第5章「脅迫」
神国神殿のある神州大陸から、船で二時間程の海上に
ハルバルン島があった。
輝く太陽と碧緑の海の恵みを受けるこの島は、また、
豊かな温泉郷としても名高かった。
神国から手近な距離に位置している為に、神々や人間
達の恰好の保養地として、この島は古くから利用されて
きたのだった。
この島には、予言神の神殿があった。
それは、妖しい紫紺の光を湛える右目と、黄金の輝き
を放つ左目をもって、世界の全てが潰えさる遙かな未来
の果てまでをも見通す神。
時間の流れすらもが尽き果てて、虚無の彼方へと崩れ
往く様を知り得る神。
何者の未来も、この神の眼力から逃れる事は出来なか
った。
その神霊力によって、彼は若くして、あの最も古くに
生まれ、最も貴い女神ゴレミカと肩を並べる程の高位の
神々の一柱に名を連ねていた。
その神の名は――予言神サイト・ライト。
だが、彼は、その予言の力を使う事はほとんど無かっ
た。
◆
人の掌程の大きさの、赤と黄色の花の咲く木々に覆わ
れたその丘からは、暖かな海流が巡るヒルデン海がよく
見下ろせた。
丘の上から島中を見渡す様に聳える青い円塔、それが
サイト・ライトの神殿だった。
抜ける様な紺碧の空がそのまま映り込んだかの様な、
爽やかな青色の石材で彼の神殿は建てられていた。
三階建ての円柱状の建物は、一階の部分が参拝者を迎
え入れる大広間となっていた。上の階はサイト・ライト
の住まいとして使われていた。
予言神の神託を求めて押し寄せる参拝者達も一通り片
付き、サイト・ライトは神殿の二階に引っ込むと、応接
間で食事の用意を始めた。
時計を見ると正午を幾分過ぎていた。
「サイト様、どなたか来られるのですか?」
可憐な声が花と蔓の文様を彫刻した扉を叩き、同じ顔
の二神の少女が応接間へと入って来た。
テーブルの上には食器が四人分。中央には大き目の皿
に果物やパンが並べられていた。
少女神達は不思議そうにそれらを見比べ、二神揃って
サイト・ライトを振り返った。
同じ顔をしているといっても、やや背が高く、亜麻色
の髪を後ろで二つに結わえている方が姉のファレス。
姉よりは小柄で、短く髪を切りそろえたおかっぱの少
女が妹のファリア。
彼女達はサイト・ライトに仕えている夢想神候補だっ
た。神々の間の扱いでは巫女と言う事になっていた。
夢想神候補――神々と人間とが共存しているこの世界
で、「神の候補」という表現は些か奇異に受け取られる
かも知れない。
だが、この場合での「神」とは、生物学的な種として
の「神」ではなく、「神格」と呼ばれる社会生活上の概
念としての「神」の事だった。
このファレスとファリアの双子は元々は別の神だった
のだが、サイト・ライトの下で仕え、「何々の神」とい
う称号を新たに獲得しようというのだった。
「――お客さんが来るんだよ。」
サイト・ライトは双子の頭を順に優しく撫でながら答
えた。
双子達の前髪の流れる隙間に、眉間に縦に薄く走った
小さな亀裂が見え隠れした。気にしなければ、それは皺
位にしか見えない事もなかった。
「大切なお客さんがね。」
付け足された言葉に、ファレスとファリアの瞳が輝い
た。
サイト・ライトにとっての大切な客というのは大変に
限られていた。しかも、神殿の主自らが食事の用意をし
てまで迎える客というのは、その中でも更に限られてい
た。
「ねえねえっ、サイト様!いつ来るのぉ?」
皿を並べ終えたサイト・ライトの腕に、ファリアが甘
える様にすがり付いた。
「もうすぐだよ。」
微笑みながら答えるサイト・ライトに、
「もうすぐっていつ?予知して下さい。」
