第32話 類似イベント
「風魔法の講義が終わりました。急いで部室に行きましょう」
「そうね」
今日1日の全ての講義が終了したので部室へ向かった。
『ガチャ』
「リーリエ、リーリエ!活動報告書は作成できたのか」
部室の扉を開くと不安げな顔をした兄が大声をあげる。
「大丈夫です、お兄様。きちんと活動実績がわかるようにまとめあげたので問題はありません」
前世の社会人としての経験が、こんな形で役に立つとは思いもしなかった。
「騎士として冷静なフラムさんも、リーリエさんのことになると落ち着かないのですね」
柔らかい笑みを浮かべて兄に声をかけたのはイーリスである。なんとイーリスは第1魔法研究部と兼部で料理研究部に入部したのである。
「念の為に確認をしただけだ。決してリーリエを信じていないわけではないぞ」
兄は顔を赤くして少しばつが悪そうに言い訳をする。
「リーリエさん、少し目を通してよろしいでしょうか」
「どうぞ、イーリスさん」
私はイーリスに活動報告書を手渡す。イーリスは手渡された活動報告書を真剣な眼差しで丁寧にじっくりと読む。
「完璧な報告書ですね。しかし、レシピが事細かく記載されているけど大丈夫なのでしょうか?」
イーリスはレシピが盗まれる危険性を考えている。
「イーリスさん、問題はありません。この報告書に記載されているレシピは、すべてレーヴァンツァーン領にて公開済みです。シュバインがレシピを盗んで権利を主張しても無駄になります」
「さすがリーリエさん。私が添削する必要はなかったようね」
「そんなことはありません。添削して頂いてありがとうございます」
「やっぱり私の感は間違っていませんでした。料理の腕だけでなく資料を作成するのも一級品です」
ゲームのイーリスは、私のことを女生徒を手玉に取る悪役令嬢として認識して、ローゼに近寄らないように防壁として立ちはだかっていた。そんなイーリスが褒めてくれたことに私はとても嬉しく感じた。
「リーリエは本当にすごいんだぞ」
兄はどや顔で自分が褒められたかのように嬉しそうだ。
「はい、はい。リーリエさんがすごいのは理解しています」
イーリスはあきれ顔で答える。
「無事に活動報告書はできあがりました。でも、相手は権力を傘にして横暴を働くシュバインさんです。部長のリーリエさんが1人で生徒会室に行くのは危険過ぎると思います」
ローゼは不安げな顔で進言する。ゲームでは何度も私やローゼに嫌がらせをするシュバインが、簡単に活動報告書を受け取るとは思えない。
「そういえばマルスさんの話しでは、何かどでかいことを企んでいると言っていたわ。敢えて私1人で言った方か良いかもしれないわ」
私のせいで他の部員を危険な目にあわせたくはない。
「ダメです。リーリエさん。もっと私たちを頼ってください」
ローゼは熱い眼差しで私を見つめる。
「そうだ。1人で行動するのは良くないぞ」
兄は力強い眼で私を見る。
「みんなあなた1人を危険な目をあわせたくないのよ」
イーリスは優しい瞳で私を見つめる。
「危険そうなので私はパスなの~」
「私もパスにゃ~」
メロウとミーチェは顔を真っ青にして頭を横に振る。ゲームでも2人の戦闘能力は未知数なので一緒に連れて行くべきはないだろう。メーヴェは第1剣術探求部に出席しているので部室には居ない。
「私とリーリエさん、ローゼにメッサーさんの4人で生徒会室へ向かいましょう。メロウさんとミーチェさんは部室でお留守番をお願いします」
「はいなの~」
「任せるにゃ~」
イーリスが4人で行くことを提案し2人は難を逃れてホッとして笑みがこぼれた。
「よし、生徒会室へ向かうぞ!」
兄は気合を入れて掛け声をあげた。
「お兄様、ちょっと待ってください」
私は兄に物申す。
「どうしたのだリーリエ」
兄は不思議そうに首をかしげる。
「私はマルスの警告が非常に気になるのです。最悪の事態に備えて作戦を立ててから生徒会室へ向かいませんか」
ゲームでは存在しないイベントに関しては、ゲームの知識を利用して対策を立てることはできない。しかし、完全に対策を立てられないわけでもない。例えばゲームでは、マルスとローゼが出会うのは部活発表会だったのだが、リアルでは部室で2人は出会うことになる。日時も内容もゲームとは異なる展開だったのだが、結末はゲームと似たような展開になった。今回の生徒会室へ活動報告書を提出するイベントもゲームで体験したイベントと似たような展開になると想定しても良いだろう。
シュバインが私を生徒会室に呼び出すイベントは存在しないが似たようなイベントはある。それは、シェーンがシュバインに騙されて怪しげなパーティーに参加させられたイベントであるが、まだシェーンとは出会っていないので、このイベントではないと私は考える。次にローゼがシュバインに呼び出されるイベントを思い出してみると、似たようなイベントを思い出したのであった。




