魔界放浪記
059
迷子 道がわからなくなったり、連れにはぐれたりすること。まよいご。
僕はその迷子だ。
今は魔界の商店街と思わしき場所に来ている。
魔界の商店街はやたらと眩しい。活気に溢れている。
色々なネオンが輝く街の中、僕は彷徨っていた。
文字が読めないのでさらに困った。
そして腹が減った。喉がかわいた。
魔界の居酒屋みたいなところに僕は入った。
店内は多くの魔物達で溢れ、酔っ払っているのか、喧嘩をしている魔物もいた。
僕はバーカウンターみたいなところに腰を下ろした。
「いらっしゃい。お!あんた人間かい?珍しい客人だね」
とカウンターの中にいるトカゲみたいな魔物が言ってきた。
「何か食いものと飲み物を」
「あいよ」
僕は携帯を出した。ルシフェロさんに連絡できると思ったからだ。
・・・・・・まぁ圏外ですよね。
完全に僕は、まいっていた。
「これが当店自慢のドラゴンの腸焼きとグノビールさ」
と料理が出て来た。
うわ、これは活字で表現するのは大変だ。
てかしたくない。
グロすぎる。こんなものを魔界の奴らは平らげているのか。
まぁ腹が減っていたので食ってみた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
意外といけた。
グロテスクな食べ物を食べている僕をあまり想像しないでほしい。
飲み物の部。グノビール。
おもいっきりビールって言っている。
僕は17歳だ。未成年だ。飲んでいいものだろうか。
だがさっきのドラゴンの腸焼きで余計に喉が渇いたので飲んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
普通のジュースだ。味が無いが
ビールじゃないよこれは。アルコール成分もなさそうだった。
ちなみに本物のビールは僕は飲んだことはないけど
魔界の食事を終え僕は会計に行った。
「30ベルフェゼニーになります。」
「え?」
「30ベルフェゼニーになります」
「2万円しか持ってないんですけど」
「上界のお金ね。なら1万円札を500ベルフェゼニーに両替して、
470ベルフェゼニーのお返しになります」
僕は470ベルフェゼニーを手に入れた。
ベルフェゼニーって何だよー!?
僕はまた商店街を彷徨っていた。
途中に「ルシフェロさーん」と叫んでみたが魔界は広い。無駄だった。
魔界の風俗街みたいな裏道を通ったところで
「お兄さんよっていかなーい♡」
と半人半蛇のお姉さんに呼ばれたが、無視した。
好みどころか僕が食われてしまいそうだったから。性的な意味ではなく。
「・・・・・・はぁ僕は帰れるんだろうか」
と路上に腰を下ろした。
財布からベルフェゼニーを出して見た。
魔界の文字で読めないけど10ベルフェゼニーにも100ベルフェゼニーにも、
ベルフェゴール様が堂々と印刷されていた。
魔界の王様とのやりとりが懐かしい。もうウザ城に戻る道もわからないけど。
「助けてー!!」
と女の子の声が聞こえた。
僕はその悲鳴のほうへと走った。
駆けつけてみると女の子がギャング風の魔物達に囲まれていた。
「お前がいけないんだぜ、俺達に宿代を払えって言うんだからな~」
「当たり前です。仕事ですから。お金は払って下さい」
「だからお前の身体で払ってやるっていってるんだよー」
とギャングが襲い掛かろうとしたところに僕は止めに入った。
「やめろ!!」
「あん?なんだてめぇは人間か?」
「話は聞かせてもらった。宿代を払えよ」
「生意気な人間だな殺せー!!!」
とナイフを振りかざしてきた。
僕はそのナイフを右腕で受けて折り、左腕のパンチを叩きこんだ。
ザバーン!!!!
