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「……ごめんなさい。私は行けない」

 私は……


 白い男はうなずく。

「それも、覚悟していました」

 羽の女は首をかしげる。

「そう……まあ、体の寿命が終わるまで待ってあげてもいいんだけどね」

そして羽の女は白い男を促して、二人の一致した意見を口にさせる。

「しかし貴方は……私がここを去った後、決して後悔しませんか?」


「……わからない、けれど」

 彼か彼女についていった後、後悔しない自信もない。


 白い男は彼の国に私を連れて行くだろう。

 彼の国は。彼らの国は。……どんな国だろう?

 姫となる、私は? 私はどうだというのだ。

 姫と……なった、その後の私は。


 羽の女は私を導いて遠くへ飛んでいくだろう。

 遠くへ……どこまで?

 穢れなき神聖な場所まで。

 そこに……降り立ったら、その後は?


「確かに私は、貴方たちを望んでいた。不思議なことが起きて、ここじゃない場所へ行きたい、って思ってた。だけど……そうして、その後どうするべきかわからないの。その後、何をすればいいのかわからない。でも今の私には、今のまま暮らせば、やりたい事がある。それも漠然としてるし、うまくいく自信もないけど……でも、これから何をすべきか、わかるの」


 彼らを望んでいたのは、もう少し昔の話だ。中学時代とか……あの頃はまだ現実にも先の見通しなんてついていなかったから、その日生活して勉強して休息するのに精一杯だったから、全く新しい場所への招待をあっさり受け入れられたのだ。

その頃ならば私は、喜んで白い男についていっただろう。羽の女に抱き締められる事を嬉しく思っただろう。先のことなんかまるで考えずに、新しい世界からの誘いに容易く応じただろう。

 ……あの頃は、毎日が辛かったから。

苦しいだけの日常から、一刻も早く抜け出したいと思っていたから。


「私はもう、知っているんだ」

 白い男の事も、羽の女の事も、ずっと昔から知っていた。

「あんたたちも、みんな幻想だって」

そして、白い男と羽の女は一瞬で消えた。


 どちらも、随分前にしばしば考えた想像の登場人物だった。私にあくまでも忠実な、異国の美青年。常に安心を与えてくれる、異世界の女性。私を迎えに来るその瞬間だけをエンドレスで流し続けるアニメーション……そんな愚かしいお話の登場人物たち。

 

幻想は、もう……いらない。

 あの頃は、自分が夢見る力を失うことを本当に恐れていた。これが幻想だと認めてしまう大人になるのが嫌だった。それは今でもそうだ……そして私は間違いなく、想像することをやめない。直接それを形に出来なくても、いつか何かを作るときに、それが役立つとも信じている。

けれども、心から実現してほしいと願っての幻想は……もういい。いい加減、区別しなければならない。

それは自分をほんの少し、後ろ向きに楽しませるだけで、何の役にも立たないのだ。

 誰かを喜ばせることも出来ない、自分を高める役にも立たない、ガラクタの幻想たち。

 ……それらには、そろそろ別れを告げなければならない。



 そのとき。

 誰かが背後から私の腰に抱きついた。

「君は、とても悲しいことを言うんだね」

それは、言ってみれば……黒い男。


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