第1話目覚め
書き貯めするのに一話だけ投稿しようかと思いましてw
「皆さん!こんにちは、こんばんは。みろじゃです!えー、今回はブラクレ999周回目の動画です。いやー、長かったですねー。」
これは、そこそこ有名なゲーム実況の生放送である。視聴者数は毎回数千人はいる。
「流石に999回目ともなるとそこらのボスなんざ雑魚よ雑魚。そこらのモブと変わらない強度www。はい、リター・デス・リーツも弱攻撃でワンパンですねw初見の時はこいつに何回殺されたことか…」
当たり前だが、999周目ともなると既にステータスはカンストしており、キャラクターはこれ以上成長する余地がない。
数時間が経ちブラクレは進んでいった。そして、最後の敵の前まで来ていた。
「お、そろそろラスボスの登場ですねー。そいっと…やー999回も同じシーンを見ると流石に飽きますねwサクッと倒して今日はぐっすり寝たいです」
そうこう言っているうちにブラクレの画面上ではラスボスが現れる扉の前に到着していた。
「やっとこのクッソ長い企画が終わりそうです。せっかくなので弱攻撃ではなく、エンチャ込みの強攻撃で屠っていこうとおもいます。
まず、「光の息吹」で火力を上げて「耳障りな鐘」で相手の防御力を下げます。
次に、「雷竜の血」で雷エンチャをして相手の弱点属性を付与します。
最後に愛用の「古狼の大剣」の剣技で土手っ腹に……ズドンっと風穴を開けてゲームクリアです!」
「おっと、999回目のエンディングはどうしようかな。やっぱりみんな大好き「陰の王」エンディングがいいかな。」
みろじゃは画面上の男を操作し、たった今殺したボスの頭蓋を喰わせた。これは数個あるエンディングの一つ「陰の王」である。
いつも通りのエンディング。主人公の男が陰の者どもから王と崇められ世界で唯一光を放っていたオレオール城を陰に沈め、世界を我が物とした。
「はい、ご視聴ありがとうございました。やー、長かったですがお付き合いしてくれた皆様本当にありがとうございました。これからもみろじゃのゲーム実況をよろしくぅっ!」
みろじゃは生放送を終了させ、ブラくれを終了させようとしたそのときだった。
「ふざけるな……」
急に声が聞こえた。999回もブラクレをプレイしてきたみろじゃも知らない声が。
「や、やっぱり1000周目に突入する時に何かあるかとは思ってたけど隠しイベントか!くそー、生放送終了した途端にかよ。とりあえず、録画だけして後でupするか。」
使い慣れたキーボードを使用し、みろじゃは録画を開始した。
〜〜〜数時間後〜〜〜
「だぁああっ!やっと終わったぁ。マジで硬すぎる!さすが裏ボス(?)だったぜ。これでゆっくり寝r……」
その時、画面から眩い光が溢れ出し世界を覆った。
*
深い森の中、木が生い茂り光が入らない闇の中。そこに一人の男が立っていた。今しがた目覚めたかのような心地の良い感覚が身体を巡る。
「………。」
その男は現状をうまく理解することができていないようだった。
「何処だ。」
眼下に広がるのは森だ。
よくわからないが一旦拠点に帰るべきだろうと腰についている神聖魔法の媒介になる暗黒の聖書を手に持ち『帰還』を使用した。
しかし、神聖魔法が発動することはなく男は帰ることができなかった。男は仕方なしにここで戦える分の装備とアイテムがあるか確認を始めた。
カバンの中には各種ポーションが10本以上。毒消しなどの丸薬も十分にあり、エンチャントに使う炎龍の血と雷竜の血もそれなりにある。
武器も愛用の「古狼の大剣」サブ武器には「聖騎士の黒直剣」左手には魔法媒介用の「暗黒の聖書」、「古龍の角」、「悪魔の静鈴」全て異常はない。
準備は整った。男は森を出ることにした。
*
男は三日三晩寝ることなく歩き続けようやく森を抜け、人が踏み固めたであろう道に出た。
その道には看板があった。どうやら矢印の方に人が住む街があるようだ。
「……。」
男は行くことにしたようだ。矢印の方へ歩き出した。
*
「ん?お前さん見ない顔だねぇ。商人には見えねぇし冒険者かい?」
男は街に入ろうとしたところに声をかけられていた。見たところ、この街の門番のようだ。
男は顔には出さなかったが多少なりとも驚いていた。生きた人間に会うのは久しぶりだったからだ…。
「……。」
男は黙って首を振った。
「んーそうかい。一応、街に入るには銀貨5枚を徴収する決まりなんだ。しっかしお前さん不思議な格好をしてるなぁ。まさか、大道芸人かい?」
