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第八話

 お嬢様の誕生日が、あと数日まで迫ってきた。

 運命の日が近付いてきたのだ。

 村では村長の孫娘の誕生日とあり、お祝いの準備が進んでいる。

 十六歳は成人の証。皆、気合いを入れている。

 ……騎士様達も、お嬢様が神託を授かるかもしれない大事な日とあり、妙に緊張している。

 何故十六歳の誕生日に神託を授かると確定しているかというと、十六歳は女神と一番近付く事が出来る日だと信じられているからだ。実際、過去に聖人や聖女と呼ばれた方達は皆、十六歳の誕生日に神託を受けている。歴史が証明しているのだ。

 家事に勤しんでいたり、時には凶暴化した動物を退治したりしていても、彼等は特務騎士。世界の異変の理由を知る為に、精霊の森にお嬢様と共に行かねばならない。

 彼等との別れも、近い。

 寂しさが沸き上がるのを、何とか堪え私はベッドから起き出す。

 朝日は登った。今日も一日が始まるのだ。

 気合いを入れないと!


「おはようございます、お嬢様」

「おはよう」

 部屋から出ると、お嬢様が廊下を歩いているところだった。

 お嬢様は、あくびを噛み殺している。何だか眠たそうだ。お嬢様にしては、珍しい。

「お嬢様、夜眠れてないのですか?」

 聞いてみると、お嬢様はあからさまにギクリと身を震わせる。実に分かりやすい。

「ね、眠れてるわよ?」

「嘘ですね。私には分かっちゃいますよ」

「う……」

 お嬢様は言葉に詰まる。やはり眠れてないようだ。

「三日後の誕生日、緊張、しちゃってたり?」

 嘘だ。お嬢様は、誕生日だからといって緊張したりする人じゃない。そんな柔な神経を持っていたら、最初のジャスティ様の態度で立ち直れなくなってる筈だ。

 それに、お嬢様は神託の事を知らない。緊張する理由がない。

「お嬢様?」

「うっ、うー……、顔洗ってくる!」

 あっ、逃げた!

 お嬢様は、井戸のある庭へと全力疾走していった。なんて素早い。


「ダンス?」

 朝食の席で、ジャスティ様が不思議そうに言う。

 話を振った旦那様は、穏やかに頷かれる。

「ええ。村人達が、孫娘の誕生日の祝いに、ダンスを催そうと言ってまして。夜に、組み立てた櫓に火を付け、周りを踊り歩くのです。田舎の風習みたいなものですが」

「へー、楽しそう!」

 クウリィ様が目を輝かせる。

「ええ。本当は祭りの日にやるのだけど。とても、賑やかよ」

 皆の心遣いが嬉しいのだろう。お嬢様の声は弾んでいる。私も嬉しくなる。

「いいですね、そういった風習は大切にするべきですよ」

 ジーン様が、微笑む。

「面倒、です」

 クリフ様は素直な本音を出しちゃっている。

「騒がしいのは、あまりな……」

 社交界で令嬢達に揉みくちゃにされた事のあるジャスティ様は、浮かない顔だ。トラウマなのだろう。

 ダンスに積極的じゃないお二人に、お嬢様は寂しそうな顔を見せる。

 その顔を見て、私は勇気を奮い立たせる。

「だ、ダンスは、ただのダンスじゃ、ないんです」

 途端に私に視線が集まり、息が詰まるほどの緊張感が全身を巡る。でも、私負けない!

「最後の締めのダンスは、男女の踊りで……っ! そのダンスを共に踊った二人は、永遠に結ばれっ、るんです!」

 言い切った! 真っ赤になって、吃りながらも。言い切った! でかした私!

 空気が変わる。

「ほう、そんな言い伝えが……」

 ジャスティ様の視線は、お嬢様へと向いている。

「永遠に……」

 クリフ様は俯き呟いた。興味を持ってくださったようだ。良かった!

「へー、いいじゃん!」

「素敵な伝説ですね」

 クウリィ様とジーン様も興味を惹かれたようだ。

 お嬢様、狙われてます。

「え、ええ。そんな話もあった、かな」

 突然空気が変わったことに、お嬢様は驚き気味だ。だけど、これで騎士様は全員参加の筈だ。私、よくやった!

 ……運命の日。お嬢様には、思い出に残る誕生日であってほしいから。


 それからの一週間は、私も村の人達とお嬢様のお誕生日パーティーの準備に追われるようになった。お屋敷のお仕事は、クリフ様がやってくださっている。有難いことです。

 主役であるお嬢様ですが、睡眠不足な日々が続いているようです。時折、大きなあくびをなさっていますし。夜も遅くまで起きているみたい。大丈夫でしょうか。

 そういった心配事もありつつ、準備は進んでいきます。

 とうとう前日となった夜。

 私はお嬢様の部屋に呼ばれました。なんだろう。


「じゃーん!」

 と言って見せてくださったのは、白を基調としたワンピースでした。

 凄い。袖とスカートの裾のレースは、細かい細工が施されている。なんて、綺麗なワンピースだろう。

「これは……?」

「私が作ったの。毎日こつこつと!」

「お嬢様が!?」

 凄い! さすがお嬢様! 器用です!

 お嬢様な、笑顔でワンピースを差し出してきた。なんでしょう?

 お嬢様は、暖かな笑みを浮かべています。

「これ、貴女の為に作ったのよ」

「え……」

 私の、ため……?

 お嬢様は、ワンピースを私に充てる。

「うん、ぴったり。毎日頑張った甲斐があったわね」

 お嬢様は、私の為に……?

 じゃあ、最近の寝不足は……。

 お嬢様は、私を見る。その瞳は、慈愛に満ちている。幼い頃から、注がれてきた愛情の瞳。

「受け取ってくれる?」

 私は震える手で、ワンピースに触れる。滑らかな手触りだ。

「はい、はい……っ、お嬢様……っ」

 私はそっとワンピースを抱き締める。

 自然と目からは、涙が溢れてくる。お嬢様の心が余りにも嬉しくて。

「や、やだなぁ。泣かないでよ! そ、そんなにたいしたものじゃないんだから! ね!」

 慌てるお嬢様に、私は否定するように頭を振る。

「いいえ、いいえ。お嬢様、最高の贈り物です……っ」

「ま、参ったなぁ」

 私は、何とか笑みを作る。

「明日、これを着たいと思います」

「ええ! 是非そうして! きっと似合うわ!」

 両手を叩いて喜んでくださるお嬢様。

 ……私は、本当に幸福者です。

 女神様。お嬢様を見守ってくださる女神様。私をお嬢様に巡り合わせてくださり、本当にありがとうございます。

 私はもう、これで充分です。

 ……もうすぐ、世界は闇に侵され始めるでしょう。でも、お嬢様という希望の光が存在します。どうか、お嬢様をお守りくださいますよう。

「明日、楽しみね!」

「はい、お嬢様」

 明日、運命は動く。





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