真矢良流逃亡術
「いっつつ…うわあ、本格的に一人だよ。どうしようコレ…」
…ん?おかしいな。
いつもならこういう時ミクが「ミクもいるよー?」とか言う筈…
ああ、タグだから発声器官がないとかそういう?
寂しいなそれ。
ともかく、私は立ち上がって周りを見回す。
ニーノと会ったのより、もっと明るい、綺麗な森。
こう、マイナスイオンがひしひしと…
「だ、誰だッ!?」
叫ばれたんだけど!?なんか叫ばれたんだけど!?
少年…と言うか、ショタ?小柄な男子がそこにいたんだが…
…高校生…なんだよな…?ニーノの時も思ったけど。
「お前が誰だよ。人に名前を聞く時はまず自分から名乗りなさい」
「え、あ、高坂千尋デスヨ」
「そうか、高坂か。私は真矢良架葉です、よろしゅー」
「あ、よろしゅ…です」
互いに頭を下げあって、気付く。
敵じゃね、この人。
「…えーと、敵?」
「あ、そっか。えーと、じゃあ、覚悟しろぉ?」
「えー、一対一はちょっと無理…」
「俺も無理だぁ…」
なんなの高坂。何なの。癒しなの?
どうせなら協力者は多い方がいい。信用できるか否かは別としても。
「じゃあ、お互いチームメイトが見つかるまで協力でもする?」
「あ、いいかも。でも二対一で襲わないでくれよ?」
「そんな卑怯な真似するとでも?この真矢良が?」
「確かにしなさそうだな」
くすくすと笑って、腕を組む高坂。
ふふん、私だって馬鹿じゃあないよ。
「もちろん合流した奴に任せて私は高みの見物を」
「やめてくれよ!?」
「なはっ☆」
もちろん冗談に決まってるじゃないか。
ま、それはそうと。
「ここ、何処だろうね」
「さぁ?森の中じゃない?」
分かってる事は言わんでええの。
さて、ここからどうするか…そして。
「おら!」
「うわっ!?」
この、いつの間にかこん棒を振り上げていた馬鹿をどうするかっていう!
喧嘩キックが上手く決まったよ!やった!
でも上手く受身を取って樹を蹴って着地しやがったよ!
…運動神経いいなお前
「いつ発動したのか、なんてのはアレか。会った時から発動してたでしょ」
「あー、やっぱばれるよなー!あはは、架葉ってマジ勘鋭い!」
「テメェーに名前呼びされる筋合いなんざねェーよッ!マジしねっ!ほんの一瞬の信頼を返せばぁーかっ!」
「やぁだよばぁーか」
べ。だってさ!こンの…高坂めっ!
むっかつくっ!すっごくむっかつく!
けど、さすがにあんな奴と戦える気がしない…
うーむ。とりあえず逃げるのが得策なんだろうけど、そんなのなんか悔しい。
「そんなら答えは一つ、あーすおぶびぃーとっ!」
「へーぇ、闘るつもりー?敵うとでも思ってんの?」
「やらなきゃ殺られるだけっしょ?無抵抗に嬲り殺される趣味は持ち合わせてないんだよね」
発動、即詠唱ッ!
早口言葉は苦手なんだけどなぁー、もうッ!
「敬い讃えよ我らが偉大なる―――」
「遅いぜェッ!」
「―――影焔!」
「!」
突っ込んできた高坂が発火!…近い!熱い!
その場から距離をとって、炎の中に見える高坂を目で追いながら。
私は全力でその場から逃げ出すッ!
だって怖いし。ありえんて、高坂。
「あっ、てめー卑怯だぞ!」
そうだね。
「逃げんのか架葉!」
うん。全力でうん。
私は悪くないよねぇー。
だって逃げるが勝ちって言葉もあるもんねぇー!