闘いの癒し
079
「で、槍男はどこに逃げたの?」
「窓から逃走しました」
「3階から?」
「はい」
僕は嘘をつくのが苦手である。
今も教室で刑事さんに事情聴取を受けているところだ。
横で透明になっているルシフェロさんに、
こう言えああ言えと言われ、そのまま答えている。
「キミ。災難だったね。そんなに服をボロボロにされて怖かったろうに」
「そりゃもちろん」
必死で闘っていましたからね。
教室の壁、天井は急いで治したからいいけど、
各教室の机や椅子はめちゃくちゃだ。乱雑だ。
警察の捜査もあってまた、
龍神高校はしばらく休校となることになった。
まぁつまり真白との同棲生活が始まるんだけど。
「桐原くん。今回もボロボロね」
「なんかめちゃくちゃ電撃と僕の相性が悪かったみたいだからね」
ルシフェロさんの見解である。
僕はボロボロになった制服をハンガーにかけて、
復元作業をしている。
「また俺の見解なんだけど、たぶんメタトロンは神さまと入れ替わるように、
地上界に降りて来たと思う。あいつのことだ、しゃべらないから自分で勝手に行動をしていたのだろう。しゃべらないからこそ手段を選ばないそんなとこ・・・・・・」
「はいはい。そこまでそこまで」
真白がルシフェロさんの言葉を遮った。
「駄天使。しばらく桐原くんはゆっくりと休息をとってもらうわ。
ここ最近の闘い続きで桐原くんのメンタルもボロボロだと思うし、
私が癒してあげないと、エロイ意味で」
最後のセリフで台無しだよ。
ルシフェロさんとは真白のマンションの前で別れた。
回想終わり。
僕は真白の部屋で足を伸ばして座っている。
正直連戦は疲れた。
アザゼルさん。神。メタトロン。
よく僕も生き残っているものである。
そう思っていた。
「桐原くん。たまには羽を伸ばさない?」
「え、どういうこと?」
「1泊2日くらいで、温泉旅行でも行きましょうよ。二人っきりで♡」
「温泉旅行か、いいね」
「その後は遊園地で遊んで、レストランでディナーでもしましょう」
「なんか凄いプランができてるな」
「執行者が来ない時は、桐原くんも普通の高校生なんだから、
たまには楽しまないと損でしょ?ね?」
「うんそうだな」
「もちろんエッチなことはしましょうね♡」
「・・・・・・」
「温泉に浸かって火照る二人の身体。それを癒すように求め合う。
考えただけでも興奮するわ♡」
「・・・・・・」
僕の彼女、婚約者でもある、真白ユキは、どエロだ。
忘れないで欲しい。
「さぁ思い立ったら即行動。私は旅館に連絡を取るわ。
桐原くんは自宅に連絡しといてね」
「わかったよ」
僕は家に携帯で連絡した。
まぁ時間が時間だけに誰も電話に出るはずもなく。
留守電に経緯を残した。
「今日だったら予約が取れるって。今日行きましょう」
「早くないっすか?」
「早いほうがいいわよ。いつ学校が再開されるかわからないしね」
僕達は、「いきなり二人っきりの温泉旅行兼羽伸ばし会」に行くことになった。
ピンポーン
真白のマンションでしばらく待っているとインターホンが鳴った。
ガチャ
真白が玄関のドアを開ける。
「お嬢様。お待たせ致しました」
「早いわね。セガール。アレは?」
「こちらに」
執事のセガールは二つのものを用意していた。
赤と青。二つのアタッシュケースだ。
この女。手回しが早すぎる。
今気づいたことではないが。
「さぁ着替え一式を入れたら、レッツゴーよ」
彼女はノリノリであった。
僕も乗り気であったがすぐにちょっと後悔することになる。
080
真白のマンションの前に高級車が止まってある。
あれで遠出をするのであろう。
セガールが後部座席のドアを開ける。
僕はトランクにアタッシュケースをしまった。
中に高そうなバックが入っていたのが気になったけど。
「桐原くん。早く乗って」
真白が笑顔で嬉しそうだ。
僕も笑顔になる。
真白の笑顔には癒されるからね。
その笑顔はすぐにひきつった顔に変わる。
僕は後部座席に乗った。
「やぁ優斗くん!!」
突然の助手席からの声かけに僕はしばらく困惑してしまう。
・・・・・・
「光牙さん!?」
真白の父親、真白光牙さんが助手席に座っていた。
曇りガラスで見えなかったけれども、
「光牙さんはないだろう?お義父さんと呼びたまえ」
「・・・・・・お義父さんですか?」
「優斗くんはもう私の義理の息子でもあるんだからね、遠慮はしないで」
いやプレッシャー半端ないですから。
「桐原くん。もっと奥に座って、私が乗れないでしょ」
真白が平然として僕の隣に乗ってきた。
この女。どこまで準備していたのだ?
