第117話 虹蛇の祠
「虹蛇様の祠は七色に光る祠のことですか?」
「はい。絶望の森の主である虹蛇様がお住まいになっているのが虹蛇様の祠です」
ゲームとは少し異なるが七光の祠のことで間違いないだろう。終焉の魔女と対峙することになるのならば光の宝玉は手にしておきたい。
「終わりの森へ行く前に虹蛇様の祠へ行きたいと思います」
「あの場所へ行くには終焉の魔女様の許可が必要になります……が、もう、私は敵対する身なので許可の必要はないでしょう。しかし、私の闇の魔力の結界は虹蛇様に通用しないと思います。それでも虹蛇様の祠へ向かわれるのでしょうか」
何も対策をせずに終焉の魔女の元へ向かうのは自殺行為に等しいだろう。かなり危険な場所だが行くしかない。
「はい」
私は声を震わせながら返事をした。
「覚悟はできているようね。それならお連れしましょう」
私たちは帆馬車へ乗り込んだ。
「リーリエさん」
ローゼは不安げな私の気持ちを悟って手を握る。
「大丈夫よ」
私はぎこちない笑みを浮かべる。
「リーリエさんは虹蛇をご存じなのでしょうか?」
ローゼは私の目を見つめる。
「絶望を告げる大蛇よ。今の私たちでは倒すことは不可能だわ」
ゲームでは虹蛇を倒す必要はない。倒さずともゲームはクリアできるからである。ゲームを一度クリアして、2周目で挑戦する裏ボスキャラと言えるだろう。虹蛇の属性は全属性であり、倒すには聖騎士となった私かもしくは聖女となったローゼでなければ不可能だ。
今の私とローゼでは倒すことはできない。だがこの世界はゲームの世界だ。今の私でも何かしらの攻略方法があるからこの場所にいるのだと思う。
「でも勝算はあるのですよね」
「今はなんとも言えないわ。でも必ず攻略方法はあるはずなの」
私は運命を天に任せるしかない。私たちはルポの町で1泊してから修練の森へ向かった。
「虹蛇様の祠のある絶望の森へ向かいます。私が闇の魔法で結界を張りますが、気を抜かないでください」
「もちろんです」
ロベリアは私の返事を確認すると帆馬車を走らせた。帆馬車は修練の森から試練の森へ、そして、絶望の森へ辿り着く。
絶望の森へ入った瞬間に、昼間なのに夜のような暗闇に包まれる。帆馬車の窓にはカーテンがかけられていて外の様子はわからないが、魔獣の奇声が鳴り響き、この世とは思えない雰囲気が漂っている。
「ローゼ、絶望の森へ入ったようね」
私は怖さを紛らわすためにローゼへ声をかける。
「そうですね。なんだか嫌な空気に包まれている感じがして怖いです。リーリエさん、手を握ってもよろしいでしょうか」
私は返事をせずに手を差し出した。するとローゼは微笑みながら私の手を握る。
「リーリエさん、ローゼさん、今から虹蛇様の祠へ向かいます。馬車が激しく揺れたりしますが、何があっても絶対に外には出ないでください」
「わかったわ」
「わかりました」
ロベリアの言葉通りに帆馬車は急に激しく揺れ出した。私とローゼはお互いを支え合いながらやりすごす。
「た……助けてくれ」
「ぎゃー」
初めは歪な魔獣の奇声が聞こえてきたが、次第に人間の声が聞こえるようになってきた。私はこの声たちの主を知っている。それは絶望の森で命を落とした者のレイスである。この絶望のレイスは光魔法を使えるローゼなら簡単に退治してしまうだろう。だが光魔法が使えない一般人の私にとっては絶望的な強敵となる。しかし、ロベリアの闇魔法の結界の効果で戦わずに先へ進めるのは非常に助かる。1時間ほど異形の叫び声と激しく帆馬車を叩く音が続いたが、いつしか何も聞こえなくなり逆に静寂が支配するようになった。
「リーリエさん、虹蛇様の祠に着きました」
「了解よ。もう、降りても大丈夫なのかしら?」
「虹蛇様の祠の辺りは1匹の魔獣もいませんので問題はありません」
これはゲームと同じ展開である。絶望のレイスを倒すと全く魔獣が出現しなくなる。それは虹蛇を恐れている魔獣が近寄らないからである。私とローゼはロベリアの許可が下りたので帆馬車から外に出た。すると目の前には朽ちた木で作られた1mほどの、怪しく七色に光り輝く祠があった。ゲームではこの七光の祠の扉を開くと光の宝玉が手に入る。
「ロベリアさん、虹蛇はどこにいるのかしら」
ゲームでは七光の祠の門番として虹蛇が大きな山のようにとぐろを巻いて鎮座していた。しかし、現実世界では虹蛇の姿は見えなかった。