第100話 黒豚
「それが本当なら王都は大丈夫なのかしら?」
「大丈夫とは言い切れないわ。でも、先にプリュトンを救わなければ、最悪の結末を迎えるかもしれないの」
「メーヴェ、リーリエさんの判断を信じるしかないわ」
「わかったわ。急いで破滅の森へ向かうわよ」
一方王都では、傀儡の魔女となったプリュトンが、学生を傀儡兵にしてフォルモーント城を包囲していた。
「おとなしく城門を開けるブヒ」
「ダメだ!これより先は通すわけにはいかない」
「無駄だブヒ、お前も傀儡兵にしてやるブヒ」
プリュトンより強力な力を得たシュバインを止められる者などいない。シュバインは城門を守る衛兵までも傀儡兵にして、堂々と正面の門から城内へ侵入した。
「シュバイン様、やりすぎでございます。どうか、お気を確かにしてください」
シュバインの暴挙を止める人物がいた。それはナルキッソスだ。
「ブヒヒヒヒヒィ〜。俺は国王陛下を殺して新たな国王になるブヒ。お前は宰相にしてやるブヒから、黙って付いて来いブヒ」
傀儡の力を継承したシュバインは、いつも以上に冷静な判断が出来なくなっている。しかし、常に共にいたナルキッソスとの絆だけは失っていなかった。
「シュバイン様、国王陛下への反乱は即刻死罪にあたります。私はシュバイン様と悠々自適な生活をしたいだけです。宰相など大変な職務になんか就きたくありません」
ナルキッソスは学院内で、権力を振りかざす程度で満足をしている。国を乗っとるほどの大それた事など望んではいない。
「国王になれば富と名声、そして女も手に入るブヒ。お前はそれら全てを諦めろというブヒ?」
「シュバイン様、今でも十分に手に入れているはずです。いき過ぎた欲望は身を滅ぼします」
「ブヒヒヒヒヒ……」
シュバインは王族の落ちこぼれだ。他の兄弟姉妹とも仲が悪く、誰もシュバインとは口も聞かないほど、孤立している。誰も口には出さないが、国王陛下の子ではないことは明らかで、王位継承権も剥奪されていた。
そんなことを全く気に留めない、心臓に毛が生えた性格のシュバインは、自由気ままに権力を使って好き放題しているから同情の余地はない。
シュバインは王になることは諦めていた。しかし、降って沸いたかのように王になるチャンスを手に入れた。傀儡の力を継承して、いつも以上に正常な判断ができないシュバインは、闇の力が導くままに、王城に攻め込んだのである。だが、シュバインの唯一の友達であるナルキッソスの言葉に、シュバインの心が揺らぐ。
「シュバイン様、生徒会室へ戻りましょう。そして、いつものように悪巧みを考えて、生徒たちへ嫌がらせをしましょう」
「ブヒヒヒヒヒ。そうだブヒ。俺は王になるよりも、お前と楽しい学園生活を送りたいブヒ」
ナルキッソスとの友情が闇の力を上回る。シュバインは大悪党から子悪党へと成り下がる。
「ぐわぁ〜」
突如として、ナルキッソスは絶叫した。
「ブヒヒヒヒヒ〜」
それは一瞬の出来事だった。シュバインの目の前で、ナルキッソスの全身が黒焦げになり、その場に倒れ込んだ。
「誰がやったブヒ〜」
「国王陛下の庭を荒らす不届き者は、死をもって罪を償うのが当然の裁きだ。俺様が憎ければ、王城の最上階まで来るが良い」
フォルモーント城を背景にして、黒のオーブを全身に纏った白い仮面の男が宙に浮いていた。
「お前がナルキッソスを殺したブヒ~」
「それがどうしたのだ?お前は国王陛下を殺すために攻め込んできたのだろ?もしかして、怖気づいたのか?腰抜けの豚野郎」
仮面の男はシュバインを挑発する。
「ブヒィ~。お前だけは絶対に許さないブヒ。今すぐに傀儡兵にしてやるブヒ」
傀儡化する方法は、力を継承するごとに簡易化されていく。シュバインの傀儡化の方法は、闇の魔法で無数の小さな黒豚を作り出し、この黒豚に触れたものは傀儡兵となる。この黒豚には小さな翼が生えていて空も飛べるので、逃げるのは非常に難しい。ゲームでの黒豚の対処方法は、聖女の魔法で黒豚を浄化するか、聖剣スーパーノヴァで切り裂くしか方法はない。
「迷える黒豚ちゃん、この世の全てを傀儡兵にして、傀儡兵の楽園を作るブヒ~」
シュバインが命令を発すると、地面から体長30㎝ほどの黒い豚が浮かび上がる。その数は100匹以上。黒豚はシュバインの脳とリンクしているので、命令を出す必要はない。100匹の黒豚は、仮面の男に向かって一直線に飛んで行き、仮面の男に突撃した。