(3)
「……ごめんなさい。私は行けない」
私は……
白い男はうなずく。
「それも、覚悟していました」
羽の女は首をかしげる。
「そう……まあ、体の寿命が終わるまで待ってあげてもいいんだけどね」
そして羽の女は白い男を促して、二人の一致した意見を口にさせる。
「しかし貴方は……私がここを去った後、決して後悔しませんか?」
「……わからない、けれど」
彼か彼女についていった後、後悔しない自信もない。
白い男は彼の国に私を連れて行くだろう。
彼の国は。彼らの国は。……どんな国だろう?
姫となる、私は? 私はどうだというのだ。
姫と……なった、その後の私は。
羽の女は私を導いて遠くへ飛んでいくだろう。
遠くへ……どこまで?
穢れなき神聖な場所まで。
そこに……降り立ったら、その後は?
「確かに私は、貴方たちを望んでいた。不思議なことが起きて、ここじゃない場所へ行きたい、って思ってた。だけど……そうして、その後どうするべきかわからないの。その後、何をすればいいのかわからない。でも今の私には、今のまま暮らせば、やりたい事がある。それも漠然としてるし、うまくいく自信もないけど……でも、これから何をすべきか、わかるの」
彼らを望んでいたのは、もう少し昔の話だ。中学時代とか……あの頃はまだ現実にも先の見通しなんてついていなかったから、その日生活して勉強して休息するのに精一杯だったから、全く新しい場所への招待をあっさり受け入れられたのだ。
その頃ならば私は、喜んで白い男についていっただろう。羽の女に抱き締められる事を嬉しく思っただろう。先のことなんかまるで考えずに、新しい世界からの誘いに容易く応じただろう。
……あの頃は、毎日が辛かったから。
苦しいだけの日常から、一刻も早く抜け出したいと思っていたから。
「私はもう、知っているんだ」
白い男の事も、羽の女の事も、ずっと昔から知っていた。
「あんたたちも、みんな幻想だって」
そして、白い男と羽の女は一瞬で消えた。
どちらも、随分前にしばしば考えた想像の登場人物だった。私にあくまでも忠実な、異国の美青年。常に安心を与えてくれる、異世界の女性。私を迎えに来るその瞬間だけをエンドレスで流し続けるアニメーション……そんな愚かしいお話の登場人物たち。
幻想は、もう……いらない。
あの頃は、自分が夢見る力を失うことを本当に恐れていた。これが幻想だと認めてしまう大人になるのが嫌だった。それは今でもそうだ……そして私は間違いなく、想像することをやめない。直接それを形に出来なくても、いつか何かを作るときに、それが役立つとも信じている。
けれども、心から実現してほしいと願っての幻想は……もういい。いい加減、区別しなければならない。
それは自分をほんの少し、後ろ向きに楽しませるだけで、何の役にも立たないのだ。
誰かを喜ばせることも出来ない、自分を高める役にも立たない、ガラクタの幻想たち。
……それらには、そろそろ別れを告げなければならない。
そのとき。
誰かが背後から私の腰に抱きついた。
「君は、とても悲しいことを言うんだね」
それは、言ってみれば……黒い男。




