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事件部の日常

作者: 堀田公輝

どうも!堀田公輝です!別のところでは骸で、それ以外では本名でお世話になっております!

この作品はポプラ社ハラハラ賞に投稿させていただく作品です。

ここは東京にある北山第1中学校。普通のどこにでもありそうな中学校だ。しかしこの学校には、他のどの中学校にも無い様な部活が、一つだけある。

『事件捜索解明部』通称事件部。

学校内外の事件の真相を捜索、解明するこの部は、リーダーの三神祐介を筆頭に様々な分野で天才と言われた中学生5名が集まる異色の部活動である。

そんな彼らのもとに、また依頼が一つ──



「あーあ。暇だねぇー」


「暇ってことは平和ってことだろ?良いじゃねぇか」


ここは北山第1中学校の事件部の部室。そして最初に暇と言っていたのは大原大吾。口調が不良そうに聞こえるが、実はコンピューターの天才で、彼にかかれば(ほとん)どのセキュリティなど無いに等しい。彼に聞けば大体のことは分かる程の天才である。


そして次に喋っていたのは牧田将吾。こちらも不良の様な口調だが当然こちらも天才である。こちらは電子機器の製作の天才である。今も馬鹿なことを喋っているが手は理解できない様な複雑な機器をいじっている。


「そうよ。平和なのは良いことだわ。凛もそう思う?」


「そ、そうですね。ひっ!大吾さん、そんな目で見ないで下さい!」


「目つきが悪いのは生まれつきだよ!」


今の女子2人は双葉小雪と佐倉凛。双葉の方は可愛い名前だが暴力の──失礼、武術の天才である。そしておどおどしていた佐倉凛は、単純に天才である。要するに異常に頭がいい。学校に入学してから1度もテスト1位を譲ったことが無いという本物の天才で、もう大学生の勉強をしているという噂だ。


ちなみにこの部活のメンバーは全員中学2年生で構成されている。結成した当時は白い目で見られていたが、そのメンバーの実績から徐々に認められ、今では広く知られている。


その時、部室に電話のけたましい音が鳴り響いた。


「はい、事件捜索解明部です。──はい、ご依頼ですね?分かりました。今からお伺いします」


そして今電話を取ったのが何を隠そうこの部活の部長、つまりリーダにして暗号学の天才、三神祐介だ。

暗号学とは暗号の解読や作成をするもので、中学生ながらに暗号検定、という検定に一発合格したほどの天才だ。


「調査の依頼が来た。今から事情聴取に行くから凛は一緒に来てくれ」


「わ、分かりました。いつでも行けます」


三神は事情聴取に行く時は必ず凛を連れて行く。当然といえば当然のことだが、もはや事務作業なので面白味がない。


「じゃあ行ってくるよ」


「「「行ってらっしゃい」」」


この辺もルーティーン化しているが、一緒にいる時間も長いので、ぴったりと揃う。


「そ、それで今回の依頼は外ですか?中ですか?」


この『外』『中』というのは学校外の人からの依頼か学校の生徒からの依頼か、という意味である。


「今回は中だ。1年5組の吉田麻里という生徒からの依頼で、要件は人探しだそうだ」


「ひ、人探しですか…なぜ警察に頼まないんでしょう?」


「それは本人に聞かないと分からないだろう。クラスで待っていると言っていたから行けば分かるだろう」


そんな話をしているうちに1年5組の前に来てしまった。


「し、失礼します…吉田さん、ですか?」


「はい、吉田麻里です。依頼を受けてくださりありがとうございます」


「俺が部長の三神だ。それで、君が俺たちに依頼したい事件というのは?」


「はい。実は私の親友の松田美加子ちゃんが行方不明になっていて、その行方を捜して欲しいんです。いなくなったのが分かったのも昨日の夜分かって…」


「行方不明?何故警察に連絡しなかったんだ?」


三神が怪訝そうな顔をすると吉田はうつむきながらこう言った。


「はい。美加子はよく家出をするんです。なんでも親とあまり上手くいってないらしくて。家出して、3日か4日くらいすると戻ってくるってことが多いんです。警察にもそれを理由に依頼を断られてしまって…」


