彼女はそういう星の下にいる
かよちゃんと俺は同じ高校に入った。別に示し合わせたわけでもなかったのだけど、家から一番近い市立校で、学力もそこそこな進学校だったから、まあお互いそこになるような気はしていた。相変わらずの腐れ縁である。
でもクラスまで一緒になったのは久しぶりで、露骨に嫌そうな顔をされた。酷い。まあ出席番号は最初と最後から二番目だったから席は遠かったけど。
あ、そうそう、羽場くん。小学校が同じだった羽場くんも同じクラスになっていた。かよちゃんの前の席で、昔と同じように本を黙々と読んでいて、懐かしくて声をかけるととても驚いたような、豆鉄砲をマシンガンで打たれたくらいに吃驚していて、なんだか和んだ。俺のこと覚えてるかなって思ったけど覚えてくれていたみたいだ。そういえば前は卒業と同時に親の転勤で引っ越したんだよな。かよちゃんは「なんか見たことある背中だと思った」と言って、羽場くんに楽しそうに話しかけていた。
さて、問題はここからだ。
俺はホームルームが終わって早々に女子達数人に声をかけられた。もちろん俺だけじゃなくてさっき仲良くなったばかりの周りの席数人もだ。全員面倒そうな顔をしていてこいつらとは仲良くなれると確信した。
「親睦深めたいから、カラオケとか行きたいんだけどー……どうかなぁ」
甘えたような声に吐き気を感じながらも俺はできるだけそれを悟らせないように笑顔で返した。こざっぱりとした女性ばかりに囲まれていたせいか、俺はこういう女子があまり得意じゃない。かよちゃんがこざっぱりとしているかは置いておくにしても皆自分の距離感を持っていたし、そこから無遠慮に立ち入ってくることはない、気のおける友人たちばかりだった。
「今日は……」
「あっ今日じゃなくてもいいんだよ? 綾原くんたちが空いてる日で」
ぐ、退路を塞がれた。こういうとき自分の八方美人が嫌になる。
「えー……と……」
ふと視線を移すとさっき一緒に図書委員になったかよちゃんと羽場くんが一緒に教室を何か親しげに話しながら教室を出て行こうとしていた。く、くそう!
「カラオケじゃなくて焼肉ならいいよ腹減ってるし」
隣の席の加藤が面倒そうに提案した。
「おっ焼肉いいな! 俺も行く!」
色気より食い気の男子数人が食いついた。
「えっでも……制服に匂いついちゃ……」
「じゃあ男子連中で行ってくるわ」
お、おお、加藤お前天才だな!! 男子と仲良くなれるし、女子は遠ざけられる!
「えっ焼肉なら私も行く!!!」
教室を出ようとしていたかよちゃんが大声を張り上げた。となりの羽場くんギョッとしていた。
「あっでもクソ!!! 制服に匂いがついたら母さんにうぐぐ……いやでも行く!! 羽場くんはどうする!? え! 行かない!? 勿体無い!! だからこんなに細っこいんだよ! もっと肉食べなきゃ!! お小遣い貰ったばっかだし私がおごってあげる! ちょっと待ってて! ジャージに着替えるから!」
周りがポカーンとしているなか、何を思ったかその場で制服を脱ぎ始めようとしてすぐそばの女子に引きずられていった。……かよちゃん。ここでも君はモテそうにないけど今回は俺のせいじゃないから八つ当たりはよしてね。ていうかここ最近さらに食欲増してない?
と、思っていたら、加藤が突然吹き出した。ヒーヒーと苦しそうに笑うので大丈夫かと声をかけると、加藤は息の合間に苦しそうに返事をした。
「ぐぐぐ、あいつ面白いな、名前、なんていうんだろ」
これはもしやフラグなのだろうか、と思ったが、それはないなと首を振った。彼女はそういう星の下にいる。言ったら殴られそうだから黙ってるけど。
かたん、と後ろの席の人が立つ音がした。なんで聴こえたんだろうか、それはとても小さな音だった。振り返ってみると、女の子は自分を見ている俺にちょっとだけ吃驚したみたいだったが、一つ会釈をするとトテトテと教室を出ていった。
柑橘系の爽やかな香りが鼻をくすぐった。