ファレスの方は幾分大人染みた仕草で不満げに口を尖
らせた。
「そーよ、そーよっ!」
双子の騒ぎ立てる声は、来客を知らせる呼び鈴の音に
静まり返った。
呼び鈴が鳴り終わった次の瞬間には、ファレスとファ
リアは慌ただしく応接間を掛け出していった。
◆
応接間の扉の向こうから騒がしい声が戻って来た。
ファレスとファリアの間に挟まれて、赤茶けたローブ
を羽織った長身の青年神がサイト・ライトの前へと姿を
現した。
後ろだけ伸びた亜麻色の髪を無造作に結わえ、規則正
しく筋目の折り込まれた長衣姿で、青年は恭しく頭を下
げて挨拶をした。
濁った膜のかかった彼の額の瞳が、サイト・ライトの
微笑む顔を映し出した。
彼は幻神だった。
「やあ――ラウ・ゼズ。久し振りだね。」
「はい。あなたもお変わりの無い様で。――妹達がお世
話になっております。」
ラウ・ゼズはサイト・ライトに勧められ、テーブルへ
と腰を下ろした。
それを挟む様に、ファレスとファリアもゼズの横の席
に着いた。
妹――とは言うものの、自然発生する「独り成り」の
幻神達の間には、他の神々や人間の持つ血縁関係という
概念は当て嵌まらない。
そもそも、幻神の様な「独り成り」の種族は、レイラ
イン集束点から時々発生する「卵」とでも呼ぶべき、生
命エネルギーの素になる塊から誕生していた。
一度に発生する「卵」は一神分のみで、その「卵」か
ら神が誕生するまでの年月もまちまちだった。
ゼズ達の場合は、一度に三神分の「卵」が発生し、先
にゼズが生まれ、それから百年程の間をおいてファレス
とファリアが生まれたという珍しい例だった。
この為に、彼らは互いに兄妹の様な心の繋がりを抱い
ていたのだった。
「――神国の様子はどうだい?」
旧友の神々を懐かしんでいると言うよりも、サイト・
ライトの問いは、幾分、ゼズを心配している様な感情が
滲んでいた。
妹達を予言神の下へ預け、ゼズ自身は神国神殿で創作
や学究の日々を送っていた。
神国には様々な神々が集まっていた。
――寛容な神も、偏狭な神も。
幻神の様な「独り成り」の神々への差別は神国神殿の
方が無くなってきているとは言え、時に一部の卑劣な神
々の嫌がらせや蔑視を受けると言う事もあった。
「相変わらずですよ。」
ゼズは笑いながら言った。
世界の神々の中心。神々の調和と安定の象徴。
その神国神殿の平和が乱されているところだという事
など、彼らは知る由も無かった。
取り立てて賑やかな会話を交わす事も無く、緩やかな
緊張の空気に食事の席は包まれていた。
緩やかな緊張・・ゼズとサイト・ライトの間には、お
互いに年齢が近いにも関わらず、時に師弟の間柄の様な
空気が生じる事があった。
「――クレチカ様はご健在かな?」
生地に木の実を混ぜ込んだ丸パンをかじりながら、サ
イト・ライトは今度は本当に懐かしみの思いを込めてゼ
ズに尋ねた。
「さあ――。また、何処かを旅しているかも知れません
ね……。」
穏やかな青年の顔もまた、自らの師匠でもあり、自分
達兄妹の育ての親でもある不老の神を思い、懐かしさに
目を細めた。
幻神ラー・クレチカ。
ゴレミカより幾らか遅れた、しかし古い事には間違い
の無い時代に生まれた――最初の幻神。
青年の姿のまま、一向に衰える事の無い不老の容貌を
持ち続ける白髪の老神。
ゼズよりもサイト・ライトとクレチカとの間に、むし
ろ友人の様な気持ちの繋がりがあったのだった。
三つの瞳の全てを閉じる事で、己の莫大な神霊力の殆
ど全てを封印していると言われているクレチカ。
本来ならば、無限の可能性によって無限に枝分かれし