「そ、それなら何故私たちに依頼を?いつもなら3日から4日すると戻ってくるんでしょう?いなくなったのも昨日の夜なんでしょ?」


確かにもっともな意見だ。すると吉田は顔を上げて声を強めてこう言った。


「それなんです。実は彼女の部屋にこんな紙が落ちていて…」


そう言って彼女は自分の制服のポケットから一枚の紙片を取り出した。


そこには丁寧な字で『せそに/けて/けつ/てくお/えあにせ/そか/けせてちそえとうてけそせ』と書いていた。


「恐らく、これは暗号だろうな。これが松田さんの部屋に?」


「はい、机の上に乗っていて、三神さんなら解けるのではないかと思いまして」


「分かったよ。これは帰って検証してみよう」


「お願いします。一応これで全部なんですけど他に何かありますか?」


「そうだな。最近、松田さんに何かおかしいところとかなかったかい?」


そう三神が問うと、吉田は思い出したかの様にこう言った。


「そういえば、美加子は遊園地に行きたい、って行ってました。彼女はどちらかというと絶叫系とか苦手な方で、そんな美加子が遊園地に行きたいだなんておかしいな、って思ったことはありました」


「遊園地か…分かった。ありがとう。暗号の方は解けたら連絡するよ」


そう言って三神と凛は教室を後にした。


「み、三神さん。その暗号解けそうですか?私には無規則にひらがなが書いてあるだけのように見えるんですが…」


「そうだな。とりあえず部室に戻ってゆっくり考えよう」


そんな会話をしながら2人は部室に戻り、今回の件をまとめることにした。


「どうだ大吾?その松田さんの家の情報は分かるか?」


「ああ。父親はここら一体の建物とか建ててる大型企業の社長だな。母親はいたって普通の主婦だ。彼女自身も普通のおとなしい女子で、成績も悪くない。」


「頼んどいで何だが、お前のその情報どっから来てるんだ?


「そりゃあ企業秘密だ。いくら三神といえど教えれないな」


「そんなことより暗号を警察に見せなかったってことは見せたくない理由があるんじゃないの?普通そんな怪しいものがあったら見せるでしょ」


「おお…小雪がまともなこと言ってるぞ…今日雪でも降るんじゃないか?小雪だけに…って痛!小雪、殴んなよ!痛いだろうが!」


「あんたがバカなこと言うからでしょう?なんならもっとやってもいいよ?」


大吾と小雪はいつもこんな調子なので誰も気にしない。この辺も事件部の日常の一部だ。

すると三神が顔を上げて


「あーうん。暗号解けたぞ」


と言った。まだ部室に帰ってきてから10分ほどしか経っていない。


「も、もう解けたんですか?それで、暗号はなんて書いてあったんですか?」


『Now, it is the dawn of Introduction』 と書いてあった。凛、これを日本語訳するとどうなる?」


「はい、えーと…『さあ、序章の幕開けだ』になりますね。厳密にはちょっと違うんですけど、前後の文脈に合わせるとこうなります」


「でもよ、何であの訳の分からんひらがながそのナウイットなんたらかんたらってのになるんだ?俺にはさっぱり分からねぇよ」


「将吾、お前に分かったら俺の存在が危うくなるだろ。この暗号はまず、『せそに/けて/けつ/てくお/えあにせ/そか/けせてちそえとうてけそせ』というひらがなを、『あ』から何文字目なのか数字で表すんだ。例えば最初の『せ』は『あ』から数えて五十音順で14番目。『そ』は15番目、という風に数字にする。次にその数字を英語の『A』から何番目なのか当てはめていく。『A』から14番目のローマ字は『N』15番目は『O』という風に当てはめていけば、『Now, it is the dawn of Introduction』という風になるんだよ」


