第120話 さよなら呪い子ちゃん
ヘビ子が空を翔けて1時間がほどが経過した。
「ヘビビビィー」
大きな袋を抱えてヘビ子が戻って来た。
「よくやったわね」
虹蛇はヘビ子を褒めるとヘビ子は人間の姿に戻る。
「ヘビビビビ、へへビビ」
「ヘビ子もデザートを食べたいのかい?」
「ヘビビビ」
「仕方ないわね。あなたにもデザートを分けてあげよう」
「へへビビ」
ヘビ子はジャンプして喜びを表現する。
「さぁ、食材と調理器具はそろったわ。すぐにとびきり美味しいデザートを作るのよ」
「は……い」
封印を解くためのデザート作りが、いつのまにか虹蛇を喜ばすためのデザート作りに代わっていた。しかし、そんなことは言えずに私は黙々とデザートを作り始めた。
「まだかしら」
「ヘビビビビ、ヘビィ」
「お二人とも静かに待ちましょう」
虹蛇とヘビ子は早くデザートが食べたくて私の回りをクルクルと回る。それを見かねたロベリアは2人に注意をするが言うことを聞かない。
「リーリエさん、お二人がお邪魔をして申し訳ありません」
「良いわよ」
鬱陶しいとは言えない。
「ローゼ、これをかき混ぜて」
「はい」
虹蛇とヘビ子がグルグルと回る中、私とローゼはパンケーキ作りに励んだ。
「できたわよ」
私はフルーツと生クリームたっぷりなパンケーキを作り上げた。
「私が一番最初に食べるわ」
「ヘビビビビー」
「お二人とも落ち着いてください。もしもの時のために私が先に毒味をさせていただきます」
虹蛇とヘビ子をかけ分けて、ロベリアがパンケーキを食べた。
「……」
「ロベリアさん」
「ヘビビビビィー」
ロベリアは地面に倒れ込む。その姿をみた虹蛇とヘビ子は大声をあげた。
「ロベリアさん、大丈夫ですか?」
私は焦ってロベリアに近寄った。
「た……」
「ロベリアさん、私の作ったパンケーキに何か変なモノでもはいっていましたか?」
「た……たいへんとても美味しいです」
「え?」
「あまりにも美味しいので、ビックリして倒れてしまいました」
「え~~~~~~~」
「私も食べるわ」
「ヘビビビビへへ」
虹蛇とヘビ子は素手でパンケーキを掴んで口へ放り込む。
「美味いのです」
「ヘビーーーー」
「リーリエさん、お2人を止めてください」
ローゼは叫ぶが時はすでに遅し、私が作ったパンケーキは全てなくなった。
「ふざけるなぁ〜。それは私のパンケーキだぞぉ〜」
甘いパンケーキの匂いしか堪能できなかった呪いの少女が私たちに姿を見せた。
「冷静になってください、呪い子ちゃん。皆さんには悪気はなかったのです」
「あんなに美味しそうなデザートを見せつけられて、一口も食べることができなかった私の悔しさがお前にわかるのかぁ!」
呪い子ちゃんの目から血の涙が滴り落ちる。
「すぐに作りますから、落ち着いてください」
「リーリエさん、材料がもうありません」
「私のデザートがぁ……」
呪い子ちゃんはショックで倒れ込み、体が溶け出して黒い炭のようなモノになってしまった。
「よくやったわ。呪いが消滅したので私は自由に動けるようになったわ」
「ヘビビビビ」
呪い子ちゃんが炭になったことで、虹蛇を封印していた呪いが解け虹蛇は自由に動けるようになった。一時はどうなるかと思ったが結果オーライである。
「ローゼ、何をしているの?」
ローゼは炭となった呪い子ちゃんの亡骸を丁寧に集めている。
「リーリエさん、お願いです。終焉の魔女へ会いに行く前に、もう一度ヘビ子ちゃんに買い物をお願いしてくれませんか?」
「……わかったわ」
「ありがとうございます」
ローゼは呪い子ちゃんの墓前にパンケーキをお供えしたいようだ。
「ヘビビヘビビビビ」
私たちの会話を聞いていたヘビ子は蛇の姿になって空を翔ける。
「私たちの胃袋はまだ満足していないのよ。あなた方に言われなくても買い出しに行くつもりだったわ」
虹蛇はどや顔で答えた。