第121話 冬眠
「ヘビビビー」
前回よりも大きな袋を担いでヘビ子が戻って来た。
「ちょっと多すぎるるわね」
「何を行っているのですか!これでも足りないくらいです」
「ヘビビビィビィ」
「虹蛇様の意見に同意致します」
私の小声の愚痴に虹蛇たちが猛反発をした。
「リーリエさん、作るしかないようです」
ローゼは私の肩を叩いてさとしてくれる。
「そうね。ローゼ気合いを入れるわよ」
「もちろんです。呪い子ちゃんを盛大に弔いたいです」
私とローゼは汗を流しながら、先ほどよりも倍の量のパンケーキを作り上げた。
「あたいが全部もらうのよ」
「ヘビビビビビビビ」
「虹蛇様、独り占めは卑怯です」
「ちょっと待って下さい。こちらは呪い子ちゃんの分になります」
ローゼは虹蛇たちに全て食べられないように呪い子ちゃんの分のパンケーキを確保する。
「わかっているわ」
「ヘビィ」
「了解です」
虹蛇たちは少し不機嫌な顔になるが了承してくれた。
「でも、でも、でも、それは少し多いのではありませんか?呪いは消えたので一口サイズあれば十分よ」
「ヘビー」
「その通りだと私も思います」
虹蛇たちが言いたいこと理解できる。お供物ならばたくさん用意する必要ないだろう。
「ローゼ、どうする?」
「本来パンケーキは呪い子ちゃんのために用意したものです。私は消えゆく呪いちゃんの無念の顔が頭から離れません。私にできることは食べきれないほどのパンケーキをお供えするくらいです」
ローゼは一切れたりとも減らすつもりはない。
「呪い子ちゃん、存分にパンケーキの味を頼んしでくださいね」
ローゼは呪い子ちゃんの墓前にパンケーキを置いた。
『ガサガサ、ガサガサ』
土の中から白くて細い小さな手が現れた。
「良い香りがするわ。とても甘くて心がとろけるような濃厚な香りがするわ。私はこんなところで燃え尽きている場合ではないのよ」
呪い子ちゃんはゾンビのように土の中から這い出て来た。
「呪い子ちゃん、生きていたの?」
ローゼの瞳に涙がキラリ。
「デザートを食べずに死んでたまるかぁ〜」
呪い子ちゃんは墓前に置いたパンケーキをペロリと平らげてしまった。
「この味は……」
呪い子ちゃんの瞳にも涙がキラリ。
「この味はパンケーキです。私は……これをどこかで食べたことがあるわ……」
呪い子ちゃんは考える。
「そう、前世で私はこのパンケーキを食べたことがあるわ。本当に懐かしい味です」
呪い子ちゃんはパンケーキを食べて満足すると体が白い灰となって空へ消えていった。
「前世……」
私は呪い子ちゃんの発した前世という言葉に引っ掛かる。もしかすると呪い子ちゃんも転生者だったのかもしれない。
「呪い子ちゃん、安らかに眠ってください」
ローゼは呪い子ちゃんの墓前に手を合わせる。
「もうお腹パンパンなのです」
「ヘビヘビ」
「大変満足しています」
虹蛇たちのお腹は満たされたようだ。
「これで準備は整ったわね。終焉の魔女が住む終わりの森へ向かいましょう」
「あたいはお腹がいっぱいになったのでお昼寝をするわ」
「ヘビビビビ」
「リーリエさん、このままでは虹蛇様は冬眠してしまうかもしれません」
「それは困るわ」
せっかくパンケーキを作って、終焉の魔女の呪いから解放したのに冬眠されたら徒労に終わってしまう。
「虹蛇様、虹蛇様、起きてください!」
ローゼが虹蛇に必死に声を掛けるが、虹蛇は虚ろな目をしている。
「仕方ありません。ヘビ子ちゃん、虹蛇様の目を引き継ぐのよ」
「ヘビビ」
ヘビ子は虹蛇の体の中へ入り込む。すると虹蛇の体が七色に光り輝いた。私はその様子を固唾を呑み込んで見ていた。
「ヘビビビビビビ」
虹蛇の体からヘビ子が抜け出て来るとヘビ子の左目は黄金に輝いていた。
「リーリエさん、左目の引き継ぎに成功したようです」
「ありがとうございます」
ロベリアの機転の利いた対応に私はお礼を言った。