「相変わらず訳の分からん脳みそしてるよな。何でそんなのが10分足らずで出てくるんだよ」


「人には適材適所ってものがあるからな。将吾にはその分機械で頑張ってもらうから安心しろ」


微笑みながら三神が将吾にそう言うと、将吾も分かっているとばかりに悪い顔で笑った。


「で、でも『序章』ということは、これはまだ始まりだ、ということですよね?」


凛がそういうと、さっきとは一転、厳しい顔で三神は頷いた。


「ああ、凛の言う通りだ。これは俺の予想だが、連続誘拐事件になりそうな気がするな。そこでみんなに聞きたいんだが、これを警察に言うべきだと思うか?」


「俺は言うべきだと思うね。連続誘拐なんかになったら俺たちじゃ犯人を特定するまででいっぱいいっぱいだ。誘拐された人を奪還するなんて無理だと思うからね」


「俺は大吾とは逆の意見だ。警察はアテにならん。連続して事件が起きる前に対策するべきだと思う」


「私も将吾と同意見ね。そうなると分かっていれば未然に対策もできる」


「わ、私は警察に言うべきだと思います!相手が武力行使してきたら私たちでは小雪以外戦えません!」


「半々か…珍しいな。将吾と大吾の意見が割れるなんて」


「そりゃあ意見が割れることもあるだろ。なあ将吾?」


「当たり前だぜ。で、三神。どうするんだ?警察に言うのか?言わないのか?」


皆の視線が三神に集中する。そして少しの沈黙の後、三神は結論を出した。


「とりあえず今の段階では警察には言わない事にしよう。今の情報だけじゃ連続誘拐事件に発展する確証も無いし、この情報量じゃ警察も動いてくれそうに無い。大吾、凛、いいか?」


「俺は三神がそう言うんならいいぜ」


「わ、私も三神さんがそう言うなら…」


2人が頷いたのを見て、三神はさらに続ける。


「じゃあ大吾は過去の連続誘拐事件について調べてくれ。今回の事件と類似点があったら知らせてくれ。将吾は相手が武力行使してきた時を想定して対策できる物を作ってくれ。小雪は学校内で松田さんについての聞き込み、凛は小雪について行ってくれ。みんな、今回の事件は忙しくなるぞ」


三神がそう言うと、皆心得たとばかりに自分の持ち場へ散って行った。


「とりあえずは事件に進展があるまで地道に調べていくしかないな」



しかし、事件の進展はその次の日に起こった。


三神が学校に行くと、大吾が走って駆け寄ってきた。


「おい三神!大変だ!俺たちが依頼を受けた生徒の名前って吉田麻里って名前だったよな!?」


「ああ。そうだぞ。どうしたんだ?」


「その吉田って奴、昨日行方不明になったらしいぞ。話によると昨日の夜『ちょっと出かけてくる』って行ってそのまま帰ってこなかったらしい。警察は誘拐だと言ってるがこれってよ…」


「ああ。嫌な予感が当たったな。警察はこれが最初だと思っているみたいだが、俺たちだけが知ってる。これは2件目だ。連続誘拐事件、か…」


深刻な表情で頷く三神。


「とりあえず放課後に部室で話し合おう」


そう言うと2人は自分たちの教室に急ぎ足で向かった。


5人は同じ部活とはいえクラスは違う。しかも全員違うクラスなので、放課後になるまでゆっくり話せない。


あっという間に時間が過ぎ、今はこの日最終の6時間目。


「おい三神!何ぼーっとしてるんだ、」


授業中も誘拐事件のことが頭から離れず、先生にも怒られてしまった。


「すみません真田先生。集中しますね」


真田先生は2年生の数学を担当している先生だ。若いメガネをかけた先生で、女子生徒にはかなり人気のある先生である。


しかし先程のように不真面目な生徒には厳しく、怒ると怖い。


「最近また事件部で何かやっているらしいじゃないか。集中してないのはそのせいか?」


「いえ、そんなことはありません。ちょっと寝不足でして」


真田先生は事件部のことに関してはあまりいい顔をしない。つまり事件部のことが嫌いなのである。結成当初も最後まで結成することを反対していたのはこの真田先生で、先生曰く『警察の真似事などバカバカしい』だそうで、三神が珍しく嘘を付いたのもそのせいだ。


