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 それは今日取り掛かった中でも、とりわけ難しい設問だった。

 式全体に文字を与え、数列として扱うことで原始関数を求めるのだ、ということはわかるのだが、途中で必ず意味の分からない積分をしなくてはならない。そういう公式は確か存在しなかったから、どうにか式変形しなくてはならないのだが、分数を有理化しても式を置き換えても上手くいかない。数学的帰納法や相加相乗平均が使える隙もない。

 頭にくる。しかし、これを解かないと次に進めない。

 全く新しい考えが浮かばず、稚拙な絵ばかりがノートの端に並んでいた。

 そのとき。



 ふと後ろを振り返ると、スタンドミラーの中に、

若い男が一人立っていた。



「……え?」

 私は平然と、そう聞いた。出てきた声が、後ろに家族がいたときと全く変わらない口調であったことに、自分で驚いた。


 ちょうど勉強机の背後に立ててあるスタンドミラーは、今日のところは部屋を映す気がないらしい。大半は大写しになった彼の全身で埋められていて、その背後にはただ薄青い波紋が揺れているだけだ。

彼には体型的な特徴がなく、背も高くはない。深い紺色の髪はあちこち、重力を無視した方向にはねていて、水色の瞳の上にもいくらか被さっている。服はとにかく白。上着は丈が長く、ブーツの先は丸い。ベルトのバックルには、目が痛くなるほど複雑な模様が浮き彫りにされている。

「初めまして」

小さくお辞儀した白い男の声はどこまでも爽やかで、力強く、優しい。

 聞いたことがないようで、あるような声だ。

「貴方は、我らの神が選んだ救世主。どうか私と共に、我らの国にいらしてください。我らは貴方を、姫君として迎えたい」



私はゆっくり呼吸して、それからこう答えた。

「どうして……どうして今頃になって現れるの!?」


 白い男がたじろいでいる間に、私は再び息を吸った。

「……確かに私は、ずっとそんな誘いを待ってた。自分は選ばれてて、特別で、普通じゃないことをするために生まれたんだって思ってたよ。 でも……」

やっと最近、やりたい事を見つけたのに。

勉強も悪くないって、思い始めたのに。

魔法使いになるより面白そうな仕事も見つけたのに。

どうして……今になって。


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