第1話、俺?とネカマの罪とオカマ
目を覚ますと見知らぬ天井、見知らぬ部屋、そしてゴリゴリマッチョのオカマがいた。
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俺の名は早乙女 凛。よく「女の子みたいな名前」と言われるが25歳のサラリーマンである。
そんな俺にも誇れることがある。
FPSやMMORPGなど、数多のゲームをプレイしているのだが、それらの界隈ではかなりの有名人だ。何故なら俺は…………
女の子だからだ!!!!!
何を隠そう、この俺、「早乙女凛」はゲームやSNSでは「りんりん」という名前で、17歳のJKということになっている。
だが俺をそんじょそこらのネカマと一緒にしないで頂きたい。「高校生」という設定を遵守する為に、高校生が起床しそうな時間、昼休みの時間、学校が終わる時間、それらの時間に合わせて毎日欠かさずSNSで呟く。
ここで昨日の俺の呟きを紹介しよう。
6月4日(火曜)
6:30
ふわぁ〜(-_-)zzz
みんなおはよ〜!(*´ノ∀`)ノ
今日も学校(´・_・`;)
帰ったらゲームしたーい!ヽ(´・∀・`)ノ
13:30
やっとお昼休み〜!(≧∀≦*)
体育だったから汗かいちゃった(´・3・`)
17:00
学校終わり〜!(ノ`・∀・)ノ
みんなメッセージいっぱいありがとー!ヾ(´・∀・)ノ
帰りの電車でメッセージ返すね〜♡
などなど。これらの投稿を約1年間毎日欠かさず続けている。
時々、加工しまくって真っ白でスラッとした足の写真を投稿したり、ボイチェンで動画だしたりしている。
そう、俺こそがネカマ界の王!いや、女王である!!!
そんな俺が信号待ちついでにいつも通りSNSで呟こうとした時、ボールを追いかけてトラックの前に飛び出る女の子が視界の端に映った。
らしくもない。気付いた時には頭より先に身体が動いてしまっていた。
大きな音と衝撃が伝わってきた。女の子が泣いている。無事だったのか。それならギャンギャン泣くな。バカ。
さっきから騒ついてる周りの声が聞こえなくなってきた。痛みも無くなってきた。俺、死ぬのか。
薄れゆく意識の中で声がした。
「お前は今まで多くの人を騙してきた。例え努力したとしても、それは人を騙し、自らが悦に浸る為の努力だ。そんなお前にかける慈悲は無いと思っていたが……」
少しの間を空けて再び声が聞こえた。
「よろしい。お前の最後の勇気ある行動に免じて第二の人生を授けよう。だが、同時に多くの人を騙した罪も償う事だ。」
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トラックに跳ねられたと思ったら見知らぬ部屋のベッドで横になってる。
病院……では無いだろう。宿って表現が正しいか。う〜ん頭がクラクラする。
「あんらぁ〜。目が覚めたのかしら?」
へっ!?な、なにこの生き物……。えっ、デカっ!?筋肉すごっ!?本当に人間かこれ……
「あなた、街中で倒れてたのよ〜?取り敢えず近くの宿まで運んだケド…具合はどぉ〜お?」
オカマ!?意識ない俺を宿に連れ込んだのか!?貞操の危機!
混乱する頭を落ち着かせ何とか口を開く。
「あなたは……えっ!?」
なんだこの声。俺の声じゃない。これはまるで……女の子の声じゃないか。
「私はフィール。みんなからはフィーって呼ばれてるわ。まだ少しボーッとするのかしら?」
フィール…?それがこのゴリゴリマッチョのオカマの名前なのか。
取り敢えず身体は動くしどこも痛くない。起き上がれるか?
「んっ!」
身体が重い。てか身体が妙に柔らかいというか……特に胸のあたりが……
「なんじゃこりゃあああああああああ!!!!(めっちゃ可愛い声)」
「うわああああ声高いいいいいいい!!」
なんだこれ!?胸?おっぱい!?え、声高い!気持ち悪い!!
