猟太郎の菩薩退治
1
「何事ですか、これは?」
久しぶりに町にやってきた猟師の猟太郎。
古寺に人々が大勢押しかけている。
町の人
「この寺に夜になると菩薩様、観音様、不動明王様、愛染明王様
など、ありがたい天の方たちが降りてくるそうじゃ」
「まさか。そういう扮装してる人が演技する舞台興業ってことですか?」
「いや、本物らしい。ほれ、金を取って境内に入れてる」
「怪しすぎる・・・」
2
夜。かがり火の中、空の一角が輝き、15人ほどの仏像のような一団が降りてくる。
「おお、ありがたや」人々はひれ伏してお経を唱える。宗派関係なし。
開け放した入り口から中へ。
天神たちはずらっと並んで座る。
大金を寺に渡した人たちが一人ずつ願いを訴える。
その時。「ザシャッ!」
潜んでいた猟太郎が飛び出し、得意の弓で中央の菩薩の胸を射抜いた。
そして山刀を振りかざして飛び込み、3人ほどの天神を斬った。
「うわああっ!」人々の悲鳴。
3
すると残りの天神たちは犬、猫、狐、狸などに変わり、逃げ出した。
「見ろ!死骸を!」猟太郎が示すと。
菩薩は体毛が異様に長い年寄り犬に変わって事切れていた。
人々は呆然。
「よけいなことを!」
金儲けしていた寺の僧侶たちが怒って詰め寄ってきた。
猟太郎
「おまえたちも人間じゃない、狼の匂いがする!」
「何を馬鹿なことを」
出血している犬の死骸を持って僧侶に近づく。
「食いたいだろう?生の獲物しかおまえたちは食わないからな」
「ウ・・・ウウウウッ・・・・調子に乗りおって。小僧!」
僧侶は鼻が突き出し、狼の顔に変わる。
人々は境内から逃げ出す。
「食うとすれば貴様だ!」飛びかかってくる。
山刀で応戦。
回りの僧侶たち15人も獣人に変化する。
猟太郎を囲む。
狼男
「あきらめろ。ここから生きては・・・ぎゃっ!」
背中に弓矢。
猟師、陰陽師、まともな僧侶、武士団。総勢百人。
逃げた民間人に変わって怪物たちを囲んでいた。
猟太郎「俺一人で来るわけなかろう」
バトル。そして獣人たちは全滅。
4
町の人
「しかしなぜ妖怪とわかったのですか?
本物ってこともありえるでしょう」
猟太郎
「本物の神様が、お金を要求するなんておかしい。
それに、生き物を殺している罪深い、彼らの考え方からすればですが
・・・私に普通に天神が見えていた。
第一、本物だったら弓矢など通じないでしょう。
何より、普段取っている獲物、獣の気配がしていましたからね。
それにしても天神に化けていた11匹は逃げてしまった。
化ける能力がある。人に化けるかも。
僧侶のふりをしていた狼、犬神族も人に化けられる。
獣人狩りを行って駆除しないと危険ですよ」
5
それから犬のように唸り、吠え、叫ぶ者は
獣人として捕まり、死刑にされるようになった。
獣と人間の違いは羞恥心があるかどうか。
平気で他人の前で、糞尿をしたり、なすりつけたり、唾はき、へどはき声を好んで
聞かせる異常者は発見され次第、獄門の上、斬首されてさらし首に。
判明した親・兄弟・親戚も獣の一団としての疑いで確認、
同様の下品を好む正確であれば、処刑された。
しばらく獣人一掃活動が続いた。
猟太郎の連絡で日本中を調査したが獣同然の人間がすでに多く存在した。
陰陽師や猟師たちが殺しても獣の姿にならず、血が混じってしまったのか、
変身能力を失ったのか、不明。
人間の姿をしていても中身が獣同然の者が現在でも数多くいる。
あなたの隣の人が、上の条件に該当するなら
それは人間ではなく・・・
手本は呉承恩「西遊記」(全3巻)岩波少年文庫版。