ショート 文字を読む
「考える毎に筆は動かなくなる。ぴたりと机に張り付いて離れようとしない」の行からが本編です。其れまでの文章に意味はありません。2000文字までの文字数合わせです。
筆が完全に止まった。何を書いても自分がオリジナルであると証明出来なくなってしまった。一日ごとに、いや、一秒ごとに新しい文章が世に出るのだから、その全てに目を通すことは出来ない。少なくとも、自分が書いているジャンルだけでも目を通すべきだとライトノベルのファンタジーに属する物を書店で買いあさり、ネットで注文し、届いた物を片っ端から読み自分の書いたものと比較していく。うん、これなら大丈夫だ。安心したその時にはネット上に新たな一文が生まれている。
頭の中で描いているものを文字に起こし、それを発信するという技術が発達した今、誰でも物書きになることが出来る。その事が頭を悩ませると共に自分が書くための動機づけにもなっていた。この人の書くものは面白いなあと感じる事もあれば、自分ならここはこう書くだろうと妄想すること自体が楽しいのだ。人の頭の中を覗く事が楽しいと書くと奇妙な人と思われるだろうが、公に許される覗きが文章を読むということではないだろうか。
完成した作品の後日談を勝手に書くという事も出来るようになった、もちろん、著作権を侵害しないことを前提としてだ。リスペクトという言葉では法廷で皆を納得させる事は出来ないだろう。しかし、面白い側面もある。この人物ならこう発言するだろう、こういう行動を取るだろうと想像していたものを、他人が同じように書いてくれている。これだけの文字数を拾っているのだから違う行動を取りそうなものだが、次に何をさせるのか予想できてしまう。そしてページをめくるとその通りの事が書いてあり、うんうん、やはりそうなるよなと頷く。元となった作品の完成度が高く読者へ正しい形で伝わっているのだから、作家としては嬉しい反面、その労力で自分の作品を書いてみては如何だろうかと思ったりするのではないか。
盗作という言葉がある。先に出ていたものに酷似している、というレベルではなくその作品を切り取ったり完全に自分のものとしてしまう行為を指すらしい。どこからどこまでが盗作なのかと考え出すとキリがない。
例えば魔術と科学をテーマとした学生物を書いたとしよう。そこに近代的な単語をいくつか当てはめていき、現時点では存在していない架空の兵器も登場させよう。しかし、それは思いつく限りのものの組み合わせだ。それが偶然重なる可能性はまったくのゼロではない。先述の人の頭を覗くことが出来ないのだから、発表するタイミングの前後でどちらが本家かなどと揉めるのだろう。電話ボックスをテーマに書いたとして、それだけでは盗作には当たらないだろう。受話器に向かって言ったことが現実になる、というレベルまで達していたとしても、それにたどり着くまでの過程や、願いが叶った後の事象まで一緒であれば、盗作なのかもしれない。無論、誰も考えつかないようなトンデモ兵器が名前や構造レベルまで同じであれば、疑う余地はあるだろう。
出来る限り幾つものライトノベルに目を通し、独創性に溢れるものや奇抜すぎて分からないもの、実際にある映画の小説版ではないかと疑うような物もあった。しかし、その作家の他の作品を見れば一目瞭然ではないか。明らかに毛色の違う作品がポンと生まれ、今までのキャラクターと違う動きをし、話のまとめ方もテンポも違う。明らかにその作品だけが浮いていると判断出来れば、そこでようやく疑う余地が生まれるように思う。憧れの作家の作品を読んでいるうちに文体が似てしまう事もあるだろうし、技術を真似るために同じ言い回しをさせようとして、全く同じ文字となることもあるだろう。ネットに上がる文章とは違い、本になるものは編集者や校閲の方々がいらっしゃるから、その時点でストップがかかりそうだが。
考える毎に筆は動かなくなる。ぴたりと机に張り付いて離れようとしない。
私は進まなくなった筆を壁へと投げ出すとプログラミングを勉強しAIを開発した。この世の全ての文章を読み込ませそれがオリジナルであるかどうかを判定する、名付けるのであれば、「剽窃家」だ。こいつに文字を食わせて数分待つとインターネット上の検索結果も含め、デジタル化されているものであればどんな短文とも照合する。試しに自分の書いたライトノベルをUSBメモリに入れ食わせてやったら自分のペンネームが出てきた。恐らくこれは正常に動作している。他の作品でもテストしてみるが予想通りのものとなる。はは、これは面白い。友人にやらせてみると、次のような物が画面に表示された。○○、○○。二人で顔を見合わせ、もう一度試してみると、やはりその文字が出てきてしまう。分析結果を詳しく見るためにデータベースを覗くとどうやら文字化けを起こしているらしい。なあんだと笑う友人を私は真顔で見つめ返す。文字のある文化ならば全て詰め込んだ、フォントも全て取り込んでいる。文字化けをするはずがないのだ、と。では一体これはなんなのだ、と指をさす友人の背後に徐々に影が表れ、そして私達に分かる言葉でこう呟いた。これは盗作ですか? と。