私の幼馴染について 水野佳代子
突然だが、私の幼馴染の話をしようと思う。
幼馴染は非の打ち所のない人間だった。私は性格が悪いから幼稚園の頃から幾度となく彼の粗探しを試みたが、幼馴染は本当に信じられないくらいに完璧な人間で、私は彼のことを好いていたが、それ以上に気味悪くも思っていた。
家が隣同士で親同士も仲がよく、自然といつもいつでも幼馴染と行動を共にしていたわけだが、小学校も中頃ほどから彼にとうとうモテ期が訪れた。いや、正直その前から幼馴染はモテていたのだが、完全に表面化したのは小学三年生の時だった。さらにわかりやすく付け加えるのならば女子がませてきた時分の頃だった。
あの頃は何故だか好きな人がいないと浮くという謎の現象が起きていて、波風立てるのが面倒だった私は誰にも人気のないいつも本ばかり読んでいる黒縁眼鏡が印象的な(というかそれしか特徴がないくらい彼は存在感がなかった)羽場くんを好きという設定にしておいた。私まで幼馴染が好きというと、割と洒落にならなかったからだ。そうでなくても家が隣でお互いよく話すし一緒にいたからよく誤解されたものだ。同じクラスの子や、幼稚園が同じだった子達なんかは私と幼馴染の関係をよく知っていて、変な勘ぐりはしてこなかったが。
当時、同じ学年の女の子達は八割がた幼馴染が好きだった。彼が人気だった原因は顔も頭も運動神経までも大変優秀であったことも大きな要因だったろうが、それ以上に彼は女子に意地悪なんかしない優しく気性穏やかな人間で、ともかく老若男女問わず好かれたのが一番モテた理由ではないだろうかと思っている。(あの年頃の男子はたいてい女子をからかいたがり、大人たちの神経をさかなでる行動をとるものだ)
あの頃はまあなんだかんだでまだ平和な方で、たまに幼馴染に告白して玉砕する子がいるくらいで、……何度も繰り返すが本当に平和な時代だった。
思い出すたび胃がキリキリと痛み出す。
転機は私が中学二年生の頃に起こった。
それは爽やかな朝の日で、私は久しぶりにいつもより早く布団から出て、軽い足取りで家を出て愛車にまたがっていつもよりずっと早く学校に向かった。その日はむしろ機嫌がいい方で、鼻歌を歌いながら通学路を自転車で登校した。庭先で水やりをしていた知らないおばさんにギョッとされたのを今でも覚えている。
しかしなんということでしょう。校門をくぐり抜け、軽くスキップを踏みながら玄関口を抜け、下駄箱を開けると生ゴミがぶち込まれていた。誰のって。私のに。
生ゴミ。
ねえ、生ゴミって知ってる? うん知ってる。ゴミだよね。くっさいやつ。
じゃあ下駄箱って知ってる? うん知ってる。靴入れる箱だよね。ゴミ入れるとこじゃないよね。知ってる。うん、私知ってる。うふふ、今日の給食はスイートポテトパンよ、うふふ。うふふふふふ。
あの時の絶望感は凄まじかった。私はそれから三十分間、登校してきたクラスメイトに声をかけられるまで呆然とその場に立ち尽くしていた。
あらすじの箇所まで行っていないというスロスタートぶり。お付き合いいただけると嬉しいです。