「あんらぁ?胸が苦しいの?大丈夫かしら?」
うわ!なんだこのオカマ。いるの忘れてた。さっきから心臓に悪いぞ……。
「あ、あの、助けて頂いて、ありがとうございます…」
「あんらぁ〜いいのよお〜!それよりも、身体は大丈夫?痛いとこなぁい?」
「は、はい。特には」
む〜まだこの声の高さに慣れないなぁ。
「それは良かったわぁ♡それよりも貴女、お名前はなんて言うのかしらぁ?」
名前……まぁ本名で大丈夫だろう。
「凛です」
「リン……リン!んん!いい名前ね素敵よぉ〜!」
「それはそうと、貴女、なぁんであんなところに倒れていたのぉ?」
しまった。色々あり過ぎてそのこと忘れてた。「トラックに轢かれました」って言うのか?あれ?そもそも俺生きてるの?ここって天国?でも天国にこんなオカマいる訳……もしや異世界か?
「リンちゃん、貴女もしかして記憶が曖昧なの?」
こ れ だ !
「はい、実はそうなんです……。この街や国?のこともさっぱりで……」
「あぁ〜んら!そう言うことならこの私に任せなさい!色々と教えてあげるわよ♡」
そんなこんなで、この世界について教えてもらった。
まず1つ、やはりこの世界は異世界だ。そして、人間、獣人、半獣人が人口の殆どを占めているらしい。人間は説明する必要はないだろう。獣人とは顔が獣の様だが、二足歩行で人間と同じように知能もある。半獣人は顔は人間だが耳や尻尾は生えている、文字通り「半分獣人」ということか。
しかし、同時に魔物もいるし、稀だがエルフなんかもいるらしい。
次に、俺が今いる国は『ティエス王国』と言うらしい。この国は人間と獣人の間で協力関係を結んでいて、良好な関係を築けて居るらしい。半獣人の話を切り出したらフィーは少し寂しそうな顔をしてあまり教えてくれなかった。
そして何より、異世界転生モノに良くある「冒険者」という職業も存在するとのことだ!凄い!異世界!って感じ!
フィーはこの街のギルドで冒険者をやっているそうだ。ちなみに歳を聞いてみたら
「あぁ〜ら!それは、ひ・み・つ♡」
とお決まりの反応をされた。
他に何を聞こうかと悩んでいるとフィーが
「あっ!そぉ〜だ!お腹減ってるでしょ?ご飯作ってあげるわよぉ♡」
そう言って走り去っていった。凄いなあのオカマ。料理もできるのか。
まだこの身体には慣れていないがこのまま寝てるわけにもいかない。取り敢えず起き上がってみよう。
「よっこら…「ってうわっ!声高いの忘れてた……」
起き上がって鏡の前に立ってみるが……
可愛い。おいおい本当に俺か??サラサラの黒髪ロングにおっきな目。少し青みがかかってるな。む、胸は……んーよく分からないけど丁度良い理想の大きさって感じだ……。
はっ!!!1番大切なことを忘れていた!!!男の魂、せがれ、ムスコ、リボルバー。そう呼ばれるものの有無である!
そ〜〜っと手を伸ばす……。
!!!!!!!!
ない。
そりゃそうだよなぁ……使う前になくなってしまった。
(てか、なんで制服姿なんだ……俺。)
そう、何故かワイシャツに可愛いリボン、上からピンクのカーディガンを羽織り、ブレザー、そしてチェックのスカート……
「ッ!?これってまさか……!」
『りんりん』だ!!!
そう。俺がネカマしていた時のあの『りんりん』とほぼ同じ設定だ。
ブレザーのポッケの中に手を飛ばしてみたら紙切れが入っていた。
「ネカマをして多くの人を釣った罪をその身で贖いたまえ。その世界で人を救い、人の役に立ち、善き行いをせよ。神より。追伸、見た目はお主のキャラ通りにしておいたぞ。」
(なんだこれ……あの時の声の奴か?あいつ余計な事しやがって。てかなんでリンリンの事知ってんだよ。)
取り敢えずの目標は『この世界で生きること』だな。
その為にもまずは……寝床と仕事を見つけるか。
こうして俺の異世界の生活が始まるのであった。