神の力 レッスン1
005
「それは無理な願いだね~優斗くん。もう完全にゴッドアームはキミとシンクロしている。外すことなんてできないよ、まぁ『外す方法』ならあるけど、キミにできる?」
「なんですか言って下さい。こんな刺青だらけの腕なんて嫌ですよ」
「死ねばいい」
男は無表情で言ってきた。
「死んだら勝手にゴッドアームは外れるよ、今のキミに自分を殺すことなんて無理だと思うけどね」
(死ねばいいって無理だろ・・・)
「まぁそう落ち込むなって気持ちは分かるよ少しだけだけどね。その腕ただの腕じゃないんだぜ、ちょっと練習してみるかい?」
「練習?」
男が両腕を広げてこう言ってきた
「札束を想像してごらん諭吉さんの1万円札の束だ。想像できた?できたならば、右腕に力を込めてそれを具現化してみるのさ、さぁやってごらん?」
「全く何を言っているのわかりません」
と僕はもう本当にこの男のトリックによって操られた人形みたいだなと思った。
僕は変わり果ててしまった刺青まみれの右腕を見てかなりのショックを受けている。
1万円札の束を想像ね・・・
僕はもう自暴自棄に刺青まみれの右腕に力を入れてみた。
右腕の刺青が黄金色に輝いてきた。
これってもはやトリックの世界じゃないよな?。
黄金の光が僕の視界を遮るほどに輝きを増していく。
「え?」
と男は落胆したような声を出した。
何故かといえば、僕の右腕には
1万円札が1枚握られていたからだ。
「す、すげー本当にでてきた!!」
僕は歓喜の声を上げた。
透かしてみても本物のようだ。番号もしっかりと記載されている。
「キミの想像力の問題かな?それともまだゴッドアームが完全に機能してないのかな?」
とはしゃぐ僕を見ながら男はポツリと呟いた。
「えーとルシフェロさんでしたよね?この腕マジで凄いですね」
「凄いのはキミの記憶力だ! 俺はルシフェル!!」
僕は刺青まみれの腕をもう忘れてしまったくらいはしゃいだ!!
1万円札が毎日出てくる・・・ってことは老後の心配もないわけだ。
僕の人生はバラ色だ!!自給自足のお小遣い制度ができたわけだし。
そんなことを考えながらはしゃいでる僕に男は言ってきた。
「でその1万円札どう使うの?」
「もちろん貯金します!!銀行に」
即答だった。
「ふーん」
男が興味なさそうに自分のポケットから携帯を出し何かを調べ始めた。
僕は今まで貰った小遣い、お年玉は全部貯金している。
何万円貯まったかは把握してないけど、(親が通帳を管理している)
これからはバイトをしなくても1万円札が毎日手に入る。
まさに夢のようだ。
「なるほどなるほど」
男が自分の携帯を見ながらブツブツと何かを呟いた。
「優斗くん。練習その2だ」
「練習その2?」
「銀行に行こう!貯金しに」
「もちろん行きますけどこの腕じゃ・・・・・・」
と僕は刺青まみれの腕を男に見せる。
「ファッションとしては中々いいものだと思うけどね」
と男は面倒くさそうにアタッシュケースの中を探し始めた。
そしてあるものを僕の方へ投げてきた。
「ホレ」
「なんですか?これ?」
渡されたものは黄金のギブスだった。
「それ着けとけば周りの人からは普通の腕に見えるから」
とまた魔法(?)のグッズを僕に渡してくれた。
これで学校で注目されなくて済むな~てか刺青じゃ学校退学レベルだしね。
「こんなものまでありがとうございます」
僕の中でのこの男の評価はもはやドラえもん以上になっている。
なんでこの男は僕にこんな便利グッズを用意してくれるんだろうか?。
「ほんじゃ銀行にいくよ優斗くん。ついてきてよ」
と男は入ってきた窓から出ていった。透けて行った。どういうトリックだ。
もちろん僕は窓から出るなんてことはせず玄関から銀行に向かうのだけれど。
やっぱり僕の部屋のドアは開くようになっていたから。
それでもひとつ僕は気づいていないことがあった。
あんなやり取りや魔法の腕を手に入れてはしゃいでいたのに、
時計が午後3時50分で止まっていたことを。
006
「こんな金のギブスはめていても周りの人は全く気にしないんですね」
と前を歩く男に僕は質問する。
「小心者だな~優斗くんは、それくらい目立っちゃってもいいんじゃないの?」
と男は道路の鏡に指を指す。
「鏡のぞいてごらん?」
僕は言われた通りに道路反射鏡に自らの姿を映した。
「うわ!マジかよ!?」
鏡に映る僕の姿は反転しているけど、そこに映る僕の腕は
まっさらな腕だった。
自分の腕がそのままの状態ってのが本当に嬉しかった僕は、
何度も何度も鏡に姿を映した。
「ナルシストの気があるのかい?」
僕の気を削ぐように男は言ってきた。
「ちなみにそれ付けているとき体重は増えるからね」
「まぁそれ位ならば問題ないですけどね」
「10kgだよ」
「10kg!?」
「筋肉を凄い付けましたとでも言っとけば問題ないだろ?キミのその腕の存在を隠すアイテムだからね。そのゴッドギブスは」
ゴッドギプスって言うんだこれ・・・・・・ださいな。
僕はそう感じたが黙っておくことにした。
身体測定はもう済んでいるし、体重10kgプラス位問題ないよな。
その時の僕はまた2つの事に気が付いていなかった。
1つ 腕に10kgの重りを付けているのに全く疲れと重さを感じてないこと
2つ 先に歩いていた男が鏡に映ってなかったこと
を。
そんな些細な点を気づかせない為か男は続ける
「あと、その腕触られても大丈夫だから」
「え?流石に金属の感触がするんでは?」
「だ~か~ら~それも含めた便利アイテムなんだよ、そ・れ」
あんまり質問ばかりすることにこの男はうんざりしてきたらしい。
口調が乱暴になってきているのが証拠だ。
僕は質問をするのを控え目的地である所の銀行へ入った。
「いらっしゃいませー」
と受付の美人女性スタッフが声をかけてくれた。
まぁ仕事だから誰にでも言うのだろうけど・・・。
僕はポケットに入れてきた1万円札を出しATMに向かう。
銀行のカードは僕が所有しているので、入金や金を下ろすことは僕でもできる。
暗証番号を入れカードを差し、1万円をATMに入金した。
1万円も入金できたし家に帰りますか。
「あ、桐原くんだ!おーい」
いつもの聞きなれた声がした。
真白さんだった。
「偶然だね。桐原くん。私もバイト代をおろしに来たところなんだ」
「そ、そうだね偶然だね僕もそんなところかな」
クラスのマドンナ、真白さん。本日会うのは2回目だけど、
本当に可愛いな~。
誰にでも優しい完璧な女の子、偶然でも会えて嬉しいものです。
学校の制服姿で私服じゃないのがちょっと残念だけど・・・
「もうそろそろなんだけどね。入金されるの。待っているんだ」
「そうなんだ」
話が続かない。
僕は女の子としゃべるのが極端に苦手な人間だ。
男とは普通に話せる、げんにこの男ともコミニュケーションは取れてるでしょ?
でも真白さんはこの男のことは無視しているのかな?
やっぱマフィアとかに見えるからなのかな?強面だもんね。
その男は僕のすぐ横で携帯を操作していた。
「・・・そろそろだね」
と男がポツリと呟いた。
パン!!!!
と銀行の中で聞いたことのない破裂音が炸裂した。