「三神、授業が終わったらちょっと俺のところまで来い。話がある」


また面倒なことになったな、と内心思いながら三神が頷くと、真田先生は何もなかったかのようにまた授業を再開した。

授業が終わり、三神が真田先生の所に行くと、真田先生は険しい顔をして話し出した。


「今日吉田麻里が誘拐された、というのは知っているか?」


「はい。まあ一応」


「すぐに首を突っ込みたがる事件部のことだ。今回の事を調査しようとでも思っているのだろうが、お前たちは今回の事に手出しするな。いいな?」


言葉の一言一言に毒があるが、そんな事を気にしている場合ではない。


「何でですか?一刻も早く事件を解決するためです。それに、あなたに事件部の行動を制限など出来ません」


「忘れたとは言わせないぞ三神。お前たち事件部の顧問は私だ。勝手な真似は許さん。いいな?分かったら部活のメンバーにも知らせろ」


そう言うと真田先生は職員室へ戻って行った。

しかしそんな事に時間をとられるわけにはいかない。ただでさえ今の説教で5分ほど時間が過ぎてしまっているのだ。三神は小走りに事件部の部室へ向かった。



「遅いぞ三神。何やってたんだよ。もうみんな揃ってるぞ」


「すまん大吾。真田のやつに色々言われてな」


真田、と言う名前を出すと他の4人の顔が明らかに曇った。


「さ、真田先生が何の用で三神さんに?」


「それも合わせて改めて話しておきたいんだが、俺たちが先日話を聞いた吉田麻里さんが行方不明になった。警察は誘拐だと見て捜査しているらしい。それと合わせて真田に今回の事件には手を出すなと釘を刺された。俺が遅れたのはそれを真田に言われたからだ」


そう言うと小雪が即座に反応した。


「で、三神どうすんの?このまま真田の言うこと聞いて引き下がるの?」


怒った様な口調で三神に問いかけると、三神は首を振った。縦にではなく、横に。


「いや、俺たちはこのままこの事件について捜索する。これが連続誘拐事件だと知っているのは俺たちだけだし、何より依頼を途中で中断など絶対にしない」


力強くそう断言する三神。それに真っ先に反応したのは大吾と将吾だ。


「それでこそ三神だ。いいぜ、やってやろうじゃねぇか。なぁ将吾!」


「おうよ。俺たちでやってやろう」


小雪と凛も力強く頷いている。


「 じゃあ早速行動に移ろう。ただし、真田には見つからない様に。また厄介な事になると困るからな。凛と小雪は吉田さんの仲のいい人に聞き込み、大吾とは引き続き情報を探してくれ。将吾も引き続きよろしく頼む。みんな、やってやろう」



それからは全員必死で捜査に当たった。

凛と小雪は色々な人に聞き込みをし、大吾は片っ端から情報をかき集め、将吾も被害を増やさない為に様々な機械を作り上げた。


しかし事件から1週間。被害者は増えるばかりで警察も手に負えない状況となっていた。被害者は男女問わず誘拐され、中学生である、という条件をつければ学年も学校もバラバラ、事件部も、警察も、犯人の手掛かりどころか誘拐された人がどこに隠されているかさえ、全くの謎のままだった。



「おかしい…」


今事件部は、重苦しい雰囲気に包まれていた。

1週間経過したにも関わらず、事件について何一つ手掛かりが掴めてないのだ。

しかし、そんな重苦しい雰囲気を破ったのは、先程の三神の一言だ。


「な、何がおかしいんですか?三神さん」


「おかしいだろう?だって今まで12人も誘拐されているんだぞ?この街に12人も監禁できる場所なんてあるか?」


「確かにそうね…じゃあ誘拐された人たちはどこに…」


そう小雪が言うと突然部室の扉が勢いよく開かれた。

ドアを開けたのは、なんと真田先生だった。


「あれだけ捜査するなといったのにやはり捜査していたのか。まあいいだろう。今はそんなことを言っている場合ではないと私も分かっている。三神、先日誘拐された奴の部屋に暗号が落ちていたそうだ。お前なら解けるだろう。お前に渡しておく」


そう言うと真田は1枚の紙片を机に置くと、質問する暇もなく部室を出ていってしまった。


「な、なんだったんでしょうか…でも、暗号ってことは!」


「ああ。手掛かりに違いない!」


三神ははやる気持ちを抑えて紙片を見ると、その紙片には最初の暗号とは違い、文章が書いてあった。


『なんとも愚かな事件部の諸君。

なぜ君たちは今も私を見つけれないんだい?

煮える油に身を投じろとは入ってない。

ご丁寧に聞き込みをする暇などあるのかな?

さて、私は鬼ではないがかといって仏でもないよ。ロンギヌスの槍でも探しているつもりかい?』


「なんだこれ?しかも愚かな事件部の諸君って書いてあるぜ。バカにしてんのか!」


暗号を見た大吾が激発するが、三神は暗号を見つめたまま動かない。


「やっぱりおかしいな。これじゃあ早く俺を見つけろ、と言っている様なものじゃないか。こいつは何がしたいんだ?」


「そ、それに文脈もバラバラですね。ロンギヌスの槍といえばキリストの生死を確かめるために脇腹に突き刺した槍だと聞いたことはあります」


「でもその前には鬼ではないが仏でもない、とか書いてあるよ。何が何だかさっぱりわからないね」


確かに小雪の言う通りだ。この暗号で犯人が何を伝えたいのかわ全く分からない。


「とりあえずこれは俺が預かるよ。みんなはこの辺で大人数が入れる様な施設がないか探してくれ」


そう言って三神は椅子に座ると、暗号をじっと見つめ始めた。


油。聞き込み。鬼。仏。キリスト。ロンギヌスの槍。全く接点も何もない。何だ?何か共通点があるはずなんだ…考えろ。考えろ考えろ考えろ!

