第30話 ローゼの力
★★★★★で評価をしてこの作品を応援してください!ついでにブクマ登録もお願いします。
私の謝罪する姿を見て、歪な顔で笑うリューゲの姿を見た私はさらに心が痛む。
マルスがゲームの設定どおりの人生を歩んでいれば、リューゲという醜態者を生んだのは、世間の心無い噂話であり、彼は噂話の被害者であろう。マルスがリューゲという別の人格に変貌して逃げた気持ちはわからなくもない。今思えば、堕落令嬢と揶揄された私がマルスのように別の人格に逃げなかったのは、理解のある心優しい家族が居たことが大きな要因だった。マルスにも心優しい家族は居たが、シュバインという異端児の存在がリューゲという醜態者を作り上げたと言っても過言ではない。もし、ゲームのシナリオ通りに入学式でローゼと出会っていれば、リューゲの心を癒して心優しいマルスに戻すことができたのかもしれない。ゲームでは説明はなかったが、もしかするとローゼの聖女としての能力がリューゲを改心させる発端になったのかもしれない。全ての始まりは私が呪いのリングを付けたことが原因だ。あの日からこの世界の未来は変わってしまった。
「本当に……ごめんなさい」
私は謝罪することしかできなかった。聖女でない私が何を言ってもリューゲはマルスに戻らない。今はリューゲの気持ちが晴れるまで好きなだけ笑われ役をかって出ると覚悟を決めた。
「ガハハハハ、ガハハハハハ、お前は神から3属性を授かったのにもかかわらず堕落して、おままごとをしているクソッタレだ。お前の謝罪など聞きたくもない。すぐに部室をたたんでこの学院から立ち去れ」
私の謝罪行為は間違っていた。リューゲはシュバインに命令されて、嫌がらせをするために部室へ来たのだと私は勘違いしていた。
リューゲは自分の意思できたのである。マルスがリューゲに変貌した直接の原因は【鑑定の儀】の結果である。もし2属性を授かっていればマルスは心優しいマルスとして成長をしていたであろう。私は神から3属性という天賦の才能を授かったにも関わらず、遊び惚けている堕落令嬢だと噂され、その噂はマルスの耳にも届いている。1属性だったことで人生が狂ったマルスにとっては、3属性を授かったのにも関わらず堕落している私を絶対に許せなかったのであった。
「……」
私はリューゲの真意を理解して何も言い返すことができなかった。確かに私の愚行で人生が狂った者もいる。もちろん、私自身もその1人に当たるだろう。自業自得と責められれば言い返す言葉は見つからないが、私なりに反省をして今まで努力をしてきたつもりだが、それは言い訳にしかならない。
「全ては私が悪いのです。私は料理研究部を辞めますので、部活の存続だけは認めてください」
いくらでも謝る覚悟はしていたが、部活をたたむことは絶対にできない。当初は私が学院へ残るために設立した部活だが、1か月が経過してわかったこともある。美味しいスイーツは人の心を癒して気持ちを豊かにすることだ。今では一部の生徒からスイーツの予約販売も開始している。私が学院を去ることはローゼを支えると覚悟した気持ちにも反する行為だ。しかし、自領へ戻らずとも王都に残ってローゼを支え、部活に貢献することもできるだろう。怒りの矛先が私ならば、私が部活を去ることで全てが解決するのではないかという答えを導いてしまった。
「ダメです!リーリエさん、辞めないでください」
部室の扉が開いてローゼが駆け込んできた。
「関係ないヤツは黙っていろ」
リューゲはローゼを罵倒する。
「私は関係者です」
ローゼは私とリューゲの間へ入り込み、濁りの無い真直ぐな瞳でリューゲを見る。
「うぅ……」
ローゼの可愛さと気迫に飲み込まれたリューゲは言葉に詰まる。
「なぜリーリエさんが部活を辞めないといけないのでしょうか」
途中から来たローゼは全てを把握しているわけではない。しかし、状況から判断してリューゲが私に部活を辞めるように催促していると考えたのだろう。
「それは……こいつが堕落令嬢だからだ」
ローゼに問い詰められたリューゲは、動揺を隠せずに短絡的な言葉を並べることしかできない。
「それは理由になっていません。そもそも、リーリエさんは堕落令嬢ではありません」
ローゼは堂々とした振る舞いで毅然と答える。
「お前に何がわかるのだ!」
ローゼの毅然とした態度に圧倒されたリューゲは顔が引きつっていた。
「あなたこそリーリエさんの何がわかるというのでしょうか。あなたは世間で噂されている信憑性のない話を鵜吞みにしているだけです。少しでもリーリエさんと一緒にいれば、リーリエさんが堕落令嬢ではないことはわかります」
「うるさい、うるさい、うるさい、俺にはわかるのだ!3属性を授かったのに下級騎士に合格できなかったことがそれを証明しているはずだ」
客観的に見ればリューゲの言っていることは正しいだろう。3属性持ちならば最低でも中級騎士に合格していてもおかしくはない。
「噂だけを信じればあなたのような答えに至るのはしかたありません。しかし、リーリエさんと真剣に向き合ってください。そうすれば、私の言っていることが間違いではないことが理解できるでしょう。今のあなたは外見だけでしか判断していません。本当にその人のことを理解するには内面もきちんと見る必要があるのです。あなただって外見だけで判断されるのはいやなのでしょう。だから変装をしているのですね」
「……」
ローゼの言葉にリューゲは顔面蒼白になり言葉を失った。