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Invisible Body   作者: 阿久
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ただのきっかけ。まだ始まる前。

 この世界、この現代のこの時代において、取り柄が無い人間は生き辛い世の中になっている。少なくとも、私はそう思っている。


 出る杭は打たれていた、変わっている人は奇異の目で見られていた前時代、そんな時代から、人々の個性は尊重して然る(しかる)べき、多少の違いは目を瞑ってやり過ごすという風潮になってきたこの時代、この遅すぎて目で追えないようなスピードで徐々に変わっているようで、実はシームレスに素早い移り変わりをしてきたこの変化に、どうしても不満を持っていた。少なくとも私は。


 そしてそんな時代に、自分にもきっと他の人とは違う何かがあると思いながら、片田舎のありふれた家の元で17年生きてきた私、上井繋(かみい けい)は、何度となく思い知ったことがある。それは、



         ――――私には何の価値も無い――――



 実のところ私がこの時代に不満を持っていたのは、時代の移り方についていけないからではなく、いちいち他人の個性を尊重するのがめんどくさいからではなく、この、個人の個性が尊重され、受用されている時代に、私が何も無い普通の人間だからである。


 特に秀でた長所があるわけでもない、長続きした趣味道楽があるわけでもない、だからと言って壊滅的に苦労した過去もない。つまるところ私は、私の人生がものすごくつまらなかったのだ。よく見る物語の端っこ、どこにでもいすぎて、誰の記憶にも残らない程度の人生が、私の人生だった。


 特に物珍しく話す事のない人生に私はもう飽きていた。半ば絶望していた。そして諦めていた。

  

 私にはきっと何か才能があるはず。人が羨み羨望のまなざしを向けてくれる特別な何かが。


 しかし私には何もなかった。



 何か他の人との違いが欲しくて、でもそんなに深い意味を持つことも無かったが、私は高校に入る直前に自分の髪を染めた。所謂、前時代なら全く珍しくない"不良"になった。髪を染めていると、それはそれで違った自分になることができ、周りの人の印象に残ることが分かった。だが、現代においてほんのちょっと珍しいだけで、私の周りにはいないだけで、きっとこの世界にはありふれた存在なんだろうとも分かっていた。それでも私は学校をさぼったりせず、普通に高校生活と髪染めを続けていた。


 そして私が、何もかも欠落していた、あのでたらめな存在と出会ったのは、高校三年生になって、自分の進路についても決めあぐねていた頃。それでもまだ澄んだ月日が差す春の宵の時だった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 ――――私は友達から貰った飴玉を口の中でコロコロ転がしながら歩いていた。今日の夕飯は何だろうか。帰ったら勉強する前に飴玉のお返しは何にしようか考えよう。とか。澄んだ夜空を見て考え事をしている時。


 毎日通っていた通学路、行く道ではない帰り道、道の脇の雑草が生い茂っている獣も通らないような道に、投げ出されたように放っておかれた"祠"を見つけた。


 毎日通っていたのに"見つけた"というのは、私は今までそこに、ただの通学路に、そんなものがあるという事に気が付かなかったからだ。まあ、私が三年生になってから帰り路を変えただけであって、帰りという暗がりもあって、気が付かなかったのだ。


 「・・・・・・・・・・・・?」


 早く帰らないといけないのは分かっていたが、私はいかにも気持ち悪い、思い掛けずに現れたその祠の前に、私自身も思い掛けずに近づいていた。暗がりの中で見ても祠と分かったが、祠と分かっただけで、他には何も分からなかったから。


 形はよく見る祠のまんまで、石祠(せきし)ではなく木祠(もくし)の祠。


 もっと詳しく見てみたくなり、スマホの明かりで照らしてみたが、中に御神体があるかどうかは確認できなかった。したいができなかった。なぜなら普通ではあり得ないほど、注連縄(しめなわ)でぐるぐる巻きにされているからだった。普通は前面にだけあるような注連縄が、その祠には前面どころか全面に巻かれていた。注連縄で絞めつけられているようだった。


 しかし他の祠と明確に違うところは、別にあった。絶対にあってはならない違い。見てるだけで罰が当たりそうな違い。――――その祠は、逆さだった。天辺から地面に突き刺さっていた。


 私はとっくに近づき歩む足を止め、その祠をじっと見ていた。

 

 人でなくても、他の祠との違いを持っている祠に、私は好奇心を覚えた。いや、私が感じたのは親近感かもしれない。


 注連縄が注連縄を絞めつけるほどにぐるぐる巻きだったが、しかし一部だけ明らかに、狙ったかのように、縄が"避けられている"窪みがあった。丸く小さい窪み。何のためにあるのか全く分からない窪み。そこだけぽっかり空いてしまっている窪み。何も無いがために逆に違和感を生んでしまっている窪み。


 ジーっと見た。窪みをじっと見ていた。「触らぬ神に祟りなし」なんて言葉はもちろん知っていたが、しかし、日常生活を送るうえでそんな事を意識するはずなんて無く、それでもなんで私はあんなこと思ったのか、なんであんなことをしてしまったのか、今でもよく分からない。


 「えいっ」


 私は口に含んでいた"飴玉"を吐き出し、窪みにはめ込んだ。


 この時私は友達から貰った飴玉を、お供え物としてこの窪みにはめ込んだ。お供え物には到底なりえないくらいの供物を、はめ込んでしまった。ちょうどよさそうと思ってしまった。実際ちょうどよかった。


 そして私は、甘い飴玉には似合わない、木で作られたその祠に、注連縄がここだけを避けるように絞めつけられていた窪みに、


 ――――合掌し、目を伏して、声を出してこう言った。


 「私に、他の人とは違う"何か"をください。才能でも何でもいい。目に見えないものでもいいので、私に他の人と違う何かをください」


 私が犯した決定的な間違いといえば、この願い事だったかもしれない。私が自ら犯したこの間違いのせいで、自分の日常生活を侵されることになるとは思わなかった。手を合わせるだけで、願わない事にはいかなかったとしても、口に出さなければよかった。口に出しただけでこうなる事を知っていたら、私は声にはしなかった。


 しかし、自分の未来なんて分かるわけがない私は、しっかり手を合わせ、切実な気持ちを口に出していた。


 「ふぅ」


 期待なんてもちろんしていないし、していないからこそ気軽に口に出してしまったのかもしれない。


 「何してるんだろ。わざわざ自分の飴までお供えして。さっさと帰っちゃお。」


 ほとんど何も考えず、まるで無意識のように発言してしまったことを疑問に思いながらも、踵を返すようにしてその祠を後にした。


 いいよ


 祠に対して背を向けるように歩きだしてる私の後ろから、聞こえるはずのない返事が聞こえた気がした。


 「え?」


 長々と話したけど、これがきっかけで私の高校生活もとい、人生が大きく変わることとなった。未来どころか明日さえ分からない生活に代わる瞬間だった。


 そして私は次の日の夜。



 ――――頭を残して首から下の全てを失うことになった。

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