不格好な指輪の話
昔の話をしよう。
ああ、オレがまだオマエみたいなガキだった頃の話だ。
年越しの祭りでな母さん、お前のおばあちゃんだな、にプレゼントを贈りたかったのさ。
ちょっとした感謝の気持ちって奴だよ。
似合わないって?そう言うなよ。俺にだって純真だった頃があるんだよ。
お前の母さんには絶対に贈らないけどな。
それでだ、何を贈ろうか考えたんだ。
お前も小遣いなんてほとんどないだろ、当時のオレも金なんて全く持ってなかったさ。
年越の時期だし雪の降る季節だ。森に行っても碌なもんがあるわけじゃない。
花とか果物でも摘めれば良かったんだがな。
全部、雪の下だ。
そうだな、夏至の祭りの時に贈っとけばよかったな。
でも、思いついたのが冬。贈りたいときに贈らなきゃ忘れちまう。
で、オレの宝箱を漁るわけだ。
まぁ、入っていたのはたいしたものは無いし、良さそうなのはだいたい親から貰ったモノばかりだ。
自力で持っていたものはヘンテコな木の枝、犬に似た石、セミの抜け殻。な、たいしたものはないだろ?
でもひとつだけよさ気な奴が有ったんだよ。夏の間に川で見つけた透明で綺麗な小さな石さ。
なに、あまり珍しいものじゃない。探せば今でも有るだろうさ。
今の時期に探すのはごめんだよ。雪を掘り返さなきゃならない。
そいつをグルグルに針金で巻いてな、いや、もっと細い奴だ。
指輪を作ったんだよ。
不格好な指輪でな。
石を固定するために何度も針金を巻き直して終いには石なんてほんのちょっとしか見えなくなったさ。
そうだ、気を抜くと石が落ちるんだよ。だから縦にも巻いてやってな。
ん、贈ったさ。針金だって宝箱に入る程度には当時の俺には大事な物でな。
簡単には手に入らなかったしな。
喜んだだろうって?いや、怒られた。「こんな変なもの作ってどこに着けていくんだ。」ってな。
でもな、その贈った指輪はずっと母さんの宝箱に入っていて、最後は棺桶にまで持っていった。
まぁ、そんなもんだよ。
オマエが考えて作ったものはオレの作った指輪よりよっぽど上等さ。
オレへのプレゼント?要らないよ。
こうして話していられるのが一番のプレゼントだ。