第12章「水に舞う」
空中城塞都市ラデュレーへとファイオが帰還すると、
レウ・ファーから幻獣創造に関するデータの入ったカー
ドを贈られた。
それには、「深い闇」を用いた幻獣の作り方が載って
いた。
ファイオは早速一体幻獣を試作し――それは、レウ・
ファーによって邪神に変えられた。
試作品披露の為に広間へと入って来た邪神は、ファイ
オとザードを除く幻神達から、嫌悪感と警戒心の入り混
じった視線を浴びたのだった。
邪神の基本は人間形態だったが、その全身は光沢を帯
びた陶器を思わせた。
黒と濃い灰色の混ざり合う寸前の様な、マーブル模様
の表皮のあちこちからは、尖った小さな突起が伸びてい
た。
耳も髪も無い人形の様な頭部全体に、電子回路の様な
筋模様が浮かび上がり、その顔面には縦に長く裂けた口
だけがあった。
無数の牙と襞とがある口の奥には、巨大な眼球が一つ
だけぎらぎらとした輝きを放っていた。
「これを……、ファイオが創ったの?」
邪神を眺めるパラの声には、怯えた様な感情が混じっ
ていた。
邪神の全身からは、禍々しい気配が発散され、鬼火の
様に揺らめいていた。
「仲々よく出来ているじゃないか。」
幻神の中でただ一神、ザードだけが何の恐れも無く邪
神へと近寄った。
邪神の顔へ品定めの様に手を掛け、ザードは口の中を
覗き込んだ。
反射的に邪神は目――口を敵意に開き、ザードに掴み
かかって来た。
「おっと。」
ザードはふわりと宙に跳びのき、尚も向かって来る邪
神へと手を翳した。
ザードの掌からは、ロープ状の幻獣が創り出され、邪
神へと絡み付いた。
レウ・ファーの細胞の力で桁外れの腕力を誇る筈の邪
神は、とりもちにかかった小鳥の様にその場へと押さえ
込まれてしまった。
「――下らない!どんな物が出来るかと思えば、相変わ
らずの化け物ではないか!!」
幻獣に絡み取られ、床の上に伏せる邪神に、ゼズは眉
をひそめた。
意欲が失せたのか動きを止め、邪神はただ虚ろな目を
広間の床に注ぐばかりだった。
造形ではない――その内側から発する禍々しい空気。
醜悪で血生臭い邪神は、ゼズの追求する幻獣の創造と
は余りにもかけ離れたものだった。
自分が心血を注いで創造した幻獣達が、この様な化け
物に変えられてしまう事など、ゼズには耐え難い屈辱以
外の何物でもなかった。
「――失礼する。」
醜悪な創造物を得意気に披露するファイオへ、侮蔑の
視線を放つと、ゼズはローブを翻して足早に広間を後に
した。
「どの位の数の幻獣が、「深い闇」一飲みから出来るの
かい?」
ザードは邪神に再び近寄ると、邪神を捕縛していた幻
獣をむしり取った。
幻獣はクリーム状の内蔵物を垂れ流してちぎれ、瞬く
間に灰塵と化した。
「――およそ、二十六体程ヨ。」
ザードの傲慢な態度に反発を覚えながらファイオは答
えた。
――「邪神」――「深い闇」から創った幻獣を素材と
した型。身長、体重、……
レウ・ファーの巨体を支える黄金の花弁の一つが立ち
上がり、そこに現れた巨眼が邪神の姿を捉えていた。
その眼を通して、幻獣と自分の細胞との馴染み具合、
融合後の変化の様子など――様々な情報が、短時間の内
にレウ・ファーにつながるコンピュータに記録されてい
った。
ファイオ達の知らない間に邪神の目は、花弁の眼球へ
と向いていた。
それは、主を仰ぎ見る下僕の姿を連想させた。
ゼームはひび割れた石段に腰を下ろして、レウ・ファ
ーと邪神の見つめ合う様子や、ファイオ達の姿を冷やか
に眺めていた。
暫くすると、飽きてしまったのか、ゼームはレウ・フ
ァー達から視線を外し、ゆっくりと立ち上がった。
「――私も失礼しよう。」
広間の扉へと向かう途中、邪神の側に差し掛かると、
ゼームはもう一度だけ邪神に目を向け――レウ・ファー
を振り返った。
「……一つ、言っておく……。」
相変わらずの、穏やかな声がレウ・ファーへと向けら
