第4番階級執行者メタトロン戦
075
平穏は簡単なことで崩れさる。
そんなことはわかりきっていたはずだ。
僕にそんな権限はもうないのだろうけど。
キーンコーン。カーンコーン。
1時間目の授業が始まる。
科目は数学、担任の小林先生の担当だ。
「おーっす。みんな席につけよ~授業始めるぞ~」
それまでガヤガヤしている教室が静かになる。
先ほどまではしゃいでいた男子も女子も席に座る。
数学ほど楽勝な科目は無い。
完璧な数式を覚え、応用するだけ
僕の神の力、記憶力があればこんなに楽なものはない。
この前の小テストでも100点を取ったくらいだ。
期末テストも100点を取るぞそんな気合も込めて僕は授業に臨む。
ガシャーン!!
言っただろ。平穏なことを僕に望む権利は無いって。
グラウンド側の窓ガラスが破り割られた。
男が教卓の上に着地する。
長い槍を持って。
みんな最初は唖然としていたが、
すぐにその脅威に気付く。
「槍男だー!!!」
「ここ3階でしょ!?」
「マジかよ!?早く逃げようぜ!!」
「ヤバイヤバイ」
教室中がパニックになる。
椅子から転げ落ちる生徒。
後ろの壁に走る生徒。
ただ椅子に座っていることしかできない生徒。
だが皆が外に逃げるきっかけを作ったのは僕だ。
「みんな早く外に逃げろ!!他のクラスや学年にも教えて。先生早く!」
小林先生も腰を抜かしていたが、
「みんな早く逃げるわよ。付いてきて」
と生徒達を非難させる。
二人だけ逃げない生徒がいた。
僕と真白だ。
「真白、僕の携帯を持って逃げろ」
「でも、桐原くん」
「でもじゃない、ルシフェロさんを呼んで安全な場所に逃げろ」
「うん。死なないでね」
「もちろんだ」
メタトロンが槍を構えて跳んで来た。
僕は自分の机を力の限り投げる。
僕の机が槍で貫かれ、割れた。
だがその隙に僕はメタトロンの死角に回り込んでいた。
「オリャアー!!!」
その掛け声とともに僕は左腕でメタトロンの顔面を殴り飛ばした。
メタトロンは黒板のほうまで吹き飛んでいく。
グシャ!!
鈍い音と共にメタトロンは黒板にぶつかった。
その隙に僕は学ランの袖を捲り、二つのギプスを外した。
今回は最初から本気でやる。
本気でメタトロンを再起不能にしてやる。
「YOU。ナカナカヤルデハナイカ」
「あんたの奇襲はもう飽きたよ、今回で決着をつけてやる」
「ラウンド3ダオ」
他のクラス・学年の生徒達の悲鳴も静かになった。皆逃げれたのであろう。
なら教室が吹き飛ぶくらい本気でやってもいいよな!!
僕はいきなり右腕を前に構え
「ゴッドキャノン!!」
を発射した。
周りの机や窓ガラスが衝撃で粉々になっていく。
光線はメタトロンに直撃した。
メタトロンは黒板を突き破り隣の2-A組まで押し飛ばした。
だがメタトロンは槍でガードをしていたのだ。
「ビックリダオ!!」
メタトロンは起き上がろうとした。
メタトロンが起き上がるより早く僕は走って
手前にある机をメタトロン目がけて蹴り飛ばした。
ガン!!!
机はメタトロンの顔面に当たった。
その衝撃でメタトロンは槍を手放した。
チャンス!!。
僕は教室の間を走り、メタトロンに飛び蹴りを加える。
僕の蹴りに怯むメタトロン。
その隙に槍を廊下の方へ蹴っ飛ばしてやった。
カランカラン。
槍が廊下の方へ転がっていく。
「・・・・・・」
「槍がないとしゃべれないんだろ。この根暗野郎」
僕は暴言を吐きつつ、メタトロンに馬乗りになり拳を振るう。
ゴシャ!!グシャ!!メシャ!!
メタトロンは反撃する間もなく僕に殴られ続ける。
このままダウンさせるつもりだ。
僕は執拗に殴り続けた。
メタトロンの顔が血に染まっていく。
神具がない執行者など、この程度かよ。
レミエルもそうだった。
神具を僕に奪われた瞬間負けを認めた。それを思いだしていた。
「え?」
メタトロンが僕の胸に手を当てている。
一瞬拳が止まる。
バリバリィ!!!
