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第24話 兄の破滅ルート

 「シュバイン、お願いだ。サインをしてくれ」



 それが悪手であるとわかっていても兄は頭を下げるしかなかった。兄が必死に頭を下げてお願いすればするほど、シュバインのエクスタシーは満たされる。なのでシュバインがサインをすることはなかった。



 「ブヒブヒ、ブヒブヒ。今日は本当に気持ちが良いブヒ。でも、もうむさ苦しい男の相手は飽きたブヒ」



 シュバインは目線を兄からローゼに向けた。



 「そこのオッパイの大きな女。お前、俺のハーレム部に入れ。そうすれば、サインを押すブヒ」



 シュバインは醜いたらこ唇からよだれを垂らしながらローゼをいやらしい目つきで見る。



 「……」



 ローゼは怯えて何も言えない。



 「おい!そこの女。シュバイン様が勧誘してくださっているのだぞ。素直に喜んでハーレム部に入部しろ」



 ナルキッソスがシュバインの権力に隠れて偉そうにするのはゲームと同じ設定である。



 「お前が入部しないのなら絶対にサインをしないブヒ」



 シュバインは大きな体をゆさゆさと動かしてローゼに近づく。そして、汚い顔をローゼの胸に近づける。



 「すばらしいブヒ。早く俺のハーレム部屋に行くブヒ」



 シュバインは強引にローゼの手を掴もうとした。



 「やめろ」



 兄はシュバインの手を払いのけた。



 「貴様……俺様に暴力を振るったブヒ」



 シュバインは涙目になりながら尻もちをついた。



 「貴様!何をしたのかわかっているのか」

 「黙れ偽筋肉」



 兄が恫喝するとナルキッソスは大きな体を小さくして黙り込む。



 「シュバイン、非礼は詫びよう。しかし、ローゼ嬢に手を出すなら俺は容赦しない」



 兄は鬼のような形相でシュバインを睨みつけて帯刀している剣に手を伸ばす。



 「お兄様、部活のことは諦めますので剣から手を外してください」



 ゲームでシュバインに手を出せば国家反逆罪として牢獄に監禁される破滅ルートを辿ることになる。ここで私が兄を止めなければ兄は破滅する。ローゼと兄を助けるには部活の設立を諦めるしかなかった。



 「リーリエさん、ダメです。私はハーレム部に入部しますからリーリエさんは夢を諦めないで下さい」



 怖くて震えていたローゼは恐怖を背負いながら涙目で私に訴える。ローゼは平民の自分にやさしく接してくれた私に少しでも恩返しをしたいのである。今ここには3つの選択肢が用意されていた。私が部活の設立を諦める。ローゼがハーレム部に入部する。兄がシュバインを剣で黙らせて強引にサインをもらう。この中で破滅ルートを辿らないのは私が部活の設立を諦めることだ。



 「ローゼ、ハーレム部に入部してはダメよ。入部したらどんなひどい目にあわされるかわからないわ。料理は部活じゃなくてもできるのよ。ローゼが犠牲になる必要はないの」



 そう、料理など部活を作らなくてもどこでもできる。しかし、それなら危険を冒してまで生徒会室に来る必要はなかったはず……。



 「ブヒブヒ。それは間違っているブヒ。堕落令嬢などどこの部活にも入れないブヒ。部活を設立出来なかったお前は明日退学になるブヒ」



 フォルモーント王立学院の校則には必ず部活に入ることと明記されている。堕落令嬢と揶揄されて、権力とお金で入学した私を受け入れてくれる部活など存在しない。ゲームでは何の意味もない設定だったのだが、リアルの私には死活問題の設定になっていた。兄やローゼが必死になるのはそれが原因である。



 「ローゼ、他の部活へ入部できるように頑張るから心配しないで」

 


 私が学院に残る道は他の部活に入るしか道は残されていない。もしリアルのローゼと知り合っていなければ、部活を設立できなくても自領の学校に編入して、のんびりスローライフを過ごすのも良いと考えていた。でも、今の私は違う。リアルのローゼと友達になり、心優しいローゼと触れ合うことで、ローゼに全てを押し付けるなんて出来なくなった。もし部活を設立出来ず退学になれば、ローゼを助けられないと思うと自然と涙が零れ落ちる。

 

 私の涙を兄は見逃さなかった。兄は私が退学しないように奔走してくれていたが、どこの部活も受け入れを拒否していた。

 兄は思うところがあった。兄は自分が未熟だったために、私が呪いのアイテムを使ったと思い込んでいる。自分のせいで私の人生を狂わしてしまったことに後悔していた。魔法が使えなくなった私は、兄の前で涙を流すことなど一度もなかった。弱い所を見せることなど一度もなかった。そんな私が初めて兄の前で見せた涙に兄は覚悟を決める。兄は一度手を離しかけた剣に再び手をのせて強く剣を握りしめた。その瞬間、あきらかに場の空気が変わった。そのことにシュバインは気づいていない。



 「ブヒブヒ、ブヒブヒ。堕落令嬢を引き取る部活など存在しないブヒ。頼まれても俺様のハーレム部には入部させないブヒ」



 最初からゲームの設定を考えると、シュバインからサインをもらうことは難しいとわかっていた。それでも、ローゼや兄が私を後押しをしてくれたので生徒会室まで来たのである。ナルキッソスの攻略は用意していたけど、シュバインの攻略は用意できてなかった。しかし、攻略できる可能性は0ではなかった。もし、あのキャラが登場すればシュバインを攻略できる可能性はあるが待っている時間はない。今、兄を止めないと兄の破滅ルートが確定する。私は兄の剣を奪い取りシュバインの喉元へ突きつけた。全ては私が呪いのアイテムを使用したのが原因だ。その判断が全てを狂わせたのだ。だから、私が責任を取るのが筋というものであった。

 

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