第26話、俺たちと悪魔と呪術
「かかってくるがいい。下等種族共」
男は手を広げる。
「『ストレングス』!」
フィーに魔法をかける。
「ハァァァァア!!!」
フィーは勢いよく拳を振り抜く。
「フンッ、そんな威力では虫も殺せないよ」
男は手を突き出すと呪術で結界を作り、いとも簡単に防ぐ。
「そこッ!!!」
「残念」
ティナさんの矢も指先一つで防がれる。
「長い間この世界から離れて居たから、少しくらいは期待していたんだけど……やはり下等種族は下等種族か」
呆れた様子で言う。
「じゃあ次はこちらの番だね」
「刃よ。敵を貫け」
そう唱えると何本かの黒いナイフが形成される。
「さぁ、精々頑張って避けてくれ」
「精霊の加護よ!」
連続して発射される無数のナイフをティナさんの精霊術で防ぐ。
「数は多いけどこれくらいなら耐えられるわ!」
「おお、思ったよりやるじゃないか。ではこうしよう」
そう言うと無数のナイフが一つにまとまり、発射される。
そのナイフがティナさんの結界に触れると、少しずつ結界にヒビが入る。
「『リーンフォース』!」
急いで補強魔法をかける。
「へぇ。この攻撃を防ぐのか。思ったよりはやるね」
「でもさ、この攻撃は正面からしか来ないと思ってない?」
男は再び呪術を使う。
「ふんっ!何処から来ようが、アタシ達を結界で包んじゃえば良いだけよ!」
ティナさんは大きな結界を作り、俺たちを包む。
その時、男は不敵な笑みを浮かべる。
「ッ!!!下よティナ!!!」
フィーはティナさんを突き飛ばし何とか回避する。
「まさか初見で避けるとは。随分と察しが良いじゃないか」
「この技を最後に使ったのはエルフの村を襲った時だったよ。正面から勇敢に立ち向かってきたエルフをこの技で背中から刺し殺してやった」
「なるほど確かにあの頃に比べれば下等種族も成長しているかもしれないな」
ティナさんの方をチラッと見る。
「大丈夫。アタシは冷静よ」
「流石よティナ。今は反撃の時をじっくり待ちましょう」
「リンは魔力を溜めておきなさい」
「はい!」
その後もナイフを避けながら隙を見てフィーとティナさんが攻撃をするが全て防がれてしまっていた。
「それにしても君たちの構成はとても分かりやすいね」
「前衛の君、後方からの攻撃と防御のエルフ、そして支援の黒髪ちゃん。って感じかな?」
「本来であれば面倒くさい支援魔法の君から殺すところだが、今回はその威勢のいい奴から殺すって言ったからね。精々必死に支援でもしておいてくれ」
「弱い奴ほど群れたがる。君たちが群れるのは一人一人の能力が低いからだ。下等種族らしいね」
「貴方、足りないものを補い合うことが悪い事だと本当に思っているの?」
「当たり前だ。弱者には分からないだうね」
「そう、じゃあ予言をしましょう。貴方は今から、その弱者に殴られるわよ」
「ハハハハハッ!!!!殴る?君が?私を??笑わせないでくれ!!!私の呪術を破ることすら出来ないのにどうやってやるんだい?」
「正面からよ。貴方の呪術を突き破ってそのクールフェイスを崩してあげる」
「これは傑作だ!!!まだ身体を形成して日が浅いんだ!笑い過ぎて崩れたらどうしてくれる!」
「今のうちに笑っておきなさい。リンの魔法を甘く見た貴方のミスよ」
「じゃあリン、本気の本気でお願い」
「はい!!!」
意識を集中させる。
「『ストレングス』『エンハンス』!!」
最大出力の筋力強化魔法を増大魔法よって更に強化する。
「フンッッッ!」
フィーが大きく踏み込むと地面にヒビが入る。
「乙女の本気を喰らいなさい」
「乙女パンチッ!!!!!!」
大きく振りかぶり、拳を振り抜く。
「凄い気迫だけど、私の呪術結界は破れないよ」
男は笑いながら結界を張る。
拳が結界と当たる間際、俺はもう一つ魔法をかける。
「『ペネトレイト』!!!」
すると、男の結界はフィーの拳によって破られる。拳は予言通りに男の顔面にめり込み、そのまま壁まで突き飛ばす。
「グアッ!!!!!」
「カハッ…………一体……何を…」
「いつまで倒れてんの?これはエルフを騙した分よ」
「精霊よ!我に力を!!!」
「リン!頼むわよ!『フェアリースナイプ』!!」
ティナさんは力を溜め、技を放つ。
「『ペネトレイト』!!!」
それに合わせて同じ魔法をかける。
「クソッ!!!呪術結界!!!!」
男はさっきよりも念入りに結界を張る。
「バーカ。無駄よ」
結界は破られ、男の手足を矢が貫く。
「グアアアァァァ!!!!!」
男は痛みに耐えきれず声を上げる。
「言ったでしょう。予言通りよ」
「何故…何故だ!!いくらまだ身体が安定していないとはいえ、貴様らの威力では私の呪術結界を破る事は不可能なはずだ!!!」
「貴様かッ!?貴様の支援魔法だな!!!」
「はい。その通りです。私が使った魔法『ペネトレイト』は攻撃に防御貫通効果を付与するものです」
「ですが消費魔力も多い為、魔力を回復する時間が必要でした」
「貴方が最初から私を狙っていたらきっと間に合わなかったでしょう」
「クソッ!!!!この…ゴミ共がッ!!!!!」
男は怒りに顔を歪ませながら立ち上がる。
「さっきまではあんなに余裕そうだったのにどうしたの?」
ティナさんがここぞとばかりに言う。
「フフッ…もういい……貴様らはここで殺す。この街ももう要らない。全部殺してやる」
「呪え……呪え……全てを呪え」
男が詠唱を始める。
すると呪術は暴走し、辺りの家具などを無差別に切り裂く。
「嫌な予感がするわ!止めるわよ!!」
「ええ!」
フィーは男に向かって走り、ティナさんはフィーを結界で守る。
俺も魔力を溜める。
次第に呪術の力が増し、男を中心にあらゆるものを切り刻み、衝撃で瓦礫が宙を舞う。
その瓦礫を目で追う。
すると瓦礫の先には部屋の端で小さくうずくまるアビィちゃんが居た。
「ッ!?まずい!!!」
気付いた時には俺はアビィちゃんに覆い被さっていた。
次の瞬間、瓦礫が背中に直撃する。
「いッ!!!!!」
鈍い音がし、背中から血が流れる。ワイシャツに血が染み込み、肌に密着する。気持ちの悪い感触だ。
「アビィちゃん……大丈夫ですか…?」
「……は、はい…」
「良かった……」
「な、なんで……?」
「約束したじゃないですか。ここから連れ出すって」
「リン!!!」
ティナさんが近寄ってくる。
「あんた!大丈夫なの!?」
「だ、大丈夫…です。それより、あの人を止めないと!」
フィーは男まであっと一歩の所まで近付いていた。
「あと…少し……!」
「フハハハハハハハッ!死ね!死ね!!」
男は手を伸ばす。そうすると男の手の前に呪いが集まる。それは少しずつ大きくなっていく。
「これで終わりだ。『カースドヘル』」
そう言うと男は呪いの塊を握りつぶそうとする。
フィーは男の目の前まで進んでいる!あと一歩なのに!!!あと5秒!いやあと1秒あれば!!
俺は自分の無力さに苛立ちを覚えながら願う事しかできなかった。