二人っきりの旅行では無かったのか?
そんな考えが僕の頭の中をグルグルと回る。
「では、皆様出発致します」
セガールが運転する車がゆっくりと発進した。
「いや~私もたまたま休みがとれてね。たまの休日だ。温泉もいいな~と
思ったからさ。同行させてもらうことにしたよ」
だから二人っきりの旅行では無かったのか?
「二人の邪魔はしないからさ。もちろん部屋は別にとっている。安心したまえ」
「・・・・・・ありがとうございます」
何故礼を言う。僕。
テンパっているのか?
終始お義父さんの話のペースで物語は進む。
「ユキとの関係はかなりというかもう結婚前提で話が進んでいるようだね。
ユキから聞いているよ。そのエッチもしたとか」
「・・・・・・」
「もうパパったら」
「ハハハ。私も若い時はエロエロ三昧だったからね。いいんだよ。
エロイってことは若いと同義だからね。ガンガンやりたまえ」
「・・・・・・」
「そうねパパ」
僕はずっと黙っていたが、ある考え事をしていた。
この父ありにしてこの娘あり。
エロは遺伝するんだなと僕は感じていた。
っていうかお義父さんに何でも話しすぎだろ真白。
僕の顔は常に真っ赤だった。
車は山道にさしかかる。
「それより真白」
「桐原くんがパパに話があるみたいだって」
「え?なんだい?」
「いえ、なんでもありません」
隣に座っている真白が僕を睨んでいた。
「ユキって呼んでって言っているでしょ、これからはずっと。一生ね」
真白にボソボソと小声で耳打ちされた。
「じゃあ・・・・・・ユ、ユキ。これから行くのは?」
ユキが笑顔に変わる。
「穴場スポットの温泉旅館よ。大丈夫、料金は全部パパ払いだから」
「そこは彼氏としての面目ってものもあるじゃない?」
僕のサイフには3万円しか入ってないけど・・・・・・
これじゃあ一人分しか払えないよな。
隙を見て、神の腕で札束を具現化するか?
いやお義父さんにバレたら大変なことになるな。
やめました。
「皆様、到着でございます」
1時間45分の長旅。(計っていた)
ユキ親子のエロトークで車内は盛り上がっていたけど、
僕はエロトークについていけるわけもなく、
ほとんど黙っていたので、経過時間より長く感じていた。
僕はセガールより早くドアを開け、
トランクから3人分の荷物を手に持った。
「お!優斗くん。力持ちだね」
「これくらい楽勝ですよ。お義父さん」
少しくらいかっこいい彼氏アピールをさせてほしい。
「さすが、私の旦那様ね♡」
ユキも笑顔だ。
・・・・・・旦那様って、まぁ将来的にはそうだけどさ。
「では明日の10時に迎えにあがります」
とセガールは車を発進させた。
ユキ親子と僕の家族水入らずの1泊2日。
なんかちょいと不安を感じるけど、
まぁ大丈夫・・・・・・かな?




