第40話 直感から確信へ
ゲームでのロベリアが序盤のボスなら、ヘスリッヒ・プッペンシュピールは序盤の中ボスに該当する。終焉の魔女を崇拝する終焉教は、教祖ヘスリッヒが王都を支配するために設立した魔女教団である。ヘスリッヒはエンデデアヴェルトに豪華な礼拝堂を作り、傀儡の香を聖女の香と称して無料で提供して、信者を莫大に増やしてエンデデアヴェルトの町を完全に支配していた。その勢力は王都にまで伸びようとしていたが、ヘスリッヒと王妃の関係を突き止めたドナーを殺害したことによって、ドナーの捜索を依頼されたローゼもしくは私の手によってヘスリッヒは倒されて、全てが白日の下にさらされることとなる。
ゲームではヘスリッヒは傀儡の魔女と呼ばれ、傀儡の香や魅惑の香などの怪しげな魔法具作りに長けた魔法具士である。おそらくゲームと同様にリアルでもシュバインに魔法具を提供しているのはあきらかだろう。現在ヘスリッヒがどこに居るのか非常に気になるところである。ゲームならエンデデアヴェルトで信者拡大に精を出している頃だが、ゲーム通りだとは限らない。そこで、私は占い館【フルーフ】へ行く前に、ドナーに探りを入れてみることにした。
「ドナーさん、1つお伺いしたいのですが、エンデデアヴェルトで終焉教と呼ばれる怪しげな宗教が流行しているとの噂は本当なのでしょうか」
「……」
ドナーの顔が一瞬で真っ青になり、言葉を失った。
「リーリエさん、どこでその情報を入手したのでしょうか」
ドナーは顔を真っ青にしてまだ何も言えずに硬直しているが、イーリスが冷静な面持ちで私に声をかける。
「ちょっと噂話程度に聞いただけです」
ゲームの知識とは言えないので、少し濁すように答える。
「リーリエさん、今エンデデアヴェルトでは緊迫した状況になっているのです。リーリエさんが指摘された終焉教の手によって町ごと支配され、国王陛下でさえ手を出せない危機的状況に陥っています。その為、国王陛下の命によりこの事実はひた隠しにされて、現状を知る者はごくわずかな人物のみとなっています」
イーリスは表情を変えずに淡々と話す。一方ドナーはやっと落ち着きを取り戻して、気持ちを整理するように話し始める。
「君は一体どこまで知っているのだ」
ドナーの瞳は疑念に満ちている。
「これ以上は何も知りません」
これは本心である。私の知っているゲームの知識と同じ状況下とは判断できないからである。
「そうか……」
ドナーは少し納得がいかない表情を見せながらも、私の返答を受け入れる。
「リーリエ、今の話はフラムと関係があるのか」
兄は素朴な疑問を投げかける。
「全く関係はありません。ただ気になっただけです」
私はボロを出さないように無知なフリをする。私の本心はゲームとリアルのズレを確認して注意点や類似点を見つけるためである。今の状況からすると、ドナーはシュバインの出生の秘密を探るためにエンデデアヴェルトへ向かうことは不可能な状態だ。それはつまりエンデデアヴェルトでドナーが死ぬことはないことを示している。だがドナーに平穏が訪れたと思うのは余りにも楽観的過ぎる思考である。私のこれまでの経験で考えるのならば、ドナーはエンデデアヴェルトでなく別の場所で死を迎える危険性がある。ここで私の直感は確信へと変わる。ドナーを1人で占い館【フルーフ】に向かわせれば死が待ち受けていると。
「エンデデアヴェルトの話はこの辺にしておこう」
ドナーは話の終止符を打つ。
「そうですね」
ゲームとリアルではどれほどの差異が生じたのか知りたいところだが、これ以上の詮索は難しいだろう。
「リーリエさん、私たちも占い館【フルーフ】に行った方がよろしいのでしょうか」
察しの良いローゼは、私の心を読み解くよう声をかける。
「ローゼ、力を貸してくれるかしら」
「もちろんです」
ローゼは屈託のない笑みで返事をする。
「リーリエさん、私もお力添えしたいと思います」
「俺も行くぜ」
兄とイーリスも参加表明をする。
「これは俺達の案件だ。無関係なお前達を巻き込むわけにはいかない」
ドナーも危険が生じるのは承知の上だ。
「フラムの件は私の責任です。当事者が行くことは当然の義務だと思います」
「イーリス嬢の意見はもっともなことだ。よって俺も参加する」
「フラムさんに関しては私も少しは責任を感じています。私も同行いたします」
「そもそも、フラムが激高した相手は私です。八つ当たりのようなものですが、私も関係者になると思います」
全員関係者といえば関係者に当たるだろう。
「……」
ドナーはみんなの申し出を断る理由を見つけることができずに無言で承諾する。
「ドナー、みんなでフラムを見つけ出そうぜ」
兄は暖かな笑みでドナーに手を差し伸べる。
「ありがとう、メッサー」
ドナーは兄の手を握り固い握手を交わした。
こうして、私たちはフラムを探すために占い館【フルーフ】へ向かうこととなった。