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第四話

 騎士様達が、お屋敷に滞在して早くも七日が過ぎようとしていた。

 人数の増えたお屋敷の生活にも、少しずつ慣れてきた。

 今朝は、台所に立つジーン様の近くの椅子に座り、芋の下ごしらえの皮剥きをしている。因みに、クリフ様も。

「二人とも、怪我のないように」

「はい」

 ジーン様は、心配性のようだ。特にクリフ様の手元のナイフを、ちらちらとうかがっている。見てて危なっかしいですもんね。気持ちはよく分かります。

「ぐあっ!」

 クリフ様の手により、お芋が一つ駄目になった頃。恒例になりつつある叫び声がした。

 ジャスティ様である。今日もまた、お嬢様の手により、床へお顔がこんにちはしたのだろう。

 暫くして、何やら言い争う声もしてきた。これも、いつもの事だ。きっと今日もお嬢様が、ジャスティ様を言い負かす事だろう。お嬢様、素敵。

「今朝も賑やかで、良いことです」

 スープの入った鍋の様子を見ながら、ジーン様は言う。

 賑やか。確かにそうだ。初日のお通夜みたいな静かすぎる食事の時と比べれば、格段に空気は良くなっている。

「まーた、やってるよ。あの二人」

 クウリィ様が、台所に入ってくる。ピンクのエプロンは、今はクウリィ様の物だ。

「クウリィ、仕事は終えたのですか?」

「うんー。床はピカピカだよ」

 余っている椅子に、クウリィ様は座った。うーんと、伸びをする。

 クウリィ様、お料理は壊滅的だったけど、お掃除の能力は備えていて、私達は一安心だ。

「ジャスは、役得だよねー。あんなに綺麗な女の子に毎朝起こされてさー」

「なら、クウリィ様も、寝坊すれば、いいです」

「もれなく、空中に浮かべますよ」

「それは、勘弁」

 クウリィ様は舌を出す。空中にダイブした後は、顔面強打だもんね。

 それはさておき、私は緊張している。

 何故なら、今の状況が見目麗しい男性に囲まれている状態だからだ。村には若い男性が少ないから、私は免疫がない。ちょっと困ってしまう。

 私は、芋の皮剥きに集中することにする。無心だ、無我の境地になるんだ!

「ねえ」

「は、はい!」

 無我の境地失敗! クウリィ様に話し掛けられてしまった!

 私は、皮剥きを止め、クウリィ様を見る。うう、緊張する。

 私の様子に、クウリィ様は苦笑いを浮かべる。

「そんなに驚かないでよー」

「す、みません」

 そんなことを言われても、私はクウリィ様と話したのは数える程しかないのだ。それに、クウリィ様みたいなタイプの人って、村に居ないし。

「まあ、いいや。あのさ、君とお嬢さんって姉妹なの? それとも、従姉妹なの? それにしては、君ってお嬢さんを敬ってるし、謎なんだよねー」

 かなり直球な質問である。しかし、感じて当然の疑問でもある。

「クウリィ!」

 ジーン様が、たしなめるようにクウリィ様の名を呼ぶ。

「えー、だって気になるでしょ」

「だからと言って、人様の事情に首を突っ込むのは感心しませんよ」

 ジーン様は、眉を寄せクウリィ様を注意する。

「い、いいんです。別に隠すようなことでも、ないですし」

 私は、ジーン様に言う。

 そう、後ろめたい事など何もない。

「……私は、お嬢様に育てられたんです」

「へー、そうなんだ……て、えええ!?」

 クウリィ様が驚きの声を上げる。まあ、普通に驚きますよね。

「その、差し出がましいようですが。それは、どういう……」

 ジーン様が、控えめに質問をなさる。

「はい。私とお嬢様は、九年前に流行った病で両親を亡くしたのですが……」

 私は、手元の芋を弄りながら話した。私とお嬢様の今までを。

 途中、お嬢様の素晴らしさを語るのに熱が入りすぎてしまった感はあるけれど。私は、必死に言葉を紡いだ。

「そんな事が……」

 ジーン様が労るように、私を見た。本当に、優しい方だ。

「君とお嬢さんが親密なのは、そういう理由があったのかー」

「はい。お嬢様と旦那様には、本当に良くしていただいてます」

 お二人と過ごした暖かな日々を思い出し、私はしみじみと話す。

 私の言葉を受けて、クウリィ様は何故か台所の入り口の方に視線を移す。

「……だってさ、ジャス」

「え……」

 私は驚いて、入り口を見た。そうしたら、気まずそうな表情を浮かべたジャスティ様が、扉を開けて立ち尽くしていた。気が付かなかった。いつの間に、いらしてたのだろうか。

「……」

 ジャスティ様は無言だ。

「なあ、ジャス。お嬢さんは、お前が今まで相手にしてきた子達とは違うよ」

「ええ、真っ直ぐな心の持ち主ですよ」

「……」

 クウリィ様に続き、ジーン様に言われてもジャスティ様は無言を貫き。ふいっと背を向け、立ち去ってしまう。

「……素直じゃないなぁ」

「彼の性格上、自分の認識を変えるのは難しいのでしょう」

 ため息を吐かれるお二人。

 私は、先ほどのジャスティ様を思い浮かべる。僅かながらも悔やむ気持ちが、表情に出ていた。きっと、今までのお嬢様への言動を思い出していたのだろう。

 私は、ジャスティ様のお嬢様の誤解が、早く解けるよう願った。

 しかし、気になる事がある。それは、クリフ様の事だ。先ほどから一言も言葉を発していないけれど、どうしたのだろうか。

 私の身の上話より前から、ずっと無言だ。

「く、クリフ!?」

 ジーン様の叫びに、何事かと私はクリフ様を見る。そして、絶句した。

 クリフ様の足元の籠には、無惨な姿を晒す芋の山が。殆ど、身が残っていない。分厚い皮の山もある。

 クリフ様、ずっと皮を剥き続けてたんですね。

「……お前、料理の才能無いね」

 クウリィ様、貴方には言われたくないと思いますよ。

「……初めて、でしたので」

 クリフ様も思うところがあったのか、俯いたまま反論した。

「これから、練習していきましょうね」

 ジーン様が、優しくフォローを入れる。

「分かり、ました」

 クリフ様は、素直に頷くのだった。


 夜を迎え、一日が終わろうとしている。

 自室に戻った私は、寝間着に着替えベッドに潜り込んだ。あったかい。

 目を瞑るけど、頭は冴えていた。

 考えるのはお嬢様と騎士様達のこと。

 運命は、私の知る通りに動き始めている。

 ゲームのオープニングと同じく、お嬢様の誕生日の一ヶ月前に現れた騎士達。

 このまま行けば、お嬢様は誕生日に女神の神託を受けるだろう。

 そして、騎士達と精霊の森へと向かう。

 そして、そして。その先は……。

「……っ!」

 私は、呻く。私は、先を知っている。

 だからこそ、怖い。

 だからこそ、祈る。

 どうか、お嬢様の未来が、幸せに満ちているように。

「私は、お嬢様。貴女に巡り会えたことに感謝します」

 私はもう、一生分の幸福をお嬢様から頂いている。

 お嬢様、貴女に女神の祝福が降り注ぎますように。

 祈り、私は眠りについた。

 

 


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