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第71話、魔物と少年




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



むかしむかし、あるところに、人々から恐れられている化け物が居ました。


しかし、化け物は優しく、臆病で、人に危害を加えることは出来ませんでした。

人類を滅ぼす為に作られた筈の化け物は、その優しさ、臆病さのせいで居場所を失いました。


いや、居場所を剥奪されたのです。命からがら逃げ、逃げ、逃げた化け物は、ボロボロの身体で、波の赴くままに流されました。



そんな化け物が、目を覚ますと、そこは小さな海岸でした。



「目、覚めた?」


「!?」

化け物は、その声に身体を震わせる。

まだ全長2メートル程の小さな自分の身体には、包帯が巻いてある。


「僕の名前はトリトン!君は?」

少年は首を傾げる。


「ない?そっか。じゃあ僕がつけてあげる!!!君の名前は………」


少年は少しの間うーんと考え込む。




「トリゴン!トリゴンはどう?僕のトリトンと、ドラゴンみたいな見た目だから、トリゴン!」


なんというネーミングセンスだと落胆する。


「ダメ?じゃあ、シュッとしてるから、『トリシュ』!どう?」


由来はともかく、良いかもしれない。


「お?気に入ってくれた?じゃあ今日から君はトリシュ!僕の友達だ!」


友達……か。人間を殺す為に産まれた俺に、人間の…友達。


どちらにせよ、怪我で暫くは動けない。下手に抵抗して、兵士でも連れてこられたら骨が折れる。今は従おう。






それから毎日、トリトンという少年は海辺に遊びに来た。俺が食べれそうなものを持ってきて、俺に語りかけながら包帯を巻き直してくれる。


そんな日が一週間ほど続いた。


この一週間、トリトンの話を聞いて分かったことがある。

1、トリトンは近くの村に住んでいること

2、彼の両親が村の掟を破り、追放されたこと

3、残されたトリトンは腫れ物扱いされていること

4、トリトンは俺の心を少し読み取れるらしい



トリトンは両親が生きていると思っているらしいが、話を聞く限り、恐らく処刑されているだろう。

狂気的とも思える程、掟が厳しいからだ。この村は近くに他の集落はない。村の人間を追放と称して処刑するくらい大したことでは無いだろう。


ある日突然、荷物も持たずに家からいなくなるなんて、怪しいにも程がある。

追放するなら、荷物を持ち出す余裕はあるし、手ぶらでは他の集落に着く頃には餓死か、魔物に喰い殺される。





トリトンは、両親が帰ってくると思っている。



可哀想だ。

彼に対し、愛情を抱いている訳ではいい。しかし、恩はある。ここまで回復したのは彼のお陰だ。


ならば、ならば。俺だけは彼の家族でいてあげよう。父でもいい、兄でもいい、弟でもいい。彼の側で、彼の心の穴を埋めてあげよう。


これが魔物として生きることに失敗した俺が出来る事だ。





そう決意してからの日々は、トリトンが来る時間までに、海の魚や魔物を喰らうことにした。自分の強化はしておくべきだろう。


見る見るうちに俺の身体は大きくなり、更に一週間経つ頃には、10メートル程になっていた。


「随分と……おっきくなったね…」


トリトンの声が聞こえる。海岸に近づく。

そこにいたのは傷だらけのトリトンだった。


「ん?この傷?大丈夫大丈夫…。ちょっと転んじゃって……」


明らかに転んだ傷でない。誰かに殴られた様な傷跡だ。


「ほ、本当に大丈夫だって!それよりトリシュ!今日はね……」



いつもの時間、いつもの場所でトリトンのその日あった出来事を聞く。

それだけの日々。これ以上はいらない。この些細な幸せがあればそれで良かった。









そんな日々が1年程経った頃、トリトンからこんなことを言われた。


「トリシュ!実はね、僕、夢があるんだ」


「?」


「僕ね、冒険者になって、色々なところを旅したい!!!」


でもそれは……


「そうだね。村の掟に反する。でも、話せば分かってくれるよ。もしダメならもっと大きくなって、筋肉もモリモリつけて、マッチョになったらまたお願いするよ!」


トリトンは笑いながらポージングをして見せる。


その姿が可笑しくて口元が緩む。

だか、掟を破るのは危険過ぎる。




「正直ね、村のみんなには申し訳ないと思ってる。今までお世話になったのに、村から出て冒険者になるなんてね」


そう言うとトリトンは空を見上げる。


「でもね、この村は、村から出たらダメでしょ?だから、みんなに村の外の素晴らしさを伝えたいんだ!そうすれば、もっと良い村になるよ!」


トリトンはニッコリと笑う。




この子は……どこまでも、どこまでも真っ直ぐなんだ。

この子は自分の親のこと、もう薄々気付いてはいるだろう。


自分の親を殺され、自分自身も酷い扱いを受けたというのに、何故憎まない?殺してやりたいと思わない?








「ねぇ、トリシュ?もし僕が冒険者になれたら、一緒に旅をしない?」


一緒に?


