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私の幼馴染について2

なんだろう、これがイジメであろうことはなんとなく理解した私だったのだけど、なんなんだろう、これっぽっちだって心当たりがないのだ。クラスメイトとは上手に付き合えていたつもりだったし、帰宅部だから上級生に目をつけられることもそうないはず。そもそも私は目立つことをあまり好まない。正義感も強くないし、年上にはとことん下手に出るタイプだ。じゃあ何故だ。

クラスメイトの葉月ちゃんに来客用スリッパを履かされて、茫然自失のまま教室に連れてこられた。クラスメイト達はいつものふてぶてしさのない私に驚いたようで何事かと声をかけてくる。

心配げに覗き込んだり話しかけてくれるみんなは昨日と変わらない様子で、どうやら今回の件とは無関係だったようだ。私はますます疑問が大きくなった。何故だ。

クラス委員の長谷川くんはやれ緊急HRだとか言ってたけど、止めた。なんとなくクラスメイトたちはこんなことする気がないと思い始めていた。みんな真面目でいい人たちばかりであると、私は知っていた。

そう、ちょうどその時であった。


「かよちゃん! 国語の教科書忘れたから貸してくれないっ?」


幼馴染で隣のクラスの綾原啓太郎がひょっこりと教室に現れたのを見て、私は全てを理解した。



な る ほ ど お 前 の せ い か 。



私は思い出した心当たりに白目を向けそうになった。というか実際向けていたそうだ。花も恥じらう十代が白目。軽く死にたい。

なぜ今の今まですっかり、キレイさっぱり忘れてしまっていたのだろうか。

それは生ゴミ事件の前日、私は啓太と一緒に下校しようとしていた。今日は陸上部がお休みで、帰りに買い食いして帰ろうと三日ほど前から約束していたのだ。ほかにも小学校や幼稚園時代からの友人も数人誘っていたのだが、急用やら何やらで結局二人きりになってしまったのだ。まあ仕方ない。正直啓太とは目立つからあまり並んでいたくないのだがコロッケおごってくれるらしいしそれで手を打とうじゃないかと意気揚々に自転車置き場に向かっていた時だった。

「綾原くん、ちょっといいかな」

私は声の聞こえた方を見て「おっ」と思った。

花野原中学のマドンナと呼ばれる一組の庵里花凛ちゃんだったからだ。初めてこんなに間近で見たが、肌は白く抜けるようで、髪はお姫様みたいに緩やかなウェーブを描き、化粧一つしていないのにお目目はぱっちり、まつげも長くてとにもかくにも美しい。見飽きそうにない顔だ。

庵里さんはもじもじとして頬を赤らめ、啓太を見やり、私はだいたい察して啓太の背中を押した。ほれ、今日はもうコロッケいいから行ってこい。

啓太は恋愛に関してあまり積極的でないが、ニブチンでもないのでこの時点で啓太は一瞬だけ面倒そうな顔をした。彼にしては珍しいリアクションだが、そもそも啓太は自分の色恋沙汰に興味がないというか嫌悪している節があったので驚くことでもなかった。女の子と一緒にいるより昔馴染みと遊ぶほうがずっと楽しいと思っているらしい。たぶん性欲枯れてんじゃないかって思ってる。前に部屋に遊びに行ったときもパソコンの履歴は新発売のゲームのこととか、部活関係のことくらいで無料エロ動画を見た形跡もないし、部屋のすみずみまで捜索したがエロ本もアダルトビデオもとうとう見つからなかった。チッ。今度父さんの秘蔵エロ本盗んで置いてってやろうかな。

啓太はすぐに人あたりの良さそうな笑顔を浮かべ、庵里さんに向き合った。

「えっと、何かな」

「あの……ちょっとここじゃ……時間、もらえたりしないかな……?」

あざといしかわいいし、小柄なくせにスタイルもいいからもう眩しい。アイドルオーラ半端じゃない。とりあえずお邪魔虫は退散しよう。首を突っ込んで馬に蹴られるのは御免だ。

「あー……じゃあ私先に帰っとくわ」

「えっ帰るの」

「えっうん」

驚いた啓太に驚いてしまう。

流石に今日はもう無理だろう。コロッケは一人で食べるよ。さみしいけどさ。

「い、庵里さんどのくらいかかる? すぐ終わる?」

「えっえっと」

あっそんな言いづらいこと言わせるな!! 告白してあわよくば付き合ってそのあと二人でいちゃいちゃしたいとか考えているんだろうからとても言いづらいわ!!

もうこの時点で完全にこのマドンナを振る気だなあと気づいたし勿体無いと思ったし、多分こいつ今コロッケ食べたくてしかないんだろうなと思った。昔からお互い食い意地の張った子供だった。お互いの家でご飯を食べるときもまるで遠慮せず二回はおかわりしていた。だっておばさんの料理美味しいんだもん!!

「コロッケなら来週またみんなで食べに行けるし、今日はいいよ! 庵里さんごめんね、こいつ食い意地すごくって」

「かよちゃんには負けるよ!」

「うるせえ黙れ!!」

いい加減恥ずかしいからかよちゃん呼びはやめろと言っているのだがこれがなかなか治らない。

「…………仲、よろしいんですね」

庵里さんがニッコリと笑った。それは黄金比のように綺麗な笑顔だったのだが何故か体中の鳥肌が総毛立った。何故だ。

私は冷や汗とともに自転車にまたがった。も、もういい! 帰ろう!!

「じゃっじゃあお先に! ごゆっくり!!」

「あっかよちゃん!」


十分後、学校のマドンナを速攻で振って追いかけてきた啓太に商店街のコロッケをおごってもらい、気をよくした私はあの時の悪寒を忘れてしまっていたのだ。

そうか、そういうことなのか。



とんだマドンナもいたものだ。



私はもちろん啓太のことを嫌ってはいない。むしろ大切な家族のように思っているし、幼馴染であることはもちろん、友人であり、兄であり、弟である。たまに自分との隔絶さを思い知らされて薄気味悪く思うが、それを除いても私は彼のことが大好きだった。それは決して恋慕という感情ではない。それだけは勘違いしないでもらいたい。

だから私は我に返ったあと、どうしたものかと思った。どうすればあの分厚い猫の皮を被った生ゴミ女に粘着質に陰湿陰険極悪非道に、誰にも気づかれないよう復讐することができるかと考えた。私は開き直るととことん根に持つタイプだった。これだけは言っておきたいのだが、私は決して自分からは喧嘩を売らない。絶対にだ。喧嘩は疲れるし、精神を削る。あと面倒くさい。しかしこれも知っていて欲しい。私は売られた喧嘩は倍額で買い取る主義だ。


後半付け足しました。

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