俺の幼馴染について 綾原啓太郎
俺の幼馴染は普段はごくごく平凡な女の子だ。よくぼーっとしていたり、女の子にしてはちょっと口が悪かったりするけど、ともかく普段はいい子なのだ。笑うと右頬にだけえくぼが浮かぶんだけど、俺はその笑顔が大好きだった。
しかし何かの拍子にネジが飛んでいくことがままある。その時の彼女の思考回路は小学生だ、さらに言えば幼稚園児。ともかく本能の赴くままに行動する。
そこに遠慮なんて文字はなく、昔からよく泣かされてきた。よく言えば無邪気、なのだろう。そのくせ同時にとても腹黒い。最近は喧嘩を売られることもなく、実に大人しくしていたのだがこの間、彼女のギラついている目を見てしまい、事情を知った。まさかコロッケひとつでここまでおおごとになるなんて。ともかくあの目をしているときは近づかないに限る。
……それに原因の一旦は俺にもあるので、近づくの、怖い。
ずっとずっと疑問なんだが、何故だかよく彼女との仲を勘違いされる。けど違う。それだけは、ない。彼女のことはもちろん大事だし、大好きだ。でも、それだけはない。だって自分の姉、もしくは妹、それか母親に欲情する人間っている? いたとしてもそれ、ほんのわずかじゃないか。俺はそんな特殊な性癖は持ち合わせていないし、彼女だってきっと俺と似たような心持ちだろう。勘違いも甚だしい。
コロッケ事件から一週間、真っ青な顔で庵里さんが俺を訪ねてきた。彼女とは委員会が同じでたまに話すくらいだったのだけど、綺麗な子だな、としか思っていなかったのでついこの間告白をお断りして幼馴染とコロッケを食べに行った。そしてどうやらそれが気に食わなかったらしく、幼馴染に手を出してしまったらしい。人づてに聞いた話だから、事実かは知らないけど、彼女の顔を見て確信した。
そして泣き付かれるように俺の幼馴染をどうにかしてほしいと言ってきた。実際涙目だった。うんそうだよな、かよちゃん加減ってもの知らないからな。女子の陰険さもかよちゃんにかかればあっという間に土俵が小学生の悪ふざけに様変わりだ。
俺もいい加減可哀想になって久しぶりにかよちゃんに会いにいくと、かよちゃんは普段より1.5倍肌ツヤが良くなっており、普段なら馴染みにしか見せない笑顔を大盤振る舞いしていた。吃驚した。
(ああ、いきいきしてる。ここんとこずっと死んだ魚の目みたいだったのに、キラッキラしてる)
と思った。元々血の気が多い方だった昔の彼女は常に目がギラついていたが、いつからか自分を抑え込むようになっていて、そんな顔を見るのは随分久しぶりだった。
「かよちゃん」
「おっ啓太! 久しぶり! 最近顔見せてなかったね」
かよちゃんは俺のことを啓太と呼ぶ。啓太郎まで声に出すのが面倒だからだそうだ。
「そっかーー啓太が来たってことはイタズラも今日で終わりか。つまんないな」
かよちゃんは口をとがらせてうつむいた。
鋭い。俺の要件が言わずともわかったようだった。
それにしても随分あっさり手を引いてくれた。駄々を捏ねられると思ったのだが。そんな俺の表情に気づいたのかケラケラとかよちゃんが愉快そうに笑った。
「別に。向こうがこれに懲りたなら構わないよ」
「そっか」
相変わらず変に粘着質で変にさっぱりしている。
「ここで悲報だ」
かよちゃんと同じクラスで小学校からの悪友である琴吹亮輔がクラスに登校してきた。
「えなになに」
かよちゃんは亮輔の言葉に小首をかしげた。
「派手にやりすぎたな、お前の奇行、学校中の噂だ。当分モテないぞ」
かよちゃんは発狂した。