そうして考えているうちに2時間が過ぎてしまった。三神は最初の姿勢から一ミリも動かない。


三神は小さな時から暗号とか、そんな物が単純に大好きだった。だから暗号検定も受かることができたし、その才能を存分に事件部で使うことが出来た。

彼に解けない暗号はない。

その彼に解けない暗号など、この世にあるはずはなかった。


「──違う」


それは、最初はほんの小さな違和感だった。


しかしそれはどんどん大きくなり、無視できないほどになってしまった。


「なぜこの犯人はわざわざ一文ずつ行を区切っているのに『ロンギヌスの槍』と言う単語から始まる行だけ改行していないんだ?何か、理由があるはず…」


そしてそこから更に1時間が経過した時、不意に三神は立ち上がった。


「何だ。こんなの小学生でも解けるじゃないか。おれはバカだなぁ!」


そしてその数十分後、部室にメンバー全員が集まっていた。


「み、三神さん。暗号が解けたって本当ですか?」


「ああ。普通に見れば、小学生でも分かりそうな暗号だったよ。俺たちは内容に騙され過ぎていたんだよ」


「内容に、騙され過ぎていた?どう言うことよ」


「小雪、落ち着けよ。この暗号の最初の文字を縦に読んで行くと、『な な 煮 ご さ ン』となるだろう。これを全て平仮名にすると『ななにごさん』『7253』になるってわけさ。ここからは簡単だったよ。『7253』は見るまでもなく『7/2/53』という3つの素数になる。7は4番目の素数、2は1番目の素数、53は16番目の素数だ。これを英語に変換する。Aから7番目はD、1番目はA、16番目はPになるから『D/A/P』になるんだよ」


三神がすらすらと解説している間、他の4人はあっけにとられていた。


「み、三神さん。それは小学生じゃ絶対解けないです…」


皆が思っていることを代表して凛が口をはさむ。


「む、そうか。それで、この『D/A/P』なんだけど、恐らく監禁している場所じゃないかと思うんだ。人の名前なら3つに区切れているのはおかしい。そっちの聞き込みの成果はどうだ?」


「なにぶんこの街は小さいからね。12人も収容できる場所がそもそもあそこのダンジョンパークって言う遊園地くらいでしょ?でもあそこは人の出入りも多いし無理だと思うんだよね」


「遊園地?待てよ。最初に誘拐された松田さんは遊園地に行きたいって言ってたって吉田さんが言ってたよな?そしてダンジョンパークの『パーク』は遊園地って意味だ。遊園地は英語でアミューズメントパーク。つまりダンジョンパークは『ダンジョンアミューズメントパーク』そしてこれを一単語ずつ区切れば『ダンジョン/アミューズメント/パーク』。頭文字を取れば『D/A/P』!!監禁されている人がいるのはダンジョンパークだ!!」


「でも待てよ!遊園地なんて人の多いところにいる訳ないだろ?しかもあそこなら大声出せば誰か気づくんじゃ…」


将吾がそう反対するが、三神にはまだ確信があった。


「いや、あそこはいつも大きな音で音楽が流れてるだろう。しかも人が多いってことは声もその中に紛れることができる!」


そう説明すると皆納得したように頷いた。その後、事件部は警察にこのことを連絡。警察が遊園地に向かうと管制室の地下に12人の児童が発見された。これでこの事件は終わった──かのようにみえた。しかし、まだ事件部にはやることが残っていた。この事件の、犯人探しだ。警察が児童を保護した時、その部屋に1枚の紙片が落ちていたらしく、それを警察が事件部に持ってきたのだ。


「しかし全く警察も人使いが荒いよな。すぐに暗号持ってきて『犯人につながる手掛かりかもしてない』だってよ。自分達でそのくらいやれっつーの」


「そうむくれるな将吾。警察が俺たちを頼ってくれてるんだ」


「それで?次の暗号はどんなのなんだ?」


「ああ。『親愛なる事件部の諸君。

君たちの活躍は実に見事だ。

しかしこの事件の犯人、つまり私のことだが、君たちはまだ目星すら付けれてないんじゃないか?