ている未来の一切を見通し、世界の真の終末の未来の時
をも知り得る筈のサイト・ライト。
神の身であっても巨大と言わなければならない能力を
抱えて生きていかなければならない者としての、奇妙な
同類意識がこの二神の間には流れていた。
それ故、ゼズが妹達の幻神としての神格を捨てさせる
決心をした時、彼女らの保護者となり夢想神としての神
格を与えるという申し出を、サイト・ライトは行ったの
だった。
神格を捨てる。――これはしばしば差別や迫害を受け
る神々が、自分達の身を守る為に行う事だった。
ファレス、ファリアの場合も、幻神としての神格を捨
て、第三の目を捨て、他の有力な神の庇護を受けたのだ
った。
◆
食事を終え、ゼズはファレスとファリアに引っ張られ
る様にして島の散歩へと連れ出されてしまった。
「ねえねえ!浜に行きましょっ!」
「昨日、沢山花が咲いたのよ!」
サイト・ライトの神殿を後に、めいめいに騒ぎ立てな
がらファレスとファリアはゼズを挟んで丘を駆け降りて
いった。
「お、おいおい。そんなに慌てないでくれ。」
走る勢いに飛ばされそうになる帽子を押さえ、ゼズは
息を切らしながら妹達のペースに合わせた。
走り回る生活とは無縁のせいか、ゼズの足腰はすぐに
悲鳴を上げ始めた。
ちら、とゼズが後ろを振り向くと、久し振りの兄妹の
触れ合いを、微笑ましいといった表情で見守っているサ
イト・ライトの姿があった。
昼下がりの陽光は、島の一日の中で最も勢い盛んなも
のだった。
神州大陸とその周辺は、春夏秋冬という四季の区別の
ある気候帯に位置していた。だが、このハルバルン島は
やや南方に近い事と、温かい海流の流れを受けている為
に、冬の寒さとは殆ど無縁の温暖な気候を誇っていた。
真夏ではなくとも、昼間は暑さに汗を拭う事も珍しく
はなかった。
「早く早く!」
日差しを受けて白くきらめく砂浜を前に、走るよりも
殆ど歩いている様なゼズを、双子は急き立てた。
なだらかな坂道を行き交う観光客の中には、ごくたま
に幻神に対して奇異の目を向ける者があった。
そしてまた、この島の主であるサイト・ライトが幻神
と連れ立って歩いている事への驚きの目。
神国神殿での生活で長らく忘れかけていた蔑みの視線
に、ゼズは妹達に気付かれない様に溜め息をついた。
そうする内にも、芳しい香りを放つ灌木の茂みと、肉
厚の海浜植物の花畑を越え、ゼズ達は砂浜へと辿り着い
た。
赤やピンク、黄、白の、太陽の光のイメージをそのま
ま花弁へ留めた様な、鮮やかな色の花が白い砂浜を埋め
る様に咲き誇っていた。
帽子を脱いで座り込んだゼズの側で、ファレスとファ
リアは花を摘んで籠を編み始めた。
「これ、この島のお年寄りに教わったのよ。」
器用な手付きで、ファレスは色違いの花とその茎を順
番により合わせていった。
「神殿によくお参りに来る人なのよ。」
ファレスよりは多少無器用な手付きで編みながら、フ
ァリアが付け足した。
「――島の住人は仲々親切だ。私がよく教育しているか
らなー。まあ、私の神徳の成せる業というところか。」
笑いながら、やっと浜辺に着いたサイト・ライトがゼ
ズの横へと腰を下ろした。
「まあっ、サイト様なんて天気予知位にしか島の人にア
テにされてないのよ。」
「それはそれは。」
ファレスの指摘に、ゼズは小さく吹き出した。
この場の誰もが心休まる、穏やかな瞬間だった。
「・・・・・・・・・・?」
ゼズとサイト・ライトは、俄に表情を引き締め顔を上
げた。
不意に、彼らの背筋に寒気が走った。
気温が下がったのだろうか?