激しい轟音と共に僕は膝から崩れた。
バゴォ!!
メタトロンは立ち上がり、僕の顔面を蹴り飛ばした。
ガランガランガラン。
僕は机の群れに頭から突っ込んだ。
そのままメタトロンは廊下の方へ歩いて行く。
「アー。マケルカトオモッタオ」
メタトロンは再度、武器を手に入れてしまった。
076
僕はせっかくの勝つチャンスをふいにしてしまった。
自分の神具・グングニルを手にさせてしまった。
全ては僕の油断だ。
メタトロンは槍を片手に2-Aの教室に戻ってきた。
「ツギハ、ユダンシナイカラネ♡」
そう言って机を倒しながら突進してきた。
また槍での直突きだ。
僕は槍の矛先を両手で受けとめる。
が、そのままの勢いで2-Bの教室まで押し戻された。
槍が青く発光する。
僕はそれに気が付き、手を放して避ける。
メタトロンはそのまま後ろのロッカーまで突っ込んだ。
槍がロッカーに突き刺さる。
その隙に僕は飛び、アザゼルさんばりのドロップキックを
叩きこんだ。
ドゴォン!!!
2-Bの後ろの壁が吹き飛び、2-Cの教室にまでメタトロンはぶっ飛んだ。
「グハー!!!」
メタトロンは机に頭から突っ込んだ。
僕は3教室分の教室の壁を破壊してしまった。
これは修復が可能なのであろうか。
今はそういうことを考えている場合じゃないか。
この執行者メタトロンと決着を付けなければ。
ザシュ!!
一瞬僕は何が起きたのかわからなかった。
僕の腹にメタトロンは槍を突き立てていた。
メタトロンは金色の輝きを放っている。
いつのまに神呪縛解放を・・・・・・
僕にドロップキックを喰らわされた時か。
あの時しか考えられない。
僕は槍を引き抜こうとするが、
「イッショニソラニイコウナノダ」
メタトロンは槍に突き刺さっている僕を上に担ぎ、
そのまま上に飛んだ。
バゴォン!!
3-Cの天井を破壊して屋上まで飛んだ。
いや屋上を越えて本当に空まで行こうとしていたのかもしれない。
僕はメタトロンの顔を蹴り飛ばして地面に着地する。
着地と同時に腹に激痛が走る。
槍は僕に突き刺さったままだ。
メタトロンは凄いスピードで走って来る。
「ふん!!」
僕は左の腕で腹に突き刺さっている槍を後ろ側まで押し出した。
カランカラン
槍は抜きでて、激痛と共に大量の血が出た。
メタトロンは僕に手刀突きを放ってきた。
心臓を狙って。
それを両腕で受け止める。
執行者は本来の力を制限されている。
それを解放させることで常軌を逸した力を取り戻す。
解放したメタトロンのパワーは凄まじかった。
だけどアザゼルさんよりは弱い!!
「オラァ!!」
僕は頭突きをかました。
メタトロンが怯んだところに、前蹴りを放ち距離をとった。
「お前はしつこいんだよ」
僕の腹の傷はもう塞がった。痛みもなくなってきた。
しつこさで言ったら僕のほうが圧倒的にしつこいが
「じゃあ決着つける?」
いつの間にかメタトロンは槍を構えていた。
槍は僕の後ろにあったはずなのに。
それよりも・・・・・・
「お前しゃべれたのかよ!!」
僕は大声で叫んだ。
「ふふふ。MEは解放したからね。これがMEの素敵ボイスさ」
「そんな高い声が素敵ボイスだ?笑わせるなよ」
空が急に凄いスピードで曇りだした。
黒い雲。雷雲だ。
ピシャーン!!
雷が学校中に降り注ぐ。
「いいかげんにしようよMEは我慢の限界って奴だよ。さすがにYOUを滅殺しなきゃ、MEは怒り心頭さ」
巨大な雷がメタトロンに落ちた。
一瞬その光で僕の目は眩んだ。
目を開けるとそこには、
両手で1本の槍を構え、空中に浮く6本の光る槍。
計7つの槍を携えたメタトロンの姿があった。
「雷神7槍流。YOUに見切れるかな?」




