character making -”呪われました”の15作目-
ここは、とある辺境の”お山”です。深く静かな森の奥、針葉樹に囲まれた広いお社の境内です。白い砂利を敷き詰めた広いスペースで、”呪われた”銀髪美少女の”ガンマン”が武器の”拳銃”を構えて、立っています。12、3歩離れて相対しているのは、歳の頃は十代後半くらいの凛々しい顔立ちをした少年で、長めの黒い髪を首のあたりでひとまとめにして、くくっています。
”ガンマン”の美少女さんは、名前をシルフィさんと言います。生来の”呪い”(レベルが午前0時に1になる)の副作用で、常識外の身体能力と精神的な強さを身につけた、超絶可憐な10歳くらいの見た目の女の子です。幅広の帽子に、鋲撃ちされた青色のズボン(ジーンズ)、白いシャツに、茶色のポケットがたくさんあるベスト、腰には”拳銃”のホルスター、といった”ガンマン”スタイルです。
長い銀色の髪を、三つ編みにして後ろに流しています。青い瞳は相対する黒髪の少年を見据えて、小さな桜色の唇から、静かに呼吸をして、タイミングを計っています。
相対する黒髪の少年は、前を重ねるようにして、帯でまとめた、ゆったりとしている、白い上着に、これまたゆったりとした長い筒のような濃い水色のズボンをはいています。少年は、シルフィさんに対して、半身で構え、足を広げているようですが、長い裾によってその足の位置が分かりにくくなっています。長さが少年の腕ほどの、片刃の直刀を両手に構えています。
すいっと、不自然すぎるように自然に少年が間合いをつめます。見事な足さばきで、まるで空気の流れのように、音をほとんど立てないで、シルフィさんへ近づきます。シルフィさんは冷静に数発、トリガーを引いて”拳銃”から光の弾丸を放ちます。それはまっすぐに少年の体へと向かいます。少年は軽く体を左右に振って、それらの弾丸をよけつつ間合いを詰めていきます。そして、最後の間合いを一足飛びに詰め、鋭い突きを少女の白く細い首めがけて放ちます。
シルフィさんは、そのタイミングであえて前に踏み込みます。刃はシルフィさんの首すれすれを突き抜けていきます。斜め前に踏み込んだシルフィさんはそのまま0距離で少年の顎に下から銃口を突きつけ、躊躇することなく引き金を引きます。何か固いものを殴るような音とともに少年の体が宙に飛びます。
少年の体にうっすらと半透明の障壁が見えます。それは最初青く、弾丸が顎にあった瞬間黄色く光りました。少年は空中で後ろへ回転し、銃撃の勢いを殺して、地面に降り立とうとします。その着地を狙ってシルフィさんは、もう一方の手にも”拳銃”を握って、二丁拳銃で連撃を行います。少年は着地をしながら、剣を片手で振るい、光弾を弾きます。そのまま空いている方の手で、地面を叩き、後方へと、とんぼを切り回避していきます。
シルフィさんは、連撃で牽制しつつ、”力”を集中します。そして、少年の体が止まった瞬間をとらえ、背中に担いでいた大型の長柄の”銃”の一種である、”ライフル”を構えて発射します。太い筒のような光の束が少年を襲います。少年は咄嗟に手に持った剣を前方に飛ばして、光の束を迎撃します。剣は光の束を蹴散らして、くるくると宙を舞い、離れた地面に突き刺さります。
得物を失った黒髪の少年は、あわてることなく、無手で間合いを詰めます。と、少年の目が妖しく光ます、うっすらと、唇が笑みの形になります。紅を引いたような赤い唇が強調されます。目が細められ、夢見るような表情です。体の動きも先ほどの機敏なものとは違い、不可思議でとらえようがありません。シルフィさんの目からは、少年は残像を残しながら、まるで踊るように近づいてくるように見えます。再び両手に構えた”拳銃”の攻撃もまるで命中しません、ゆらりゆらりと躱す姿はまるで幻のようです。
いつの間にか間合いを詰められて、シルフィさんは少しびっくりして青い目を見開いています。懐に入り込んだ少年は、シルフィさんの身体に触れて、力の向きを変えます。シルフィさんは、その手にあえて逆らわないようにしつつ、身体をさばきます。下手に抵抗すると、かえって痛いことを知っているからです。なかなか危うい場所をなでるようにして、少年は少女の体に接触します、次の瞬間、シルフィさんは大きく投げ飛ばされてしまいます。しかし自ら飛んで行ったので、ダメージはほとんどありません。一瞬だけ半透明の障壁が視覚化されますが、それは青いままです。
少年は、追い打ちをかけるべく、間合いを詰めます。銃撃をかいくぐりながら、密着しての関節技です……関節技ですよね、なんだかただ抱きしめているだけに見えますが。妖しい笑みを浮かべて、美少女を身動きできないように拘束している黒髪の美少年……。なんだかその整った顔をシルフィさんの顔に近づけていいっているような……。シルフィさんは、うつむいて抵抗していますが、小柄な体格が災いしているのか大した抵抗になっていないようです……て大丈夫なんでしょうかこれ?