れた。
「この邪神とやらが地上の緑を破壊せぬ様、気を付けら
れよ。」
優しく諭す様な響きをもって、ゼームの言葉は聞く者
の耳に届いた。
「破壊したら、どうだと言うんだい?」
細い目を一層細め、見下した様な調子でザードはゼー
ムを見た。
「私が許さぬ――それだけだ。」
変わらない調子でそう言い放つゼームの言葉に、どれ
程の鬼気が潜んでいたのか。
口調も表情も、穏やかだった。
だが――、何者をも圧倒する底知れない激しさをもっ
て、ゼームの言葉はその場に居る者達の心臓を凍り付か
せた。
流石のザードも、息を呑んで立ち尽くす他なかった。
「……それでは。」
立ち尽くす幻神達には興味を失った様子で、ゼームは
広間を後にした。
◆
微風に揺れる湖面は、真昼の陽光を受けてきらめいて
いた。
ラノは、自分の神殿の最上階のテラスで湖を見下ろし
ていた。
レウ・ファーの侵略に備えて、神々は連日会合の席を
設けていた。だが、神々の長老格の集まりである「奥の
院」を初め、それに従う神々はさほど危機感を抱いては
いなかった。
その為に、会が開かれる割には、大した進展は無く、
時間の浪費という印象をラノに与えていた。
いつ、再びレウ・ファー達が狙って来るかも分からな
い中、ラノは神国神殿に留まるべきだというサウルス達
の忠告を振り切って、自分の神殿に戻って来ていたのだ
った。
護衛に付こうというティラルの申し出も、ラノは断っ
た。
「――ラノ様、お飲み物をお持ちしました。」
「ありがとう。下がっていいわ。」
人間の老女の神官にそう言い置き、ラノはテラス
のテーブルへと腰を掛けた。
水の流れを模した、優美な曲線で作られた椅子の背に
ラノの波打つ豊かな髪が被さった。
湖の反射する光は、細やかな粒をテラスに振り撒き、
そこもまた水中に没したかの様に思わせた。
真昼の鮮やかな陽の光。
鏡の様に輝く湖面。
照り返す光の揺らめくテラスの空気。
様々な光で溢れ返る周囲の光景とは裏腹に、ラノは、
より一層、黒く暗い闇を心に思い浮かべていた。
神や人の心の「深い闇」――。
嫉妬や憎しみ、独占欲――ティラルやゼームの事を思
う時、そうしたものが確かに心の一隅を占めている事を
ラノは感じていた。
花の香りの茶と共に、苦いものをラノは飲み下した。
ゼームがレウ・ファーの下へと去り、何処かほっとし
ている自分自身を、漠然と自覚し始めていた。
「――悩む姿も美しいワヨ、女神サマ!」
嘲りのこもった野太い声が、ラノの背後から響いた。
「ファイオ……!」
驚いて立ち上がり、声の聞こえた後ろを振り返ったと
ころで、ラノは目を見開いた。
縦に裂けた顔面――その口から覗く血走った眼球。
邪神が三体、ファイオに付き従い身構えていた。
テラスの手摺りに立ち、ファイオは右手に被さった幻
獣をラノへと突き出した。
より多くの邪神の生産を――。その為に、ファイオは
再びラノの所へとやって来たのだった。
「改めて――アナタの「深い闇」をもらいに来たワ!」
ファイオが挙げた左手を合図に、邪神の一体が敏捷な
動きでラノの背後へと跳んだ。
邪神の生臭い吐息を、ラノが後頭部に感じる頃には、
邪神はラノの両腕を掴んで捕えていたのだった。
「さて、今度は失敗しないわヨ。」
ファイオが右手の幻獣に精神を集中したところで、赤
い灼熱の気配を発する若者の影がテラスへと飛び込んで
来た。
ラノの背後の邪神を殴り飛ばし、彼はラノを庇う様に
ファイオの前に立ち塞がった。
「――バギル!」
ファイオは忌々し気に舌打ちした。
「どうしてここへ?」
尋ねるラノを振り返り、
「ラデュレーへの手掛かりが欲しかったからな。君の所
にまた来ると思って、見張らせてもらったんだ。」
バギルの瞳は、熱い決意の光を宿し、再びファイオの
姿を捉えた。
「ラデュレーへと案内してもらおうか!」
「うるさいワネ。アタシはそっちの女に用があンのヨ!
