第116話 虹蛇
私たちは光の渦に包み込まれて時空の壁をすり抜ける。その時、私たちの目には走馬灯のように過去の出来事が断片的に駆け巡る。そして、私たちがエンデデアヴェルトでプリュトンに勝利した場面で走馬灯は消えて、ロベリアが帆馬車で旅立つ時間軸へたどり着いた。
「リーリエさん、成功しました」
「ありがとうローゼ」
私たちは過去へ戻ることができて喜びを噛み締め合う。
「さっそく、ロベリアさんを追いかけるわよ」
「はい」
ロベリアを乗せた帆馬車はコトコトとのんびり道を進んでいく。そこは周りには誰もいないのどかな平原だった。
「ロベリアさん、ロベリアさん、ロベリアさん」
私は大声で叫びながら帆馬車を追いかける。すると帆馬車は静かに停止した。
「ローゼ、ロベリアさんが帆馬車を止めてくれたわ」
「はい。これで過去を変えることができそうですね」
私たちは顔を見合わせて微笑んだ。
帆馬車の御者席からロベリアが降りてきて声の主が私だと気付いたようだ。
「やはりリーリエさんでしたか。まだ私に何かご用があるのでしょうか?」
ロベリアは不思議そうな顔で私を見る。
「ちょ……ちょっと、急用を思い出したのです。ねぇ、ローゼ」
私はロベリアを目の前にしてオドオドしてしまい、ローゼに助けを求める。
「実はロベリアさん、私たちは未来から来たのです」
ローゼは私と違い、臆することなく事実を告げる。ローゼの言葉を聞いたロベリアは少しも驚いた様子はない。
「そうなのですね。それで、私に何かご用があるのでしょうか」
「実は未来のあなたは廃人になって王都へ戻ってくるのです」
ローゼはありのままを述べる。
「そうですか……。未来では私は終焉の魔女に負けるのですね。でも、未来がわかったとしても私は終焉の魔女の元へ向かいます」
ロベリアの意思は固い。
「ロベリアさん、勝算はあるのでしょうか?」
私は揺るぎない意志を持つロベリアには何か秘策があるのか尋ねてみる。
「勝算などありません。でも私は闇の魔力をもらった清算をしたいのです」
「廃人になるとわかっていても行くのですか」
「はい。このまま生きていても廃人とさほど変わりません」
ロベリアの意思は強固だ。
「どうしても行くのでしょうか?」
「はい」
「わかりました。私たちもお供させて頂きます」
「……」
「ロベリアさん、勘違いしないでください。これは私たちの未来がかかっているのです。もう、あなた1人の戦いではないのです」
私はあえてキツい言い方をすることでロベリアの理解を得ることにした。
「そうです、ロベリアさん。私とリーリエさんは未来を変えるために来たのです。私たちの覚悟を受け取ってください」
ローゼは私の意図を理解してくれた。
「……。わかりました。私は人生を悲観して闇の魔力に手を出した愚か者です。廃人になる覚悟もありますが、私が終焉の魔女に敗北したことで、あなたたちの未来が奪われるのであれば致し方ありません。一緒に終焉の魔女の元へ向かいましょう」
「はい、喜んで」
「もちろんです」
私たちは手を出し合って堅い決意表明をしてから帆馬車へ乗り込んだ。
「ロベリアさん、これから終わりの森へ行くのですね」
「はい。終わりの森の終わりの小屋に終焉の魔女はいます。しかし、終わりの森へ向かうには3つの過酷な森を通過しなければなりません。特に絶望の森は闇の魔力の残渣が濃いので、普通の人間が立ち入れば、体に悪影響を及ぼすでしょう。しかも、闇の魔力の残滓の影響を受けた魔獣が凶暴化しています。闇の魔力を持たないあなたたちが絶望の森を通過するのは絶望的です。なので、私の闇の魔力で闇結界を張って通過したいと思います」
「それは非常に助かります」
絶望の森は危険な場所だ。ゲームとは違い自分のレベル上げをする暇がなかったので今の私が入れるレベルではない。ここで私はゲームの知識を思い出す。
「ロベリアさんは絶望の森には詳しいのでしょうか?」
「熟知しているとは言えませんが、闇の魔力の練習のために絶望の森を利用したことがあります」
「絶望の森にある七光の祠はご存じでしょうか」
「七光の祠?初耳です」
「そうですか……。不気味に七色に光る怪しい祠なのですが……」
「……ちょ、ちょっと待ってください。あなたがいっているのは虹蛇様の祠のことでしょうか?」
七光の祠とは絶望の森を支配する絶望の大蛇虹蛇を倒すと行けるようになる場所である。七光の祠には闇の力を吸収する光の宝玉が祀られている。この光の宝玉があれば、闇の魔法を使う魔女から闇の魔力を吸収できるのであった。