第119話 ヘビ子
ゲームでローゼを主人公に選ぶと虹蛇は出てこない。そもそもローゼには光の宝玉など必要ないからである。あくまでリーリエである私を選択した時に出るキャラである。
ローゼは手のひらから光を出して祠の状態を確認している。ローゼは小声でぶつぶつと呟きながら色々と試しているようだ。ローゼが祠と向き合って30分ほどが経過した。一方ロベリアと虹蛇は楽しそうに談笑をしている。その姿はまるで長年の友人と過ごしているかのように見える。私は気を抜くことなくローゼの後ろに立ちいつでも手伝えるように準備をしていた。
「世界を闇から救う聖女ローゼ、あなたが来るのを私はずっと待っていました」
私はローゼがぶつぶつと独り言を言っているものだと思っていたが実は違う。ローゼは虹蛇様の祠と対話をしていたのだ。
「あなたは誰なのかしら」
虹蛇様の祠の前に小さな少女が立っていた。その少女は真っ黒な髪に白目がない黒の瞳、そして着物のような真っ黒の服を着ていた。しかし、この少女の姿はローゼにしか見えていない。もちろん声も誰にも聞こえない。さらにローゼの声にもノイズが入り何を言っているのか聞き取れないのであった。
「私は闇の魔力の根源であり、虹蛇をこの地へ繋ぎ止める闇の呪いです」
「あなたが虹蛇を封印しているのですね」
「はい」
「お願いします。虹蛇の封印を解いてください」
「私は終焉の魔女によって生み出された呪い。この呪いを解除するには私の絶望的な空腹に満ちた胃袋を満足させる必要があるのです」
祠の封印を解くには光魔法てはなく食べ物であった。ローゼはすぐに私に封印の解き方を説明した。
「なんてことなの……」
ゲームにはない展開に私は頭を抱える。
「リーリエさん、祠の呪いは幼い可愛らしい少女でした。リーリエさんなら少女を喜ばせるデザートを作れると思うのです」
「あ!それは名案ね。でも……材料がないわ」
やはり私たちにクリアーできるように道筋は用意されている。しかし、デザートを作る材料と道具はない。
「ちょっと良いかしら」
虹蛇が目玉をギョロリと見開いて私を見る。その目は威嚇でなく興味津々だ。
「虹蛇様、なんでしょうか?」
「あなたたちの話は聞かせてもらったわ。あなたはとても興味深いデザートを作ることができるのかしら」
「はい、料理には自信があります。私は学院を卒業すればカフェを開いてスローライフを送りたいと思っているのです」
「デザートを作る材料と調理器具は。私の分身体に、取りに行かせましょう」
虹蛇は甘いデザートに興味があり、私のデザート作りに協力してくれるようだ。
「分身体とは?」
「私の魔力で作り出した子分です。分身体は隠密活動に特化しているのですぐに近くの町まで行けるはずよ」
「わかりました。それならお願いします」
私たちがルポの町へ戻るよりも虹蛇の分身体に任せた方が良いだろう。
「汝の主である虹蛇が命じる。主の代わりにルポの町へ赴き、私のおつかいをするのです。ヘビ子ちゃん、出てきなさい」
「ビビィーー」
可愛らしい声が響くと白髪の可愛らしい女の子が姿を現した。
「この紙に必要なモノを書いてくれるかしら」
私の目の前に白い紙と鉛筆が現れた。私はパンケーキを作る材料と調理器具を書く。
「これでお願いします」
「ほほう、奇妙なレシピだね。何ができるのか非常に楽しみね」
虹蛇は嬉しそうに話す。
「虹蛇様も食べるのですか?」
「もちろんよ!」
「わかりました。それならば食材の量は倍でお願いします」
「ヘビ子、ここに書いてあるモノを買ってきなさい」
「ヘビビビィー」
ヘビ子は可愛らしい声で返事をすると、白い蛇に姿を変えて大空を泳ぐように翔けて行った。