ひょい、とシルフィさんが顔を上げます、迫り来る美少年の顔とは殆ど触れそうな距離です。眼を閉じて、形の良い小さな唇を少年へと向けます。その口には、薬莢が咥えられていました。
轟音と閃光です。ほぼ0距離で光の爆発が迫って来た美少年の顔面に炸裂しました。”銃”の”弾丸”を媒介にして、指向性を調節した”力”で、爆発を発生させたのです。黒髪の美少年は衝撃で吹き飛ばされます。身体を包む半透明の障壁は、急所への攻撃を受け、赤くなっています。
「『すみやかにくるしみいたみはらいたまえとかしこみもうす』」黒髪の美少年が素早く”祝詞”を唱えると、その赤くなった障壁が青く回復していきます。
そして、右手の人差し指と中指を立てて、他の指は握り込み、顔の前にかざします。空気がはぜる音とともに、稲光が少年の体の表面に走ります。同時に黒髪の少年の姿が変化していきます。胸が膨らみ、さらしを押し上げます、体つきがまろやかになり、女性の姿へと瞬時に変わっていきます。
「いかづちがみ」女性形になりました、しかし妙に男前な容姿です。その不敵な表情で、放たれる言葉とともに、両肩からにゅるりと黒いヘビが出現します。鎌首をもたげ、その口から雷撃が放たれます。広範囲に撒き散らされた雷を、素早く器用に避けていくシルフィさんです。同時に”2丁拳銃”で反撃までしてのけます。その表情は楽しげで、にこにこと笑っていました。……”お山”に来て、というより、”銃”の師匠であるビリーさんと出会ってからこっち、妙に戦闘好きになってしまった、シルフィさんです。
***
しばらく楽しい戦闘が続いて、決着はつかない(つけない)で終わりました。
***
その後……の、お話です。
「さて、言い訳を聞こうか」妙に男前な口調で話す、すごい迫力のある美女が、軽薄が服を来て歩いている、という感じの美青年へ、問いかけます。静かな怒気が見えます。青年さんは怯えています。
「ち、ちがうんだ、あれは僕がやったんじゃないんだ!」軽薄な青年が言います。
「確かに、今回の”式”の設定は自律行動ですので、ナギさまの直接的な行動ではありませんね」前で布を合わせて、帯で止める形の服を来た、老人が、湯飲みのお茶を飲みつつ言いました。
「そ、そうだろう!あれは僕のせいじゃ……」
「ただし、その行動設定は、元になった”存在”の思考とか嗜好とかに反映されてますゆえに」さらりと付け足す老人さんです。
「有罪(guilty)」ニッコリと笑う怖い美女さんです。
「なんか理不尽なきがするー」叫ぶ軽薄な青年さんです。そして、夫婦喧嘩が始まりました。超絶すぎて、特別に結界を作って、”世界”と隔てなければ天変地異が起こりそうな規模の”熱量”をまきちらしつつ。
老人はそれらの”力”を隔離できる”結界”をしれっと構築して、お茶の続きをいただいておりました。
軽薄な青年さんはこの”お社”で奉られている神様で、名前をナギさんと言います。夫婦喧嘩をしている美女さんは、もちろんナギさんの奥様で名前をナミさまと言います。それらを横目で見ながらお茶しているのは、軽薄青年風堕神を、奉っている神主のヤマトさんです。
その側の縁側に、シルフィさんが黒髪の美少年風の存在と並んで座っています。
「すごかったですね、あんなに遅滞なく変容するとは思いませんでした」とシルフィさん。
「主の腕がよろしいのでありまして。ただ、種々の変容先で元になったお方の行動原理に引きずられ過ぎるきらいがあります。そのあたりの設定は用変更かと、愚考するしだい」淡々を言葉を吐く黒髪の美少年さんです。
「最初の剣をふるっていたのが、ヤマトさんですよね?」
「肯定いたします。武器戦闘は主の物を主体とさせて頂いております。と申しましても”刀術”の基本程度で御座いますので、到底、主さまには及びませんが」
「基本といっても、私の”刀術”には奥義のような物はないからの、基本にして全てという事だから、習熟すれば、かなりの線まではいこう」ヤマトさんも会話に参加します。
「精進いたします」ぺこりと綺麗な礼をする美少年さん。
「楽しみです、で、次の予測不可能な体術と、回復技を使っていたのがナギさまですね」シルフィさんが、少年はもっと強くなると聞いてわくわくしながら、話を続けます。
