旅立ち
君は来るだろうか……
「皆さん今までありがとうございました! たまにでもメールくれたら嬉しいです!」
僕の名前は中村雄介。
高校二年生。夏休み前に急遽両親の転勤で海外へ引っ越す事になった。
僕が皆に挨拶をすると周りから拍手が起こった。
僕の目は一人の女生徒しか捉えていない。
彼女の目は澄んでいて綺麗な茶髪の長髪で綺麗な顔立ちだ。
彼女の名前は斉藤瞳。
僕は彼女の事が好きで高校一年生の時から片思いしている。
「中村は一週間後に引っ越す予定だ。しかし一学期も今日で終わりだから学校へ来るのも今日で最後だ。皆からも何か言う事はないか?」
担任の先生が皆を見渡して聞いた。
僕は友達が多い方ではないが何人かの生徒から手が上がり僕に別れの言葉を言ってくれた。
斉藤さんは何も言わない。
まぁそうか――
「皆さん本当にありがとうございました!」
僕は再びお礼を言って頭を下げた。
そして放課後になり僕は教室に、学校に別れを言って校門を出た。
この学校は楽しかった。
でも一つだけ心残りがある。斉藤さんに思いを伝えられなかった事だ。
このまま海外に行っても良いが僕はそんなのは嫌だ。
僕は夢中で走り出した。
肩で息をしながら立ち止まったここは斉藤さんの家の前だ。
僕はメモ帳を出して僕の携帯番号、メールアドレス、そして僕の想いを書いてポストに入れた。
何も返事がなくても良い。
ただ想いを伝えたかった。
何もなくても悔いはない。
僕は斉藤さんの家から背を向け自宅に足を向けた。
「お帰り! ちゃんと挨拶した? 雄介の荷物もちゃんとまとめてね!」
家に帰り、リビングに行くと母さんが夕飯の支度をしながら言った。
「うん! 分かった」
僕はそう言って自分の部屋に行った。
期待はしてなくてもついつい携帯を見てしまった。
やはり斉藤さんからはメールも電話もきていない。
他の友達からは何件かメールが入っていた。
僕は着替えて椅子に座りメールをチェックした。
「ごはんよ~」
一階から母さんの声がした。
ご飯を食べ終わり自室に戻った。
そろそろ僕の荷物を片付けないとな――
思い出の品も捨てなければならない。
持っていける物は限られているからだ。
僕は悩みながら物を捨てていった。
そのまま一週間が過ぎ、とうとう引越し当日になった。
やはり斉藤さんから何も音沙汰はない。
当たり前か――
家の部屋中を回って一部屋一部屋別れを言った。
そして家を出た……
斉藤さんから何もなくても構わないと思ったがやはり少し寂しい。
バスの中から窓の外を見てため息を一つついた。
しかしまだ希望はある。
実はメモ帳に引越しの日を書いて時間なども書いた。
君は来るだろうか……
そんな淡い思いを抱きながらバスに揺られた。
空港には友達は誰も居ない。
親戚しか集まっていなかった。
やっぱり来るわけないよな――
そのままフライトの時間になった。
飛行機に乗るために列に並んだ。
『中村君……私を想っててくれてありがとう。来れなくてごめんね。私はもう中村君に会えないんだ――でもね、いつか、きっと遠い未来で会えるよ……』
何だ?今のは――
斉藤さんの声だったけど――
空耳か?
でも妙にリアルだった。
何か悲しそうな声だった。
けどどこか明るい声でもあった。
僕は80歳で老衰で死んだ。
子供、孫に囲まれながら死んでいった。
そして僕は天へ旅立った。
女の子が僕に手を振っている。
誰だろう――
あれ?
僕の手を見てみるとしわがなくなっていた。
顔を触っても若い――
手を振っている女の子を良く見ると見た事がある――
僕は微笑んだ。
彼女も微笑んだ。
『ね? 会えたでしょ?』