「うん!まだなれるか分からないけどね。でも君の背に乗って冒険も楽しそうじゃない?」



ゴリゴリマッチョの君は重くて乗せたくないな



「ハハハハハ!!!」

トリトンと俺は笑った。


「君みたいな、優しい魔物ともお友達になりたいし、あと、大きな街にも行きたい!あと、魔法も使ってみたい!あとあと……」


キラキラとした目でトリトンは話す。


「あ、長く話しすぎちゃった!そろそろ戻るね。明日、村長に話してみるよ!」


トリトンは、手を振りながら戻っていく。


少し心配だが、あの子と旅か。悪くない。いや、トリトンの夢は俺の夢だ。一緒に叶えよう。


そんなことを考えながら俺は目を閉じた。














その日は、いつもよりグッスリ眠れた。

まぁ、いきなり冒険者になれるとは思わないが、いつか、なれるだろう。




だが、もしかしたら、もしかしたら今日、許可がおりるかもしれない。そうすれば、今日から二人で冒険だ。


トリトンはどんな職が似合うのだろう?王道の剣士?それとも魔術師とか?

どちらにせよ、大きな街に連れて行ってやろう。

見たことないものを、沢山見せてやろう。






いつもの時間まで、海の魔物を喰らう。

ここに来た頃は数メートルだった身体も、今では数百メートルに及ぶだろう。


魔物を狩ることで、戦い方も身についた。

強い魔物でも、俺とトリトンならきっと勝てる。


ある程度時間が経ってから、いつもの海岸に戻る。

トリトンはまだ来てないか。


今日も村で無理な仕事を押し付けられているのか。














日が落ちる。地平線の彼方で太陽が見えなくなる。

トリトンはまだ来ない。








星空が見える。

今日は月も輝いている。

だが、トリトンはまだ来ない。








空が明るくなる。

朝になったみたいだ。

トリトンは……どうしたのだろう。
















そこから次の日、その次の日もトリトンは来なかった。

しかし、トリトンが来なくなってから4日目にして、人の気配がした。

俺は急いで海面から顔を出す。






「おい、本当に見たんだろうな?」


「あぁ、見た!トリトンの野郎が魔物と会ってたんだ!」


「あのガキ、一丁前に『冒険者になりたい』だとか抜かしやがって」


「本当は魔物と結託して俺らを殺す気だったんだろ」


「そうに違いない。そりゃ殺されても文句言えねぇよ」


数人の男たちがゲラゲラと笑う。




こいつらは何を言っている?

殺された?誰が?誰に?何故?



「取り敢えず、ここいらにいるっていうその魔物、人と話せる魔物なんて金になる。もしかしたら利用して村の防衛に使えるかも知れん」




俺は、俺の中のよく分からない感情に任せて海面から姿を出す。



「あぁ、上手く騙して利用して」

そう言いかけた男の首が落ちる。



それに気付いた男たちが恐怖に顔を歪める。


「ウワアアアアァァァ!!!!マーカス!マーカスの首が!!!!」

残った男たちは腰を抜かし、倒れ込む。




ーーー人間、トリトンはどうしたーーー



「ト、トリトン!?あ、ああ、あいつは死んだよ!殺された!」




ーーー誰に?何故?ーーー



「そ、村長だ!!!冒険者になるだなんて馬鹿なことを抜かしたことと」

そう言いかけた男の首を、水が刃のように真っ直ぐ飛び、落とす。







あの子は、あの子は、夢を語っただけで殺されたのか。




そう分かった時、俺の中の何かが壊れた。




必死で命乞いをしているであろう男が五月蝿かったから殺した。





そのまま村まで行った。



村のやつらは皆、恐怖で動けなくなっていた。

都合が良いからそのまま殺した。



弓を射てきた男も殺した。

家も壊した。






ーーー村長はいるか?ーーー



「そそそ、村長はあっちの大きな家の中だ!頼むから命だけはーーー」

そう言う男の身体が真っ二つになり、静かになった。




村長らしき家の前まできた。


ーーー村長は何処だーーー


「わ、私が村長だ!な、何の用だ!」



ーーートリトンは何故殺されたーーー


「ト、トリトン?やはりあのガキ、魔物と繋がっていたのか!」


村長の片手を切り落とす。


「痛いいいいい!!!痛い!痛い痛いいいいあああぁぁ!!!」



ーーー何故殺された?ーーー


「む、村の掟に逆らったからだ!冒険者になろうなど下らない!それに、そうだ!お前のせいだ!お前がトリトンと繋がりを持ったからだ!魔物と協力する人間など、この村じゃなくても当然死刑だ!!!」




ーーー俺のせいーーー


「そ、そうだ!クソ野郎!てめぇが殺したみたいなもんだ!トリトンが大事か?あの野郎、最後まで抵抗せずに殴られて死んだよ!冒険者を目指すには忍耐力が無かったみたいだな!ハハハハハハハハーー」






五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。

俺は魔物だったのに。勘違いしてた。人を殺す為に生まれたのに、勘違いしてた。


そうだ。

俺は魔物だ。人を殺すんだ。


人間の愚かさはよく分かった。もう、何も迷う事はない。

これから俺はーーー








リヴァイアサンとして生きて行こうーーー


遅くなって申し訳ありません!

次は週一で投稿出来るように頑張ります!

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