とギャングの身体は粉々に四散した。裏道が血で染まった。
「化け物だ逃げろー!!!!」
と残りのギャング達は、一目散に逃げて行った。
悪魔の腕の威力は尋常ではなかった。これは帰れたら気をつけなければ。
帰れたらか、はぁ・・・・・・
「お兄さんめちゃくちゃ強いんですね」
と先ほどの女の子が声をかけて来た。
「私宿町で宿屋をやっています。『ルル』っていいます。さっきは助けて頂いて
ありがとうございました」
とピンクの髪のネコ耳の女の子ルルが頭を下げた。
「困っている人を見たら助けるのが僕のモットーだからね」
と僕は恰好をつけて言った。
帰り道もわからない迷子だけど・・・・・・
「良かったら私の宿屋に泊っていきませんか?」
とルルが言って来た。
「僕は上界に帰りたいんだけど、どれくらいかかるの?」
「上界ですか?宿町からだと10億キロメートルのところに門がありますけど」
「10億キロ?」
「ですから今日は泊まっていって下さい。明日案内しますよ」
僕はとりあえずルルについていくことになった。
ルルの宿屋についた。
かなり大きな建物だった。
店の中は広くいい香りがしていた。
「今日はこの部屋を使って下さい」
と案内されたワンルームマンションタイプの部屋に入った。
「ではまた明日の朝に」
とルルは出ていった。
僕はそのままベットに飛び込んだ。
帰りてー!!!!!
060
魔界には朝も夜も関係なかった。
ルルが起こしに来てくれるまで僕は時間がわからなかった。
なぜなら空が暗黒の雲に包まれているからだ。
朝も暗い。
「おはようございます。朝食の用意ができてますよ」
「おはよう。ご飯まで用意してくれてるんだね」
「あなたは命の恩人ですから」
とルルは部屋を出ていった。
僕は下の部屋に降りて朝食を食べた。
昨日のグロテスクな食事とは変わってちゃんとした食事が出た。
「え?私の顔になんかついてます?」
「いや上界に彼女を残してきてね。キミは彼女に似ているからさ、
つい見とれてしまったよ」
「彼女さん大事なんですね」
「ああ愛してるからね」
僕は朝食を食べたあとフロントに向かった。
「おおあなたが娘を助けて下さったお方ですか。昨晩はありがとうございました」
フロントにいたルルの父親であろう方が頭を下げた。
「いえ当然のことをしただけです。ちなみにお代は?」
「いいえ。恩人からお代を頂くことなんてできませんよ」
「いや払わせて下さい」
「・・・・・・では」
僕は宿代を払った。
ライダースファッションに着替えたルルがフロントの奥からやってきた。
「お兄さん。では門までいきましょうか」
「お兄さんはやめてくれ。僕は桐原優斗って言うんだよ」
「優斗さんですか。では行きましょう。お父さん行ってくるね」
とルルは僕の手を取って宿屋の外に出た。
魔界の空気は重い。こんなに曇っていたらテンションも上がらないな。
ルルが宿屋のガレージからサイドカー付きのバイクを引っ張ってきた。
「門までは10億キロありますからね。マッハバイクを使います」
「マッハバイク?」
「マッハスピードが出るからマッハバイクです。耐えられますよね?Gに」
「・・・・・・たぶん」
魔界の文明は地上よりめちゃくちゃ進化しているんだな。
僕はサイドカーに乗った。ルルから貰ったヘルメットをかぶって。
「公道まではゆっくり行きますけど、荒野を出たらマッハです。
気をつけて下さいね。優斗さん」
とバイクに跨ったルルが言う。
バイクが走り出した。
魔界の商店街よ。さよなら。
魔界の道路はマッハバイクを始め、魔界車?も数多く走っていた。
サイドカーから見る景色は地上のものとは比べものにならなかった。
地上の首都に比べても圧倒されるビル群。
どんな魔族があのビルを動かしているんだろう。
電光掲示板にも魔界のアイドル?であろう女性が踊っていた。
魔界にもアイドルオタクはいるんだろうか。
しばらく乗っていると道路はなくなり荒野に出た。
「飛ばしますよー」
とルルがエンジンを全開にふかした。
バイクの後ろから青い焔が出て、すぐにマッハのスピードに到達した。
「これ普通の人間だったら即死しているよー」
マッハバイクは圧倒的な加速力でどんどん加速していく。
荒野から砂漠地帯に入った。
