堂島環
078
堂島環が何故、校舎の中にいるのか。
ただ逃げ遅れただけなのか。
それとも自慢のニュース魂の結果か。
まぁ間違いなく後者であろう聞くまでもない。
「槍男の写真を撮ろうとしてたら、あなたが戦っていたじゃない。
しかも教室をぶっ壊したりして。腹も貫通されてたでしょ。
普通死んでいるよね。そうでしょ?あなた何者なの?説明してよ」
メタトロンとの死闘を全部見られていたらしい。
僕が2-Aの教室に入った時から堂島さんは僕達の写真を撮っていたのか。
彼女の首にはカメラがぶら下がっている。
「堂島さんこれは・・・・・・」
「近寄らないで!!まだあなたが安全な物かどうかわからないでしょ」
激しく拒絶された。
そうであろう。僕の学ランはところどころ破け、
腹に穴が開いて、それが塞がるのも見られた。
完全に化け物扱いだ。
当然だろう。
「俺が説明しようか。優斗くん?」
「そもそもあなたは誰なの?落合って言ってたわね」
黒スーツの長身の男ルシフェロさんにも怯まない堂島さん。
「俺は堕天使ルシフェル。この世界に堕ちて来た天使です」
「天使?」
堂島さんはポケットからメモを取りだし書き始める。
「簡単に説明すると、俺と優斗くんはこの世を守る為の正義の味方さ」
だいぶ端折りすぎだろ。
「ふ~ん。それでそれで?」
完全に堂島キャスタースタイルだ。
「槍男も天使です。悪い天使です。それらを優斗くんは撃退しているんです」
ルシフェロさんの口調もいつも以上に柔らかい。
「今までずっと私に隠して戦っていたってわけ?」
「その通りです。他の人間に見られると不味いですからね」
「何が不味いの?」
「あまりに戦闘がグロテスクなのと、他の人間に被害が及ぶかもしれないですからね。細心の注意を払っていたんですが」
「私に見られたわけね」
「はい」
ルシフェロさんの話を全てメモにまとめる堂島さん。
「なるほどなるほど。そんな面白いこと私に隠していたの桐原くん」
僕に火種が飛んで来た。
「まぁそうなりますね」
「これは一大ニュースだわ。原稿に起こさないと」
「堂島さん!!」
「何?」
「これは僕達だけの秘密にして貰えないでしょうか?」
「は?」
「この闘いは人間全員を巻き込むスケールの闘いなんです。僕の正体もばらされたら僕も学校に居られなくなります」
「まぁそうなるわね」
「だからこの通り。隠して下さいお願いします」
僕は必死の土下座をした。
「え~どうしよっかな~?」
「聞き分けのない小娘が」
偉い低音の声がルシフェロさんから放たれた。
「黙っていれば人間ふぜいが、調子に乗ってほざきおって、
お前の存在くらいこの世から消し去ることも可能なのだぞ」
「ひっ!!」
すさまじいプレッシャーを放つルシフェロさん。
堂島さんも怯んだが僕も怯んでしまった。
「け、警察を呼ぶわよ」
「ここは圏外だ。無駄な足掻きだ」
どんどん堂島さんに詰め寄るルシフェロさん。
「・・・・・・ち、近づかないで」
「お前の存在をこの世界から消してやろう」
ルシフェロさんの手が堂島さんに伸びる。
「止めてください!!」
ルシフェロさんと堂島さんの間に僕が割り込んだ。
「何故邪魔をする?」
「僕と堂島さんは今は違うかもしれないけど、友人です。
その友人を消すのであれば僕から消して下さい!!」
「桐原くん?」
「どうぞやって下さい」
僕は両手を広げる。
「じゃあ死ね!!」
ルシフェロさんの手が僕の心臓に向かって伸びてきた。
「待って!!」
堂島さんが叫んだ。
「桐原くんとあなたのことはニュースにしない約束するわ。
誰にも喋らない。だから桐原くんを消さないで」
「どこにそんな証拠がある?」
ルシフェロさんが堂島さんを睨みつける。
ガシャーン!!
「え?」
堂島さんの首から下げてるカメラを地面に叩きつけた。
そしてカメラの中のSDカードも抜いた。
「これも折るわ、それでいいんでしょ?」
「堂島さん」
と僕は堂島さんの手を握った。
「それは堂島さんの魂ですよね。それまで折ったら駄目ですよ」
僕は壊れたカメラを拾い、元通りに復元させた。
「何で、何でそこまで」
「友人だから」
「桐原くん」
パチパチパチパチパチ
手を叩いていたのはルシフェロさんだった。
「堂島さんだったよね。優斗くんの覚悟はわかってくれたかな?
まぁ俺のせいなんだけど彼はすごい苦労しているのさ。
彼は地上界を守る為に苦労しているのさ。わかってくれたね。約束」
ルシフェロさんの口調が元に戻っている。
先ほどの威圧行為は演技だったのであろう。
「ええ。痛いほどわかったわ」
堂島さんは言う。
「彼女は知っているの?」
「真白のこと?」
「ええ」
「知っているよ」
「少し妬けちゃうな~羨ましい」
ウーウーウーウー
パトカーのサイレンが近づいてきた。
ずいぶんと遅い登場です。
「そうだ。優斗くん。教室の壁だけは治しておかないとね」
「そうですね。急ぎましょう」
僕とルシフェロさんは急いで下の階へと走る。
「・・・・・・本当に羨ましい」
堂島環はポツリと呟いた。




