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斑鳩華澄という男

日本に複数ある海に面していない、通称「海無し県」のとある街。

名は「一都女市」といい、都会とは言えないが中心部には高層の建築物が立ち並んでいる。

そんな街に、また何かが起きた。



「あ~、喉からっから~」

友人とのカラオケの後遺症を引きずりながら、夜21時50分の住宅街を歩く男子高校生が一人歩く。

夜遅くではあるが、彼に門限などは無く、ましては警察などがあまりパトロールをしない場所であることは本人も既に知っている。だからこそゆっくりと楽しかった数分前を思い出しながら歩いていた。

そのまま彼の頭の中は一日の出来事を巡り始める・・・・・。

友人との会話の内容・・・・そこで一時停止。


「(そういえば・・・あれって・・・うわっ、今思い出すことじゃなかった・・・・)」


自分で勝手にタイミングの悪い話を思い出し、自爆するのが特技な彼がある噂を思い出した。

それは彼と同じクラスのオカルト好き?の女の子が話した話題だった。






学生達がにぎわう昼休みの教室、その一角で何人かの生徒が一人の女子高生を囲って話を聞いていた。

一人一人がその中心にいる女の子の口から出る言葉に興味心身に入り込む


『イガミさん』

一都女市の一部住人に伝わる都市伝説。

住宅街に深夜前の時間帯に出没し、見た目は普通の中年男性。

しかし、後ろ姿を見てから10秒以内に隠れないと、どこまでも追いかけてきて、捕まったら顔の皮を削がれて彼のコレクションにされてしまう。

そして死体は溶かされてしまう為、跡が残らない・・・・・。

その人間とは思えぬ体力、行動から「異色の神か何かじゃないのか」と一部で言われており、そこから「イガミ」となった噂もある。


こんな胡散臭い話でも、周囲の学生は聞いていた。

それはこの女の子の話には本当のこともあるという噂が立っていたからだ。

変な噂を持つ少女が変な噂を語る。

今やこの教室の一大イベントとなっている。





聞いてすぐには笑って聞いていた彼だったが、こういう話は後から思い出すと怖さがあることを我が身で感じた。

時間と場所、それも彼の恐怖を煽る素材となっている。

中年男性が歩く姿など珍しいものでもない。

珍しいものでもないからこそ、「もしも」がそこにはある。

彼の体に悪寒が走るのも無理はなく、彼はいつもの帰り道が言葉の通じぬ国のように異質なものに感じた。



どのくらい歩いたのだろうか・・・・

普段何気なく歩いてる道が彼には長く感じた。

その時、目の前に人影が歩いているのが見えた。

「・・・・・・。」

勿論、今の彼の頭にはあの話がよぎる・・・

「(でも、どうせただの噂だ、何もかも・・・・)」

そう思うように彼はした。少女の噂も中年の噂も。


そして彼はあることに気づいた。

人影は彼のほうに向かって歩いているのである。

しかし、噂だと決め付けた彼は普通に通り過ぎようとした。

「(意識しない意識しない・・・・)」



しかし、彼は意識せざるを得ない「モノ」を見てしまった。

その男は、血の付いたナイフを右手に、左手には薄くて"穴の空いた"何かを持っていた。


「っ!!?」

彼は声を出すことさえできず、すぐに走り出す。

追ってくるのか、こないのか、そんなのは今の彼には関係ない。

ただ必死に逃げる。

何か対策は・・・・・

走っている途中で「話の一部」を彼は思い出した。



「とにかく店に逃げ込めば大丈夫みたいだよ。」



その言葉を思い出し、必死に店を探す。

住宅街とはいえ、喫茶店ぐらいなら・・・・!


