第74話、俺たちとエレオノールとベリアル
「いいよ。付き合ってやるよ。人間共!!!」
ベリアルと名乗った男はリヴァイアサンさんの死骸を踏み潰した後、戦闘態勢に入る。
こいつは……やばい。
先程までのひょうきん者の雰囲気は既にそこになく、明確な殺意を感じる。
全身が凍りついたかのように動かなくなる。
今までも強者と戦ってきたつもりだが、肌に伝わる殺意のレベルが違う。
「リン…こいつ、かなり出来るわよ」
あのフィーですらたじろぐ。
「えぇ…呑み込まれそうです」
そう言いながらアビィちゃんとマリアさんを横目で見る。
アビィちゃんは足も身体も震えているが悟られない様に歯を食いしばり、短剣を両手で握りしめている。
マリアさんも首にかけているロザリオを握りしめ、何とか立っていると言ったところだ。
「おいおい……この程度で怖気付いてるようじゃ遊び相手にすらならねぇ。とんだ期待ハズレだ。もういい、とっとと殺してやるよ」
そういうとベリアルは呪力を利用して爪を長く、鋭く尖らせる。
そして、一歩、また一歩と近づく。
何か、何かしないと!
いつも通りストレングスでフィーを…いや、明らかに俺たちより強い相手にいきなり接近戦はリスクが高すぎる!
なら遠距離攻撃か?それともアビィちゃんの妨害魔法か?
ダメだ!下手に動いてヘイトがそちらに向いたら一瞬で殺される。
その時、ふと気付いた。
命の危機に瀕した俺が必死に考えた作戦の全てが
仲間頼りであることに。
自分では、この状況をどうすることも出来ないという無力さに。
ゲームなら、仮に失敗してもコンティニューしたり、装備やアイテムを整えて、仲間と作戦を立て直せば良い。
「死んでも次がある」
だが、今はどうだ?
作戦を試してみる?
もしその作戦が失敗したら全員が死ぬ。
だからと言って、自身の武器やスキルを使って敵に立ち向かうことすら出来ない。
「俺は…無力だったんだ……」
言葉に出したつもりは無かったが、そう呟いていた。
「よぉ〜く分かってんじゃねぇか」
ベリアルがニヤニヤと嬉しそうに俺の前に立つ。
そして、爪を高くかざす。
「リン!」
フィーの声が響く。どうやら身体が金縛りにでもあっているらしい。歯を食いしばって身体を動かそうとする。が、動かない。
ベリアルのスキルなのだろうか、ティナさんもアビィちゃんもマリアさんもビリーさんも身体を動かせないようだ。
「死ね」
ベリアルの腕が振り下ろされた。
「全く、何度言えば分かる?俺の雇った者が無力なわけ無いだろう?」
聞き慣れた声と共に、さっきまで目の前を覆っていたベリアルが消え失せる。いや、消えた様に見えるほどの速さで20mほど吹っ飛ぶ。
突然の出来事に腰を抜かしへたり込む。
「怪我はないか?リン?」
エレオノールさんが手を差し伸べる。
「は、はい…」
俺はその手を掴み立ち上がる。
「リン、いいか。よく聞け。お前らもだ。」
そう言うとエレオノールさんは俺たちの方を向き直る。
「何度でも言おう。この中に無力も無能も弱者もいない!俺が認めたお前たちのことを、お前たち自身が卑下することは許さん。」
エレオノールさんはベリアルを指差す。
「あいつが怖いか?あいつに勝てないか?ならば諦めるのか?怖いことも理解している。命の奪い合いに焦りや恐怖を感じることは当然だ」
「一人では勝てないだろう。だか、ここには最高のパーティーと俺の最も信頼する執事とそしてこの俺、シェーンメーアの王、エレオノールがいるんだぞ?」
エレオノールさんはもう一度こちらを向き、今度は少し明るく言う。
「勝てないわけがないだろう?」
「テメェ!!何しやがった!!」
ベリアルが勢いよくエレオノールさんに飛びかかる。
鋭利な爪がエレオノールさんにあと少しで届くと言うところでベリアルの動きが止まる。
「エレオノール様のお召し物に汚れがついては大変ですので」
セバスさんが攻撃を抑える。
防がれたベリアルは舌打ちをしながら大きく後ろへ下がる。
「皆様、現在皆様のお身体が動かないのは、この悪魔のスキルによるものかと。弱った心に入り込み、戦闘意欲を削ぐものでしょう。気をしっかり保つのです。」
セバスさんの一言で皆、ハッと我にかえる。
拳を握る。動く!
「テメェら一体……?」
「なに、そう驚く事でもない。俺とジィは元冒険者だ。リヴァイアサンとの戦闘に備えて装備を揃えるついでに金も稼ぐ。当時の俺たちからしたら冒険者をやった方が何かと効率が良かったからな。」
エレオノールさんの言葉を聞き、ふと思い出した。
リヴァイアサン戦の為に俺たちには渡してくれた装備は、エレオノールさんたちが揃えた物だとは聞いていたが、これ程の力を持つ装備、一筋縄ではいかないだろう。
だからこそ俺たちは
「冒険者を雇って集めさせた」と思っていた。
まさか、これらの装備全てをたった2人で揃えたのか?
だとしたら、この2人は……
いや、考えるのは後だ。今は目の前の戦いに集中しよう。
「いいねぇ、面白れぇ!久々に本気を出せそうだ」
ベリアルはそう言うと隠していたであろう角を顕現させる。
俺でも分かる。さっきよりも呪力が濃くなっていることを。
「悪魔の角は悪魔が悪魔たる証……昔見た書物にそう書かれていました。」
マリアさんが呟く。
「テメェらは全員此処で殺す。」
ベリアルが構える。
「来るわよ!!!」
「各々の最大限の力を発揮しろ。リン、指示とバックアップは任せたぞ。」
俺は大きく息を吸い込み
「はい!!!」
と答えた。
長い期間が空き、本当に申し訳ありません。
少し落ち着いたのでまた少しずつ書いていけたらと思っています。
応援よろしくお願いいたします。




