第60話、俺たちと筋肉とビリーさん
「おっと、自己紹介が遅れたな。私は『ビリー』だ」
そう言うとビリーと名乗る人物はポージングを取る。
「良い筋肉だわ。私はフィー。よろしく頼むわね」
フィーもポージングをする。
恐らくだが、彼らにとって、名乗った後にするポージングには握手の意味合いがあるのだろう。
「ビ、ビリーさん、初めまして。私はリンです。こちらがティナさん、アビィちゃん、マリアさんです」
順番に紹介をする。
「うむ。よろしく。ところで、君たちはビーチから来たように見えたが、何か知っているのかい?」
「あ、はい。私たちは冒険者で、この島のオーナーさんに依頼されて調査をしているんです」
「おや、冒険者だったのか。奇遇だな。私も冒険者をしている」
「そうなんですか!?お仲間は……?」
「いないさ。強いて言うならこの『筋肉』が私の仲間さ」
「良いこと言うわね……」
フィーが感動している。
どこに感動しているんだろう。
「しかしそうか……同じ冒険者として、この騒ぎを見ているだけというのは、私の筋肉が許さない。どうだろう、島のオーナーとやらに掛け合ってはくれないか」
「仲間が増えるのは歓迎ですが……確認のためにステータスカードを見てもよろしいですか?」
「ああ、構わない。見てくれ。私の筋肉も見てくれ」
「筋肉は大丈夫です」
カードを受け取る。まぁ見るまでも無く脳筋だろうけど。
全員でカードを覗き込む。
「こ、これって………」
「な、なにこのステータス……」
ビリーさんのステータスを見て驚きが隠せない。
ビリーさんのステータスは……
耐久力と持久力特化だった。
あれ?攻撃力は???
「このステータスは……」
「私の役職はタンクだ。全ての攻撃を受け止め、痛みを受け入れる」
「でもそんだけ筋肉があれば攻撃力だってあるもんじゃないの!?」
ティナさんが疑問をぶつける。
「確かに。私の筋肉ならば、拳を振るえば威力は相当だろう。だが、しかし、私の筋肉は誰かを傷つける為にある訳じゃない。誰かを守る為にあるんだ」
決まったようにポージングをする。
その姿を見たフィーは涙を流す。
「こんな……こんな立派な筋肉がいたなんて…」
「ま、まぁ、冒険者であることは確認できましたし、一緒にエレオノールさんのところへ向かいましょう」
「あぁ行こう。私の筋肉もそうしたがっている」
こうして俺たちは全裸同然でポージングをしながら歩く変t……ではなく、ビリーさんとエレオノールさんの元へ向かう。
「それにしても、どうして一人なんですか?タンクなら尚更、攻撃できるパーティーメンバーが必要じゃないですか?」
「あぁ。何故かは分からないが誰もパーティーに入ろうとしないのだよ」
その格好のせいですよ。
とは言わない。
「じゃ、じゃあビリーさんからどこかのパーティーに入ろうとしたりはしなかったんですか?」
「何故か声をかける前に皆、逃げてしまう」
だからその格好のせいですよ。
とは言えない。
「いや、どう考えてもそのド変態コスチュームのせいでしょ」
言っちゃったよティナさん。
「おい待て」
ビリーさんは急に立ち止まる。
流石に怒っちゃったか……!?
「こんなところで急に罵らないでくれ。筋肉が喜んでしまう」
「は?」
「いや、え?ド変態って言ってるのよ?」
「んあぁ!!!急に罵るなと言っているだろう!!筋肉が……!筋肉が…!!」
ビリーさんは頬を赤らめながら身体をよじる。
えぇー………ガチのド変態じゃん…
「アンタもしかして………ドM?」
「あぁ。そうだ。筋トレをしている時、自分の身体をいじめ抜いたからな」
よくそんな堂々と言えるな……。
「その筋肉なら納得ね」
フィーはうんうんと頷く。
さっきからこのリスペクトはなんなんだ。
「どえむってなーに?」
「ドマッスルってことですよ。ほら、筋肉が凄いでしょ?」
「そうなんだー!」
アビィちゃんは無邪気に笑う。この子に変な言葉を覚えさせるわけにはいかない。守護らなければならない。
「ティナと言ったな。良い罵りだ。だがしかし、幼い子供がいる前で急に罵らないでくれ。こちらも反応に困ってしまう」
「反応に困っているわよ」
「い、一応アビィちゃんのことは気にしてくれているんですね……」
そんな会話をしながら、悪い人では無いだろうけど特殊過ぎる男、ビリーとエレオノール邸に向かうのだった。