「肯定です。密着戦闘と、自己および他者への修復快気行為は”堕神”さま……もとい、主さまが奉っておりまするナギさまが基本となっております、少々問題もございますが、死に瀕していても走り出せるくらいの回復は可能でございます……さすがに本体の様に、死を超越するとまではいけませんが……」
「……俺でも死者復活はできないよ~。せいぜいあの世まで迎えに行くくらいかな?」へらりと、乱れた服を整えつつナギさまが復活します。
「で、最後の雷撃がナミさま、ですねあれはドキドキしました」うっとりとした表情をしています、可憐な美少女として何か間違っていませんかね、シルフィさん。
「うむ、本来は8柱の『いかずちがみ』での雷撃だが、”式”に組み込む容量の問題で2柱しか再現できなかった。まあ、威力は、三千世界でも上位に入るだろうな」こちらも多少乱れた髪を整えながら……さりげなく首筋の赤い吸い跡を隠しつつ会話に参加するナミ様です。
「どちらかと言いますと、アレを躱すことのできるシルフィさんにびっくりなんですよね」僕は必ず当たるのに、と続けるナギさま。
「よく見ればかわせるのです」小さく握りこぶしをつくって手を挙げるシルフィさんです。
「相変わらずいい眼をしていますね」術関係……その他諸々の先生であるヤマトさんは、できの良い生徒の頭を撫でてあげるのでした。実のところ”できの良い”とう程度ではない実力の持ち主ではあるのですが。
「しっかし、力を貸した俺たちが言うのもなんだが、なんとも規格外な”式”を作ったものだなー」しみじみと言うナギさま。
「何を言うのです、最初はもっと穏便に遠隔地で自律行動ができる”式神”という設定で造り始めたのに、面白がって無理矢理参加したんじゃないですか」とヤマトさん。
「で、こいつだけだと暴走するから、私もつきあったと」ナミさま。
「そのわりには、結構のりのりで自分の”技”を設定していたじゃない」にししと軽薄な笑いを上げながらの、ナギさまです。ナミさまは少し顔が赤くなっています。
「おかげで規格外の”式神”となってしまいましたが……まあ、よろしいでしょう。能力が高いに越したことはありませんし。存在維持もこちらからの”力”の供給なしで自己解決できるようにしましたし」とヤマトさん。
ところで、このお三方、とどのつまり、霊的な接続道がつながっているだけで、あとはふつうの生命体を創造したことには気が付いていない……のではなくて、気にしてないだけのようです。
「そういえば、なんで遠隔自律型の”式神”なんてつくろうと思ったんだい?」と、いまさらながらの疑問を提示するナギさまです。
「それはですね……」
***
「というわけで、あたらしいキャラクターをつくってきました!」シルフィさんは、”お山”の鍛冶屋さんであり、”異世界映像映写機”の重度な使用者であり、常識を捨て去った発明家である、黒い大きな竜の人(10万と38歳)であるところのヤミさんに、かわいく言いました。
「まさか、キャラクターメイキングで実物を作ってくるとは思わなかったなー」ヤミさんです。最近は拡張現実を利用した、ロールプレイングゲームの開発、運用に熱心な、ゲームマスター(狭義の)でもありますのです。
「お初にお目にかかります、主であるところのヤマトさまに制作していただきました”式神”でございます。このたびは拡張現実の模擬実験(simulation)に人手が必要であるとのことで。本来ですと主さまが参加を希望されておられたのですが、多忙につき、とのことでわたしに代役を、とのことでございます」ぺこりと礼をしながら、黒髪の美少年は言いました。
「ええと、まあ基本お遊びですから、気楽に行きましょうね。ところでなんとお呼びすれば?」とヤミさんは大きな爪で黒い頭をかきながら言いました。
「四季とお呼びくだされば幸いです」
「……あー、年季の入った熟練の神職の技が基本にあって、主神級の二柱の能力の賦課された自律式の”式神”ですかぁ……とんでもないものができあがってしまったような気がします」少し遠い目になる、竜のヤミさんの洞窟に、居候している、堕天使のエルさんです。
そうです、とんでもない存在なのです。それを、高難易度とはいえ趣味の延長である”ごっこ遊び”につぎ込むのが、辺境のとある”お山”の流儀というものなのでしょう……か?
遊びの為に新生命体(神様級?)を創造してしまうくらいには、平和な”お山”のとある日常でございました。