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第38話 イーリスの真意

 私たちは生徒会室を去った後、ドナーにきちんとしたお礼をする為に、料理研究部の部室へ案内してスイーツを振る舞うことにした。



 「イーリス、お前も料理研究部に入部していたのだな」



 ドナーは正義の令嬢と呼ばれるイーリスにjudgment(正義) of() justice(審判)へ入会するように何度も打診していた。しかし、イーリスは魔法の勉強が疎かになることを理由に兼部はできないと返答していたのだ。そんな正義のために突き進むイーリスが、料理研究部に入部していると知ったドナーは少し納得がいかないようだ。



 「はい。私がjudgment(正義) of() justice(審判)へ入会しなかった本当の理由は、リーリエさんとローゼさんが本物か見極めるためでした」



 ゲームのイーリスは、ローゼが聖女になるためのサポートをする為にjudgment(正義) of() justice(審判)へ入会しなかったと説明されていて、私に関してはローゼを魅惑する悪役令嬢という位置づけになる。



 「失礼だが、ローゼ嬢のことは理解できる。だがリーリエ嬢の何を見極める必要があるというのだ?」



 ドナーの意見はもっともである。ローゼは聖女なので本当の聖女なのか見極める必要があるが、私はただの堕落令嬢である。見極めたところで何も有益なことはない。



 「すぐに答えはわかると思います」



 イーリスは不敵な笑みを浮かべる。



 「ドナーさん、お待たせしました。クッキーと紅茶をご用意しましたので、どうぞ召し上がってください」



 私たちが留守の間、メロウとミーチェがクッキーを焼いてくれていたので、それをドナーへ差し出した。自分たちが食べるために焼いたクッキーの一部を取られてメロウとミーチェは部室の角でにゃ~にゃ~と泣いている。



 「これは入手困難なクッキーという食べ物ではないのか?どうしてこのような希少な食べ物があるのだ」



 ドナーは上級貴族の出身なのでクッキーを知っていた。



 「実はクッキーを考案したのはリーリエさんなのです」

 「……」



 ドナーは口を開けて驚愕する。



 「私は初めてクッキーを食べた時に口の中で衝撃が走りました。それから寝ても覚めてもクッキーのことが気になり、ブルーメンブラッド家の力を使ってクッキーのことを調べてもらったのです。すると、レーヴァンツァーン家の堕落令嬢として名を馳せていたリーリエさんが考案したという情報を入手したのです。しかし、あくまでそれは噂話の情報なので鵜呑みにはできませんでした。本当にリーリエさんは堕落令嬢なのか?それとも天賦の料理の才能を秘めた令嬢なのか見極める必要があったのです」

 「料理研究部に入部したのはローゼ嬢を聖女に導くためとリーリエ嬢から料理の知識を得るためというわけだったのだな」



 ドナーはあの天才名探偵のように点と線が繋がり真実を導き出す。


 「半分は正解で半分は不正解になります。正直に話しますと私が料理研究部に入部したのは、単純にリーリエさんが料理する食べ物を食べたかったのです。料理研究部に入部してプリンやミルクレープなど衝撃的な甘い食べ物を食べることができて、私は非常に充実した日々を過ごせています。食とは人の心を豊かにして平和な思考を構築する特殊な魔法です。それはローゼさんが完全な聖女として力を得るにも必要なことです。私はリーリエさんの料理は聖女の力と同等の力ではないかとさえ思っているくらいなのです。私は2人の成長に助力しながら、共に成長したいのです」



 あまりにも高尚なイーリスの考えにドナーは感銘を受けるが、私は思わぬイーリスの考えに度肝を抜かされて唖然とした。



 「イーリスさん、私も協力します」



 ローゼは黄金の瞳を輝かせてイーリスの考えに賛同を示す。



 「料理の知識を得るためと思った俺の考えは、とても浅はかな考えだったのだな。さすが正義の令嬢と崇められるだけのことはある。俺とは別の道で正義を貫くイーリス嬢の健闘を祈ろう」

 「コラ――――」



 3人の高尚な話を遮断するように私の怒鳴り声が響く。



 「それはドナーさんに用意したクッキーよ。2人の分はきちんと渡したでしょ」



 テーブルに用意したクッキーへ忍び寄る2つの怪しい人影を見つけたので私は注意したのである。



 「私が作ったクッキーなの」

 「もっと食べたいにゃ~」



 底なしの胃袋を持つミーチェとメロウは涙目で訴える。



 「1人20枚の約束よ。後でパンケーキを作ってあげるから我慢しなさい」



 私は2人の母親のように厳しく説教をする。



 「はいなの」

 「わかったにゃ~」



 2人は歯を食いしばって苦悶の表情で我慢する。



 「リーリエ嬢、私の分のクッキーをミーチェ嬢とメロウ嬢に渡してくれ」



 ドナーは女性に優しい紳士である。2人が泣いてクッキーを食べたいのを我慢している姿を放っておくことはできない。



 「わ~いなの」

 「嬉しいにゃ~」



 ドナーが言葉を発した途端にミーチェとメロウはテーブルに置いてあるクッキーを一瞬で食べてしまった。



 「……」



 あまりの早さにドナーは呆然と立ち尽くす。



 「ドナーさん、2人を甘やかさないでください」

 「……わかった」



 ドナーは深く反省をした。


 

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