そして彼は扉が照明で照らされた、いかにも喫茶店か何かの店を見つけた。

そして、扉に付いた看板の文字さえ読まずに、飛び入った・・・・・




飛び入った彼は、一息つくと顔を上げた。

そこは喫茶店のような店内だった。

「いらっしゃい、ん?君学生かい?」

その部屋にいた男が不思議そうに彼に声をかける。

「えっ、あっ、突然すいません!ちょっと変な人に追いかけられてたんです!」

「ほう・・・・、まあ休んで。」と男は近くのソファーに彼を座らせた。

そして男は彼に飲み物を差し出す。

「カモミールティだ。リラックス効果があるらしいよ。」

「ありがとうございます。それじゃ、いただきます・・・・」と彼は茶を口にした。




彼は茶の効果か完全に落ち着いていた。

「あの・・・・ここって喫茶店ですか?」と男に質問する。

「喫茶店・・・・そう見える?」

「ええ、お茶もありますし。」

「なるほど、まあそうなんだけどね、半分は。」

「半分?」

「そうそう、もう一つやってることもあるからね。それはさておき自己紹介がまだだったね。

 私、こういうものでして、っと。」

そう言いながら男は彼に名刺を手渡した。


 「 喫 茶  華 澄 屋        

       斑 鳩  華 澄 」


「どうも、あっ、僕は吉野といいます!吉野善定です!」

「ヨシノヨシサダ・・・・ヨシヨシくんか。どう?我ながらに良い呼び名だと思うけど?」

「えーと、そう呼ばれ慣れているので・・・・嫌ではないです。」とちょっと遠慮しがちに吉野は返答する。

「そうか、流石にオリジナリティに欠けていたかー。」と少し残念そうに斑鳩が言う。

「いえいえ!慣れているほうがいいですよ!」

すぐさまフォローを掛ける吉野。彼はこういうのが得意なのである。

こういうのが得意なのはたぶん良いことなのだろう。本人もそう思っている。

「そういえば、その・・・・イカルガ?さんはなんて呼べば・・・・・」

「よく読めたね。私の苗字をちゃんと呼んでくれる人は中々いないからね。じゃあ苗字で呼んでも名前で呼んでもどっちでもいいよ。」

「じゃあカスミさんで。」と吉野は即答した。

「あっ、そっちで呼ぶんだ・・・・」

斑鳩は期待外れの顔で吉野の顔を見た。

「選択権奪われた・・・・・じゃあやっぱり斑鳩さんで。」

「わかった。じゃあそう呼んでいいよ、ヨシヨシ。」

斑鳩の顔がちょっと嬉しそうな顔になる。


「(やっぱり最初から遠まわしに選択権は無かった・・・・・)」


心の中で呟く吉野。

「じゃあ自己紹介も済んだことだし、さっきの話を詳しく聞かせてもらえないかな?」

「さっきの話・・・・あっ、不審者のことですね!」

「そうそう、そいつのこと。」

「えっと・・・・そいつの噂話とかもあるんですけど・・・・・」

「それを含めて全部だね。」



吉野は「イガミさん」についての情報、そしてそれらしき人物と遭遇したことも全部斑鳩に話した・・・


「ほう、それで"異色の神"と呼ばれているの?それとも『ではないか』のレベルで呼ばれているの?」

「たぶん両方だと思います。噂が噂ですからね・・・・」

「そうか・・・・。」と言い、斑鳩は立ち上がり、カウンターの方へと歩き始めた。

そして何かを探しながらこう言った。


「それなら対処が楽そうだね。」


「えっ?」

彼の言葉が吉野には意味不明だった。

・・・・・対処が楽?

「どういうことです?」

「ん?そのまんまだよ。あ、そういえば"もう一つの仕事"について言ってなかったね。まあ見てれば分かるさ。」

「どういうこ・・・・」と吉野が言いかけたその時、


ゴゴゴンッ、ドドドッ!


何者かがドアを力任せに叩く音がした。

「!?」と吉野は立ち上がり、後ずさりをする。

そして自然と体は斑鳩の後ろに動いていた。


「ンッー!!ヴッーンン!!」


ドアの向こう側からは低いうなり声も響く。

「な、何で・・・・店に入ったのに・・・!?」

その吉野の言葉は彼の心の中に少し取り残された"冷静"の感情が出した答えだった。

「斑鳩さん!やばいです!やばいですよ!」

「んー?お、あったあった、これで静かになるなる~。」

そう軽く言いながら斑鳩はその探していたものを取り出した。


それは、リボルバー拳銃だった。


「えっ!そ、それっ!本物ですか!?てかあいつ殺しちゃうんですか!?警察に通報しましょうよ!」

吉野の頭はジェットコースターに無理やり乗せられたかのような状態だった。

「(えっ、"もう一つの仕事"って、ヒットマン!?今日からっ!?いやっ、前からっ!?)」

吉野にはもう斑鳩がヒットマンにしか見えなかった。

「本物?うーん、偽者でもないしヨシヨシが思っている"本物"とは違うかな。」

「ちょっと意味わかんないですよっ!?」

「まー見てなって。ポチッとな。」

斑鳩が壁のスイッチを押すと、ドアの鍵が開いた。

それと同時に、吉野が見た"不審者"が勢いよくドアを開けて入ってくる・・・・!