少しおちゃらけた様に笑う門番を横に「この街ではこの格好は変なのか?」と疑問に思う男であった。
この格好とは、トレンチコートにハットを被り、顔には目から下を覆う金属製のマスクを付け背には大剣を背負っていることを指している。
「……。」
門番に金を渡し街に入ろうとすると門番に止められた。
「お前さんよ、どこの銀貨かしらねぇけどよこれは使えねぇよ。この国ではフィーロ硬貨しか使えねぇんだわ。フィーロ硬貨がねぇんなら、質屋にアイテムなんかを売って金にするしかねぇな。」
男は枚数を倍にしてもう一度銀貨を渡した。
「あー、これを売るってか?まあ、大丈夫…なのか?まあ、あの質屋のおっさんなら割といい値で買ってくれそうだしなぁ。わかった。少し待ってろ。」
〜〜〜数十分後〜〜〜
「遅くなって悪いな質屋自体はすぐそこにあるんだが買い取りに時間がかかっちまってな。割といい値で売れたぞ。銀貨15枚だ。質屋のおっさん曰く、『掘られている絵がとても素晴らしい精密かつ芸術的だ!その上銀の純度も高く見える…』らしい。なんでも、銀の純度がきちんと調べられるならもうちっと値が上がるかもって言ってたがそんなんしてたらお前さん夜まで外で待たせちまうことになるからな。それで良かっただろ?」
「……。」
男は頷くだけで声を出さなかった。
「そうかそうか。それじゃあ、差し引いて銀貨10枚を渡しておくぞ。ようこそ『ナチャーロ』へ。お前さん、仕事がねぇなら冒険者ギルドへ行くといい。説明はカウンターの綺麗なお姉さんから聞いた方がいいだろう!」
門番はニヤニヤしながら男を温かく迎え入れていた。
*
カランカラン。
木造二階建ての割と大きい建物。建物の中は少し人気が少なく、カウンターの奥で慌ただしく走り回る女性が見える。他には酒場のような休憩所が隣接されているようだ。そこにはちらほら武器を背負った者がいる。
「あっ誰か対応お願いしまっキャーっ!」
奥の方で誰かが転ぶ音と大量の紙が散らばる音が聞こえた。
「もう、ナターシャったら…あら、いらっしゃい。依頼ですか?」
カウンターに出てきた女性は紺色の髪を頭の後ろで一つに結び身体はスレンダーでこの冒険者ギルドの制服であろうものを身につけていた。そして、メガネが真面目さを際立たせていた。
「……。」
男はもちろん首を振った。
「あら、じゃあ冒険者登録かしら?」
「……それで仕事がもらえるのか?」
「ええ、冒険者に登録後は掲示板に張り出されている依頼を受けて依頼を達成後にお金が支払われるわ。どう?冒険者登録する?」
男は数秒沈黙し、頷いた。
「それじゃあ、登録料として銀貨1枚とこの用紙に名前などを記入して欲しいんだけれど読み書きはできる?」
「……。」
男は首を振った。
「そう、じゃあ、代筆するわね。名前は?」
「………無い。」
「無いの!?流石に無いってことはないんじゃ無いかな?友人や親からはなんて呼ばれていたの?」
「……戦友からは陰……と呼ばれていた。」
職員の女性は苦笑いを浮かべどう対応していいか悩んでいるかのようだ。
「そ、それは名前じゃ無いと思います…よ?」
「……そうか、じゃあ何か適当につけておいてくれ。」
「は、はい。(まじか!人の名前をつけるなんてどうすれば……)」
職員の女性は数分間唸り続け絞り出すように男の名前をこぼした。
「アスター。とかどうでしょうか?この地方で咲く花の名前なんのですが暗い森の奥でしか花を咲かすことがないと言われる花で……やっぱりダメですよね…」
「………いや、それでいい。」
「そ、そうですか…なら、アスターさん。年齢と出身地、主な戦闘手段をお願いします。」
「年は数えたことがない。出身地は…わからない。基本的に大剣を使い戦闘を行う。」
「はい、これで冒険者登録が完了しました。簡単な説明を行います。まず、冒険者ランクです。冒険者登録をされますとEランクから始まり、依頼などをこなしていくことでランクが上がります。ランクはE〜Aまであります。依頼中は依頼表を門番に見せれば街の出入りにお金はかかりません。あ、でもこれは街の外に出る必要がある依頼だけですよ!……と、簡単ですが説明は以上になります。質問などありますか?」
「ない、とりあえず適当な依頼を受けさせてくれ。」
*
これはゲーム実況者…ではなく、ゲームの中のキャラクターが剣と魔法の異世界に転移してしまったお話である。
みろじゃ「なんかすげー光ったけどこれで終わり?つか、俺のキャラがいねーじゃん!は?バグ!?」
(次回はいつになるのやら…ボソ