浜辺に降り注ぐ鮮烈な陽光は変わらないのに、周囲に
寒々とした気配が満ちていった。
ゼズの頬を伝う汗は、いつのまにか冷や汗へと変わっ
ていた。
冷たく、昏い空気と共に、何かが、この浜辺へと現れ
ようとしていた。
「――来い。」
立ち上がり様、ゼズは素早く呟いた。
ゼズの掌に一点の光が灯り――瞬時にそれは肉の鱗に
覆われた二枚の羽を持つ、流線型の不思議な生き物を出
現させた。
幻獣シウ・トルエン――ゼズの創り出した幻獣の中
でも自慢の一体だった。
シウ・トルエンは主の思念を受け、主の妹達を守るべ
く、その長い体で彼女らの周囲を取り巻いた。
「ねえ……。一体どうしたのぉ?」
兄達の突然の表情の変化に、ファリアは不安気に立ち
上がった。
ファレスもまた、表情にこそ不安を出さなかったが、
作りかけの花籠をきつく握り締めてゼズを見た。
「来る。……客が、もう一神。」
サイト・ライトは身構えた体から力を抜いた。
全く有り難くない客。
紫紺と黄金の瞳が、射抜く様な視線を放った。
視線の先は、その客が出現する場所だった。
何者が訪れるのか。――その者が何を成し、神国に何
をもたらすのか。
これから始められ、そして終焉を迎えるその全てを、
瞬時にサイト・ライトは見通した。
彼は厳格な表情のまま、佇んでいた。
彼はただ、知る事しか出来なかったのだった。
――レウ・デアが、自分達の目の前に現れる事を。
◆
「――レウ・デアか。……何の用ですか?」
見知った神の姿を認め、ゼズは一息ついた。
――だが。ゼズもサイト・ライトも――ファレスとフ
ァリアを守るシウ・トルエンも、決して緊張を解く事は
無かった。
自分達の目の前にいるのは、本当にレウ・デアだろう
か。
悪意や敵意――およそ、この明るい陽光の下には似つ
かわしくない、昏く冷たい気配。
今迄ゼズ達が、何度か神国で目にした事のあるレウ・
デアからは感じた事は無いものだった。
「幻神よ……。」
禍々しい気配を湛えた白磁の仮面は、強い日差しの中
でも尚暗い影を帯びていた。
何の抑揚も感じ取れない、無機的な合成音が呼び掛け
て来た。
「優れた力を持ちながらも、虐げられてきた……哀れな
神よ……。」
長身のゼズを見下ろし、レウ・デアは傲然と近寄って
来た。
「私は、この神国に独り成りの国を作る。――ついては
お前にも来てもらおう。」
レウ・デアの言葉を聞きながら、サイト・ライトは黙
然と立ち続けていた。
流れ行くべき所へ流れ行く。
無限の可能性による、無限に枝分かれした様々な形の
未来。
彼はその全てを見通す――結局は、それだけの神に過
ぎないのだった。
彼は、ただ見守る事だけしか出来なかった。
「ラウ・ゼズよ。お前の返事は不要だ。――さあ、来る
がいい。」
ゼズの拒絶の意思は、主の感情の変化を受けたシウ・トルエ
ンが示した。
威嚇に翼を広げ、体中に鋭利な輝きを帯びた突起物が
現れていった。
ゼズは冷たい一瞥をレウ・デアへと向けた。
「優秀なる機械神よ。これは一体どの様な故障でござい
ましょう?」
ゼズの眉が困惑に歪んだ。
国を作る――神国に!