災星や明星の様な明るい星々、そして昴…そんな明るい星々だって銭の輝きと同じ様なものだよ。

おっと、少し喋りすぎてしまったかな。

では事件部の諸君、せいぜい頑張りたまえ。

検討を祈るよ』だそうだ」


「愚かな事件部の次は親愛なる事件部か。ふざけてるわね全く」


「全くだな。でもこの暗号簡単過ぎないか?しかも答えが──」


そこで三神は口を閉じ、顔を強張らせた。まるで何か信じられないものを突きつけられたかのように。そして──


「小雪、将吾。俺と一緒に今から来てくれ」


長い時間一緒にいる彼らにも聞いたことのないような強張った声。2人は顔を見合わせ頷くと、小走りで三神の後について行った。



「──と言う訳なんだ。だから今からその犯人を取り押さえに行く」


「で、でも本当なのか?──が犯人だなんて…」


「そうよ!──が犯人だったら今までの──の行動の意味がわからないじゃない!」


今ここは先日生徒達が救出されたトレジャーパークの園内。もうとっくに閉園時間は来ているが、三神の口利きで警察に特別に入れさへてもらっているのだ。そこで三神に真相を告げられた2人は、それをなんとか否定しようとしている。嫌、信じられないのだ。


「確かに、──が犯人なら今までの──の行動には違和感がある。それは今から本人に聞くさ。ですよね?犯人の───真田先生?」


「よく分かったな。てっきり脳無しのお前たちには分からないと思っていたが」


「分かったも何も犯人の名前を教えたのはあなたでしょう?あの暗号は簡単過ぎました。『親愛なる事件部の諸君。

君たちの活躍は実に見事だ。

しかしこの事件の犯人、つまり私のことだが、君たちはまだ目星すら付けれてないんじゃないか?

災星や明星の様な明るい星々、そして昴…そんな明るい星々だって銭の輝きと同じ様なものだよ。

おっと、少し喋りすぎてしまったかな。

では事件部の諸君、せいぜい頑張りたまえ。

検討を祈るよ』

この暗号の最初の鍵は『災星(わざわいぼし)』、『明星(あかりぼし)』と言う2つの星がそれぞれ『火星』『金星』の別名である、ということ。そしてこれは次の『昴』も別名にしろ、ということです。昴の別名は『六連星(むつらぼし)』。そして第2の鍵は『星と銭は同じ様なもの』だということ。つまり『六連星』の星の部分を『銭』に変えればいい。この作業を行って出てくる単語は『六連銭』。そう。別名『六文銭』とも言う戦国武将、『真田』の家紋です。こうしてあなたは僕達に自分が犯人だ、と教えた。違いますか?」


三神の長い暗号解読の手順を聞かされ、真田は薄笑いを浮かべながらこう言った。


「全く。博引旁証ごくろうさま、と言いたいところだな。そうだ。俺が犯人だ。ではこれからどうする?力ずくで俺を捕まえて見せるか?やれるものならやってみろ」


「いえ。僕1人ならそれは無理でしょう。なにせあなたには今20人のガードマンがいるんでしょう?将吾が作った人の気配を探知する機械で探らせていただきました。でもね、真田先生。僕達を相手にするなら20人は少な過ぎますよ。なぜなら──」


そこで三神は口を一度閉じ、後ろに控えている将吾に何か合図をした。それを受けた将吾は頷くと、何かを引きずって来た。


それは真田についていた、20人のガードマンだった。


「なっ!!」


真田もその光景を見て絶句している。それもそうだろう。真田の後ろについていた20人ものガードマンが、いつのまにか1人ずつご丁寧に紐で結ばれて網に入っているのだから。


「小雪の相手をするなら20人は少な過ぎますよ。なにせ彼女は柔道と空手と剣道の3つのジュニア世界選手権で優勝していますから。彼女を相手にするならそうですね…今の3倍、60人は少なくとも用意しないと」


三神は誇らしげにそう断言した。そしてこれが最後だとばかりに真田に指を突きつけ、こう言った。


「どうしますか?警察に自首するなら今が狙い目だと思いますが」


その言葉を聞いて真田は軽く笑うと、


「ふん。警察にはお前が連絡しろ。ただし三神。お前に言っておきたいことが1つだけある。確かに最初の松田を誘拐したのは俺だが、残りの11人は俺じゃない。信じるかどうかはお前次第だがな」


