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いつもの仕事

一都女市の中心部。

そこは駅が近いということもあり、ちょっとした高層ビルなども並ぶ都会のような見た目をしている。

しかし、その辺りからも遠くの山が見えるために、山を見た市民は現実に戻されるのである。

そんな微妙な街にあるアーケード通り、そこに長めのコートを着た男、斑鳩華澄が暇そうに歩いていた。

カフェは定休日、本業の予定も無く、買い物に出かけたたのである。

しかし買うものも無く、散歩同然の買い物になっていた。

「(買うものも目的も無い買い物は買い物と言えないかな…。)」

そう考えて歩いていると、斑鳩は裏路地の方に"何か"を感じた。

「(ん? 3、4人はいるな…。)」

そして斑鳩は路地裏へと足を踏み入れた。



「へいへぃ! 君カッちゃんの友達ぃ? にしてはノリ悪いね~。もっとノリ良く、ね?」

「え…でも…。」

「まあ初めてだからコイツ緊張してんのよ。次会うときは多分緊張も解けて、いつもみたいにメシ奢ってくれるって!」

「へ、へぇ…」

路地裏では、近年のドラマでさえも見ないようなシチュエーションで不良3人と気弱そうな学生が1人いた。

「そりゃあまた会わなきゃな! じゃ、またね、二中の金木くん。」

不良の一人はそう言うと、その場からいなくなった。

「あら、行っちゃった。まあいいか。それより、おい!」

「な、なに…」

「とぼけんなよ、今月から俺達と友達なんだから、その金だよ。いわゆる友達料ってやつ。」

「あ、ああ…」

そんなありきたりなシチュエーションが展開するなか、

「おーい君達ぃ? クスリ売るみたいにタバコでも売ってんのかい?」

と、暇そうな長めのコートの男がお約束のように入ってきた。

「あ? 俺らはただ遊んでんだよお兄さ…」

「お、おい!? 何かやべぇぞこいつ! 逃げろっ!!」

「ま、待て!? なにがやべぇんだ…あ、あ、待ってくれぇ!」

斑鳩を見た瞬間、不良二人は狂ったかのように怯え、走り去っていった。

「いや~お兄さんと言われるのは悪くないねぇ。」

「…?」

金木はなにが起きたんだと言いたげな顔で不良達を見つめ、斑鳩の方を見ると安堵の表情を浮かべた。

「あ、ありがとうございます。」

「いいのいいの。それより、怪我とか大丈夫? 財布の体力とか。あ、お金のことね。」

「ええ、まあ。でも何であいつらは逃げていったんですか?」

「うん? あー…。コート姿の男にトラウマとかあったんじゃない?」

「なるほど…でも僕には格好良く見えます…助けて頂いたのもあると思いますが…」

「格好良いか、それも嬉しいね。ところでちょっと聞きたいんだけどいいかな?」

「はい、何でしょうか?」

「この辺で良いカフェあるかな?」




「すいません…あんまりカフェとか行かないんで…」

「いやいやお腹が空いてたから逆に良かったよ。こんなに安い値段で軽食も食べられるカフェもあるんだね~。よしっ! 追加でこのサンドイッチを…」

金木は学生である。

個人店よりはチェーン展開しているカフェの方が値段設定や品揃えが学生でも楽々手が出せる内容であるため、このような店しか金木は知らなかった。

「えーと、味はどうですか?」

「コーヒーは値段通りだとして、料理は良いと思うよ。」

「なるほど…。コーヒーにはこだわりがあるんですか?」

「まあ一応、ね。で、さっきの3人とはどんな関係だったの?」

「えっと…、1人は学校が同じヤンキーで、あとの2人はそのヤンキーの他校の知り合いだったみたいで、今日初めて会ったんです。」

「なるほどなるほど。君はよくああいうのにいじめられるのかい?」

「まあ、そうですね。でも最近なんですよ、いじめられるようになったのは。」

「最近?」

「はい、それも全員別の人からなんです。あっ、今思うと一度絡んできた人は中々見かけないですね。」

「なるほど。」と相槌を打ったあと、斑鳩は顔を渋くして何かを考えるかのように鼻の下に人差し指がくる辺りで手で顔を覆う。


「("別の人から"という点が気になる…)」


そう考える斑鳩は同時に、自分の仕事について過去の顧客について自身の記憶から探っていた。

少しでも不可解な点があれば自分の提供していた"商品"との関連性を考えるようにしているのである。


「("中々見かけない"か…、しかし"縁切り系"の販売はここ最近していないしな…)」


見かけなくなるという点から"縁切り"を利用した現象と斑鳩は考えたが、本人が気づいていない時点でそのようなものを使用していないのは確かであった。ましてやそれがいじめが増えた原因とは全くと言っていいほど繋がらないものである。


「あのー、華澄さん?」

「ん? ああごめんごめん、色々と考えてたんだ。そういえば用事があったから、今日はこの辺でお開きにしようか。」

「そうですね。あっ、僕のコーヒー代…」

「今日は私が奢るからいいよ、話し相手にもなってくれたしね。」


会計を済ませ、外で別れる二人。

斑鳩は金木にいつでも相談に乗るということで、互いに連絡先を交換することにした。

そして斑鳩は金木を見送ると、小さな端末を取り出し、その画面に表示されている位置情報を確認した。

「それじゃ、聞きにいくか。」




コンビニエンスストアに、先ほどの不良たちがドラマのようにたむろしていた。

「ったく、あいつなんだったんだよ…」

「しらねぇよ! でもびびっちまったんだよ! お前もだろ!」

「あ…、ああ…。」

一人の不良が指差す先には、コート姿の斑鳩がいた。

「ひっ、ひぃぃ!」

「待て待て待って、そんなに怖くないはずだから怖がらないで。」

「どっ、どっか行ってくれ…」


「大丈夫大丈夫、一つ聞きたいことがあるからそれ聞いたら帰るから。」




「ただいまー」

斑鳩がカフェの入り口を開けると、店内には一人の女の子がカウンターに座っていた。

「おかえり。遅いぞ、マスター」

「ごめんごめん、人助けしてきちゃった」

「人助け?」

「そうそう、しかもキャッシュバックキャンペーン付きの人助け…になる予定のさ。」

そう言いながらコートを脱いで掛けると、女の子に斑鳩が言う。


「そして仕事もできたよ。シンプルな"いつもの仕事"だけどさ。」


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