それは、侵略に他ならなかった。
「故障などではない事は、そこな予言神がよく分かって
おる。――話してやったらどうかね?何を見たのか。」
黒衣の懐から伸びた斑模様の触手がサイト・ライトを
指し示した。
サイト・ライトは立ち尽くしたまま黙っていた。
レウ・デアはゼズの眼前に立つと、ゼズの顔を覗き込
んだ。
「考えてみろ……。お前が何故、妹達をサイト・ライト
に預けなければならなくなったのか。――お前達幻神は
いわれのない蔑みや侮辱を、これからも受け続けるつも
りなのか?」
瞳の無い筈の仮面の切れ込みに、卑しい光が宿ってい
たのをゼズは感じた。
様々な感情の動きを分析し、レウ・デアは容赦無くゼ
ズの心の奥へと入り込もうとしていた。
ゼズは努めて冷静さを装い、目の前の白い仮面を睨み
付けた。
「妹達の事には触れないで頂きたい。――これは、私達
の問題だ!」
レウ・デアの仮面は相変わらず何の表情も浮かべては
いなかった。
レウ・デアは尚も言葉を続けた。
「お前の能力に相応しい見返りは与えよう。――お前の
生き甲斐とする幻獣の創造。お前の知らぬ知識や技術を
与えてやろう……。」
「――早々にお引取り願おう!これ以上、戯れ言に付き
合うつもりは無い!」
ゼズは言葉を荒らげた。
そんなゼズの剣幕にも怯んだ様子は無く、レウ・デア
はゼズ達の背後で震えるファレスとファリアに顔を向け
た。
「取引を持ちかけている内に承諾した方が・・妹達の為
になる。」
レウ・デアの言葉が終わるや否や、ゼズの額の瞳がき
つく見開かれた。
創造主の激情に反応し、シウ・トルエンは翼を広げレ
ウ・デアへと襲いかかった。
だが――。
「――――ッッ……!!」
――ゼズ達が耳にしたのは、シウ・トルエンの悲鳴だ
った。
突然斑模様の触手が地面を突き破って出現し、シウ・
トルエンは呆気無く絡め取られてしまった。
新たに地面から生えた触手は更に、次の獲物へ狙いを
定め、揺らめいた。
「お、お兄ちゃん……。サイト様……。」
ファレスとファリアは互いに抱き合い、震えて立ち尽
くすばかりだった。
「さあ、決断を。」
レウ・デアは、何の感情もこもらない声でゼズを促し
た。
触手の中でもがくシウ・トルエンと、怯えた目で震え
る妹達をゼズは交互に見比べた。
――一瞬の逡巡が、ゼズには永遠の様に感じられた。
レウ・デアへの限りない憎悪を湛えて、額の瞳に力強
い光が灯りかけたが――それは、すぐに萎えて消え去っ
た。
妹達に、毛筋程の傷も付いてはならない。
その為には、ゼズは確実な方法を取らなければならな
かった。
「分かった。……お前と共に行こう。」
ラウ・ゼズの答えに、レウ・デアは頷いた。
それと同時に、シウ・トルエンに絡まっていた触手も
地面へと吸い込まれていった。
「サイト・ライト様、妹達を頼みます……。」
ゼズの願いに、サイト・ライトは穏やかな口調で応え
た。
「ああ……。任せてくれ。」
ゼズはサイト・ライトの返事に満足の笑みを浮かべる
と、まだ震えているファレスとファリアの所へと歩み寄
った。
「また……来るよ。」
いつものゼズの別れ際の挨拶だった。
「……また、ね……。」
ファレスが震える声を気丈に絞り出し、強張って――
泣きだしそうな微笑みをゼズへと向けた。
ゼズは妹達を背にすると、レウ・デアの方へと歩き出
した。
不思議と、激しい屈辱感は起こってはいなかった。
妹達を思う一方で・・自分の生き甲斐を満たすレウ・
デアの申し出に、惹かれる心の動きもあった。
ゼズは、相変わらず無表情のまま自分を見つめる白い
仮面を、冷たく睨み付けた。
レウ・デアの申し出に心を動かされている、自分の浅
ましさをごまかす様に。
「では、行こうか。」
レウ・デアは、絡まり合って腕の形を作る触手をゼズ
へと差し出した。
ゼズはレウ・デアを睨んだまま、その手を取った。