雨の日の裏で蘇る教室の追想録
どうにも、人間関係というのは面倒くさい。
オレは目の前に広がる非日常すぎる光景を前にそんな突拍子もないことを思った。けれどおそらく、この状況を、語弊があるなら、この状況を形作った原因を表すなら、最も的確な表現だろう。
人間関係がいかに面倒くさいか、オレ自身は常人より並外れて理解できる位置にあるだろう。
家庭ですら、存在意義を見つけられない。学校も面倒だ。特に[女子]というイキモノは厄介だ。あまり好きではない。
……なんて言うオレも性別は女子なのだが。だから尚更面倒に思うのかもしれない。
特に思春期と呼ばれる通称[花の高校生活]という時代は酷い。ここにどんな花が咲くのか。毒花か。
××は、○○のことが好きらしいよ。
え〜、あたしだって○○のこと好きなのに。盗られないようになんか考えないと……△△はあたしの[友達]だよね? だったら協力してよ!
もう、仕方ないなぁ……
□□は××より絶対可愛いんだから、負けるわけないよ!
そうカナ……でも、[味方]の△△がそう言ってくれると心強いよ。あたし、頑張る!
頑張れ〜。
……というわけだから、××。あんたは○○の視界から消えて。
そんな、理不尽だよっ。誰だって誰かを好きになるのは自由だよ!
……ふぅん? じゃ、あんたが従ってくんないなら、私も[仲間]のためもあるからねぇ……痛い目を見せることだって厭わないよ?
え、ぁ……い、
だぁめ! 大声なんて出したらバレるじゃん。ね? こんな目に遭いたくなかったら、○○に近づくの禁止。いいよね?
…………はい…………
わぁい、△△のおかげだよ! ○○と話す機会増えてさ。××なんか目じゃないね! ありがと♪
ふふっ、ま、あたしは□□の[友達]だからね。
△△、君が一番好きだ!!
……うん、あたしも、ずっと。
△△……? あなたは、あたしの[友達]じゃなかったの……?
□□、あんたはいい手駒になったわ。あんたのおかげで○○に近づけるようになった。ありがとね、[便利な道具]。
昼ドラなんて見たことないけど、
教室で聞き流していた同級生の雑談という名の一幕は、そんなもんよりよっぽど残酷で残虐に聞こえた。
今、目の前に広がる光景だって、
すれ違った末の、日常茶飯事にあるただ少しだけ凄惨な悲劇だろう。
雨好きの馬鹿は、伝えるのを怠り、
フードの少年は、決意までが時間を食って、
ドア向こうの狂気の少女は、想いのために暴走して、
窓辺の女の子はそんなのに巻き込まれて、死んだ。
フードの少年は祈った。「女の子ともう一度」と。
馬鹿は馬鹿なりに悟っただろう。同じ時間を長く過ごして、長い間同じ教室にいたのに、言葉を飲み込み続けて、
ドアの向こうはもう臨界点を突破していた。
ただの同級生のオレが、どう踏み込めばいいのかわからない。
ただ、
教室の縮図がそこにあるだけ。