その言葉を残し、真田はその後警察に取り押さえられた。

そしてこの事件は終幕した。三神祐介という男の中を除いては。



次の日


「にしても三神よ。まさか真田が犯人だなんてなぁ?全然わからなかったぜ」


「あ、ああ。そうだな」


そう大吾に返事をする三神だが、どこか歯切れが悪い。


『残りの11人は俺じゃない』


『信じるかどうかはお前次第だがな』


「なんだ?何を見落としている?何か、何かおかしいはずなんだ…」


独り言を呟く三神。しかし次の凛の一言で、三神の全ての思考が吹っ飛んだ。

そして次の瞬間──


「み、三神さん!?」


三神は飛び出していた。自分の頭によぎったほんの一欠片の可能性を 確かめるために。



「松田さん!松田美加子さん!いますか?」


飛び出した三神が向かったのは先日の誘拐事件で最初の被害にあった松田美加子の教室である。


「はい。私が松田美加子です。あれ?事件部の三神さん、ですか?」


「そうだ。松田さん、急で悪いんだがちょっと聞きたいことがあるんだ。今、いいか?」


硬い三神の声に松田さんも少し顔を強張らせながら頷いた。


そして2人は今、人気(ひとけ)の無い体育館裏にいた。


「それで三神さん。私に聞きたいことって?」


そう問われた三神は深く深呼吸をし、覚悟を決めた。そして──


「今回の誘拐事件、君以外の被害者を誘拐したのは──君だよね?」


「──どうしてそう思ったんですか?」


「僕は本当に愚かだったよ。早々に気付くべきだった。真田先生があの時間にあの遊園地に入ることも、あんな物騒なガードマンを連れることも出来るはずないって」


そう。あの時三神は凛にこう言われたのだ。『なぜ真田先生はそんな閉園後の遊園地に入れたんでしょうか?』


「真田は君以外こ誘拐は自分じゃないと言っていた。それは他に共謀者がいた、ということだ。そして君の父はこの辺り一帯の建物を全て建てている。あの遊園地も例外じゃない。恐らく、真田先生は君の父の部下だったんじゃないのか?そして何があったのかは知らないが、真田先生が邪魔になった。だから真田先生が犯人だ、という風に世間を思わせるために誘導したんだろう?連続誘拐となれば当分刑務所からは出れないからね。あと、君の友達の吉田さん。彼女もグルだろう?自作自演で誘拐されたふりをしても手掛かりを残さないと連続誘拐だと判断されないから」


今思えば吉田さんが暗号を持っていたことが既におかしかったのだ。いなくなってすぐに松田さんの部屋に入り、暗号を見つけることなど不可能なのだから。


「どうなんですか?松田さん」


そう三神が問うと、松田さんは笑顔を浮かべながらこう言った。


「流石ね。真田はうちの会社ではただの社員なのに上司に口出しをする面倒な社員だった。だから私の父が真田に『君の学校の事件部。君はあれが目障りなんだろう?その部活をなくさせる方法があるんだが、やるかね?』って言ったのよ。真田はすぐに食いついたわ。自分たちで事件を起こし、それを事件部に挑戦させる。解決できなければ事件部の信用は地に落ちる。ってね。でも私達はわざとあなた達がこの事件を解決できるようにヒントを出した。そうすれば真田は誘拐未遂で逮捕されるから」


と彼女はここで言葉を切った。そしてなおも笑い続けながらこう言った。


「ただ計算違いだったのはあなた達が私達が黒幕だってところまで気づいたところかしらね。事件部。なかなかやるじゃない」


そう言葉を残し、その後彼女は警察に自首した。彼女は吉田さんの事件の関与を全否定。あくまで自分1人の独断でやったことだと言い切った。

彼女の父親の会社はその後信用が暴落。程なくして倒産した。


こうして今回の一連の事件は本当の意味で幕を閉じた。だが彼らの部活動はまだまだ終わらない。彼らを必要とする人がいる限り。


「はい。事件捜索解明部です。ご依頼ですか?」


事件部の非日常的な日常は、今日もまた(つづ)られて行く。

読んでいただき、ありがとうございました!やっぱり謎解き小説は描くの難しい!

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