドバイス通りに王都へ戻ると、先ほどの2択の結果と同様に勢力を増したヘスリッヒによって王都は陥落する。
「このまま王都へ戻ることはできません。私たちがヘスリッヒを撃ち取ります」
「そうか……でも、君たちではヘスリッヒを倒すことはできない」
老人は冷酷な目できっぱりと否定する。
「どうしてですか」
「簡単なことだよ。ヘスリッヒは終焉の魔女から力を授かった闇魔法使い。闇魔法に対抗するには光魔法を使える聖女だけだ。残念だけど諦めて王都へ帰るが良い」
ローゼでこのイベントに望むと、老人に救世主として讃えられ、あっさりとヘスリッヒを撃ち取ることになる。
「しかし、今ヘスリッヒを撃ち取らないと悪化の一途をたどることになります」
「……」
老人は思い悩むように沈黙する。
「聖女でない君たちがヘスリッヒに勝つ方法は1つだけある」
老人は重い口を開いた。
「教えて下さい」
「プッペンシュピール礼拝堂の地下に聖剣スーパーノヴァが隠されている。だがスーパーノヴァは聖騎士にしか使いこなせない代物だ。もし君に聖騎士の資質があれば半分程度の力を引き出せることも可能かもしれない」
この段階で私はまだ聖騎士にまで成長していない。しかし、聖騎士の資質がある私は聖剣スーパーノヴァを入手して、ギリギリの戦いでヘスリッヒを打ち倒すことになる。
このゲームの知識は今の現状と似ている。だからこそ、私は今から進むべき選択肢を知っている。
「ドナーさん、1つ確認をしたいのですが、占い館【フルーフ】の情報をくれたのは白髪交じりのご老人でしょうか」
私はゲームとの相互性を見つけるために確認する。
「……どうして知っているのだ」
ドナーは唖然とする。しかし、これでゲームとの相互性は確認できた。今は占い館【フルーフ】は裏魔法具店に変わっているはずだ。それは夜中に来れば明らかになるだろう。
「リーリエ、何か知っているのか」
的確な私の問いに兄も不審に思う。
「……なんとなくそんな気がしたのです」
私は苦し紛れの言い訳をするが、兄とドナーは納得がいかないようで疑心の目で私を見ている。
「ドナー様、メッサー様、リーリエさんを詮索するのはやめてください。おそらくリーリエさんは独自の情報網を持っているのです。情報源を明かすことができないことはドナー様なら一番ご存じだと思います」
「ローゼさんの言う通りだと私も思います。リーリエさん、何か良い策が浮かんでいるのならば教えて下さい」
ローゼとイーリスも、私が何か隠していることには気づいているが、詮索するのは良くないと考えているようだ。
「一旦寮に戻って夜中に出直すべきだと思います。夜中にここへ訪れると占い館【フルーフ】の秘密が明らかになるはずです」
ゲームとの相互性があるのならば、聖女の香ストロングを求めて占い館【フルーフ】へ近隣の住人が訪れるだろう。これはあくまで賭けであり絶対とは言えない。
「わかった。リーリエ嬢の提案に従おう。夜中の外出許可は私の方から学院長に頼んでおく」
「ドナー任せたぞ」
兄とドナーはローゼの助言を受け入れて詮索するのを諦めた。
「メアリー、必ず両親を見つけてあげるから、心配しないで待っていてね」
「うん」
私はメアリーを勇気づけるように温かい笑みで声をかけるとメアリーは柔らかい笑みを浮かべて頷いた。
「お兄様、私たちはメアリーを孤児院に送ってから寮へ戻ります」
「わかった。俺たちは先に寮へ戻っているぞ」
兄たちは先に寮へ戻って行き、残った女性陣でメアリーを孤児院まで送り届けた。占い館【フルーフ】には20時に向かう予定である。まだ時間に余裕があるので私は部屋でのんびりすることにした。
『トントン、トントン』
「リーリエさん、少しお話をしたいのですが部屋に入ってもよろしいでしょうか」
まだ、ローゼとの共同生活は続いている。
「いいわよ」
私は部屋にローゼを招く。
「どうしたの?ローゼ」
「実は話したいことがあるのです」
ローゼは思いつめた表情で私を見る。
「何か悩みでもあるのかしら?私でよければ相談にのるわ」
私には思い当たる節がある。それは兄を見るローゼの目は少し恋をしているように感じていた。兄もローゼを意識しているように思えるので、2人が恋に落ちてもおかしくはない。ゲームとは違い、ローゼのハーレムパーティになるはずのフラムは行方不明になり、マルスの更生には成功したが恋愛に発展する気配はない。残りの2人はまだ登場していない。このあたりでローゼが恋をする展開が生じても全くおかしくない。
「実はメッサー様のことで相談をしたいのです」
私は心の中で「きたぁ~~~~」と大声で叫んだ。