遠くの方でドラゴンが飛んでいるのが見えた。
あれが昨日食ったドラゴンかな?と僕は思った。こんなデカイのか。
「あ!!気をつけて下さい!!」
ドガジャン!!!と激しい音を立ててマッハバイクは宙を舞った。
「キャー!!」「うわ!!」
僕とルルは砂漠に投げだされた。
衝突事故だ。
僕達がぶつかった謎の物体の正体は見上げるほどの超巨大なサイ?だった。
「ベヒーモスです。優斗さん、早くバイクに乗って。逃げますよ」
ベヒーモスと呼ばれる紫色した、そこらの山を凌駕する大きさのサイは、
明らかに僕達を睨んでいた。
「優斗さん。早く!!」
「ルルちゃん。離れていて」
とルルを遠くに避難させた。
「悪魔の腕、全力を確かめる。いい機会がきたかもな」
と僕は左腕を後ろに構えを取った。
ベヒーモスは後ろ脚を何度も蹴って突進してくる様子だった。
「来いよ!!紫富士山サイ!!」
勝手なネーミングを付けてみた。
「ブフォー!!!」
ベヒーモスが鼻息をあげて突進して来た。
僕はさらに深く左腕を後ろに構える。
ベヒーモスの鼻先の角が僕の胴体を貫こう、いや潰そうとする。
その時だ。
僕は左腕をまっすぐ地面に振り下ろした。
僕の左腕からは赤黒い巨大な衝撃波が放たれて、
角の先から尻尾までベヒーモスを両断した。
「ブモ?」
と真っ二つになったベヒーモスは綺麗に左右に分かれて倒れた。
ズドーン!!!と特大の砂埃が舞った。
僕とルルを砂埃は襲う。
「・・・・・・ぷはぁ」
と砂の中から僕とルルは飛びだした。
あまりにも想像通りの結末だった。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
と僕は大笑いした。
「何を笑っているんですか優斗さん?」
「アハハ、いや僕は完全に人間を辞めてしまったんだなって思ってね」
「?」
僕とルルは砂で埋まってしまったマッハバイクを掘り起こして立たせた。
「あぁやっぱりエンジンがかからないどうしよう」
とルルは何回もアクセルをかけていた。
「僕に見せてごらん」
僕はエンジン部分に神の腕を当てた
治るイメージ、治るイメージ、治るイメージ。
ブフォン!!
とマッハバイクは息を吹き返した。
「凄い、バイクメンテナンスの資格でも持っているんですか?」
「僕が持っているのは、神の腕と悪魔の腕さ」
また僕はサイドカーに乗りまたルルはバイクを走らせた。
ベヒーモスの亡骸をそのままに。
またバイクはマッハスピードにのった。
「あ!門が見えてきましたよ」
「本当だ!!」
マッハバイクを駆ってルルは崖を昇った。
普通にこの子の運転スキルも凄いよな。
崖の上にマッハバイクはヴォン!と着地した。
崖の上の門の前には懐かしい影が見えた。
「ルシフェロさん!!」
「やぁ優斗くん随分と待っていたよ」
珍しく上のスーツを脱いでいてシャツ姿だ。
「お友達ですか?」
とルルが聞いてきた。
「お友達だよ」
と僕は答える。
「優斗くん一日待ったけど、新しい彼女?真白のお嬢様に殺されるぞ?」
「ここまで送ってくれた恩人です」
とルルをルシフェロさんに紹介した。
「それよりその腕。ハハハ。キミには本当に驚かされるな、
それでベルフェゴール様の使い魔が俺のところに来たんだね」
「使い魔?」
「ホラ」
とルシフェロさんが僕のほうに小包を投げて来た。
僕は小包を開ける。
あは。なにが入っていたと思う?
ベルフェゴール様からの手紙とデビルギプスと思われるものだ。
「手紙は必要になった時に開けってさ」
手紙はポケットにしまった。デビルギプスは腕に着けた。
「優斗くん。恩人にお礼を言わなくていいの?」
「あ、そうだった。ルルちゃんこれをキミに」
僕は大量の100ベルフェゼニーの束を神の腕から具現化させた。
「ええ?こんなに?貰えませんよ」
「ここまで送ってくれたお礼」
と僕はサイドカーに山のような100ベルフェゼニーの束を入れた。
「優斗さん。また魔界に来ることが会ったらまたウチに寄って下さいね」
「ルルちゃん。また来れたら必ず顔を出すよ」
雄大に広がる魔界の荒野から見える遠いウザ城に僕は振り返り、
「ありがとうございましたー」
と叫んだ。
「さ。帰ろうか」
さよなら魔界。また来る日まで。
なんか近い内にまた来るような気がするけど。