「ガガッガガガアァァァァァァッ!!」

不審者は斑鳩に真っ直ぐ突撃し、手にしたナイフを振りかざそうとしたその時、


バシューンッ・・・・


銃声が鳴り、目の前の男は倒れ、煙のようなものを出しながら消えていく・・・・・

「ア、アガァ・・・・・」

吉野には、"消える"というよりも"溶けていく"ように見えた・・・・・

「ふぅ、やっぱり誰かに見られてると緊張するもんだね。」

そう言いながら、斑鳩は男が溶けた場所に残った小さな銃弾を拾う。

そして、それを吉野に見せた。

「これ、さっきのあいつが入ってるやつ。」

「はぁ・・・・えっ?」

また吉野は理解できなかった。

「そうそう、私の仕事はこういうやつ。まあ何というか、化物退治みたいなもんだね。」



そして数分後・・・・・

「まあ、さっきの男はもう手遅れだったんだよね。人じゃなくなってたんだよ。どのくらい侵食されてるかは撃つまでは分かんないけどさ。」

「どういうことです?」

「さっき『異色の神』と呼ばれてると君が言ったとおり、もう人間扱いされなくなった時点でああいうのは"人ならざるもの"になっちゃうんだよね。もう少し対処が早ければ、人間として戻すこともできたんだ。その後については保証できないけど。」

「なるほど・・・・・。でも、間に合う可能性があるのに銃殺したのは・・・・・」

「大丈夫、この弾は人じゃないモノを吸い取るモノなんだ。人である部分には干渉しないのさ。じゃ、ちょっとヨシヨシの身体で試してみるか・・・・」と言いながら斑鳩は銃を吉野に向ける。

「いやややややっ!ちょちょちょちょっとっ!!」

「ふふっ、冗談冗談。でも痛みも何もないはず、そういう物質でできてるらしいしさ。あ、こういうの売ってる人がいて、そこから仕入れてるんだ。」

「はあ・・・・・。」

吉野はここ数分で、自分の知らない世界を知ることができた。いや、知らされたか。

「そういえば、その封じ込めた銃弾はどう処分するんですか?」

「これはね、売るんだよ。こういうのを集める物好きとか必要としている機関とかにさ。ちなみに君に関する今回の解決料はコレってことにしとくから、お金とかは気にしないでいいよ。」と言いながら、斑鳩は先ほどの銃弾をテーブルの上に置いた。

「ありがとうございます。」

「いいのいいの、あと君面白いしね。名前といい、反応といい。」

「なるほど・・・・・。(喜んでいいのかな・・・・・?)」

「まあ、昼間は喫茶店として経営してるし、また遊びにおいでよ。気が向いたらでいいからさ。」

「ありがとうございます!(この人も言えないぐらい面白いしね・・・・・。)」

「ふふっ、良かった良かった。あ、それからヨシヨシに忠告とお願いがあるんだよね。」

「何でしょうか?」

「忠告は、あまり噂とかするとさっきみたいなもの引き寄せちゃうから気をつけてね。それが頭の中で考える程度でも駄目。特にさっきのはちょうど"住宅街"という舞台で考えちゃったのもあるね。」

「深く心に留めておきます・・・・・・。」

「うん、素直で良い子だね君は。そしてお願いが一つ・・・・・・」


「私の仕事については他人に言わないように。言うなら良い喫茶店があると宣伝する程度にね。」



その後、「イガミさん」の噂は消えることは無かったが、本体が消滅した今、何も問題は無かった。

もし、「イガミさん」の"コレクション"が見つかったとしても、事件は迷宮入りするだろう。

この噂がつい最近まで事実だったことは、被害者達と一人の男子高校生、そして一人の喫茶店のオーナーだけしか知らない・・・・・




そうしてまた一都女市の一つの物語は続編へと続く形でラストを迎える。

夜が明けた次の日には、またどこかで何かが起きる。

それが良いことなのか悪いことなのか、物語の登場人物しか分からないのである・・・・・



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