ちょっとどいてなさいヨ!」
うっとおしそうに叫び、ファイオはバギルを睨み付け
――再び左手を挙げた。
二体の邪神が牙を剥き出して、バギルへと襲いかかっ
てきた。
繰り出された邪神の拳は、バギルを捉え損ね――テラ
スの石床を抉り取った。
「馬鹿力だけじゃダメだぜっ!」
バギルは邪神の背後に回り込み、掌を翳した。
火炎弾が数発、邪神の背に叩き付けられた――が、炎
にも邪神の皮膚は焦げ目一つ作らず、陶器の様な光沢は
失われてはいなかった。
「ちッ!」
再び繰り出されて来る邪神の拳を躱しながらも、バギ
ルはテラスの隅へと追われた。
「――さっさと起きなさいッ!」
バギルがラノから離れるとすぐ、ファイオは今迄倒れ
ていたままの、残りの邪神に命令を下した。
「嫌ぁぁっ!」
素早く起き上がった邪神に、ラノの腕はまたも掴み上
げられ――ファイオへと差し出された。
「しまった!」
バギルはラノの所へと戻ろうとしたが、立ち塞がる邪
神に阻まれてしまった。
「どけっ!!」
バギルは自らの拳に精神を集中した。
両方の拳に、瞬時に熱と光とが注ぎ込まれ、紅蓮の輝
きが迸った。
邪神に引けを取らない敏捷さで、バギルは邪神に肉薄
し――灼熱に輝く拳を、邪神の胸へと打ち込んだ。
陶器の様な邪神の皮膚に無数の亀裂が生じ――黒と灰
色の肌は、白熱の光の筋を吐き出した。
邪神の体は見る間に白炎に包まれ、塵も残さずに焼け
崩れた。
「ラノ!」
しかしバギルがラノの許へと駆け寄るより早く、ファ
イオの幻獣の鞭は、ラノの胸へと吸い込まれていった。
「……ぁぁっ!」
ラノは小さな悲鳴を上げたきり、その場に硬直した。
◆
鈍い痛みと息苦しさが、ラノの胸に広がっていった。
容赦無く、自分の奥深くをまさぐられている感覚があ
った。
ラノの中を探る何かは、更に奥へ――ラノの心の深み
を目指して忍び込んでいった。
痛みと言うよりも、吐き気を伴う様な不快な眩暈が先
に立った。
ラノの心を探っている触手は、記憶の扉を刺激するの
か――何かがまさぐっていく感覚が走る度に、ラノの脳
裏には、今迄の生活の記憶がでたらめに甦っていった。
幼い時、蜂に刺された事――昨日、昼食に神国神殿で
シチューを食べた事――三年前、神官達と湖で泳いだ事
――まとまりも、印象の強さも、時間の順序も何も無か
った。
「……見つけたわネ!」
金縛りにあったまま立ち尽くすラノの目に、ファイオ
のほくそ笑む様子が映った。
触手から――何かを飲み込む唇へと、ラノの心の中に
侵入して来たものの感触が変化した。
その途端、不快感ははっきりとした苦痛となり、ラノ
の全身を苛んだのだった。
「――キャァァァァッッッッッッ!!!」
ラノの鋭い絶叫が、辺りに響き渡った。
心の「深い闇」――ファイオ達が奪い取っていくもの
は、物質的な形に加工された精神エネルギーだった。
「深い闇」から作られた幻獣や邪神は、「闇」の持ち
主の精神を反映している訳ではなかった。
しかし、ラノの心の奥底を無慈悲に吸い尽くす唇は、
ラノが今迄封じ込め、また忘れ去っていた心の暗い部分
を次々に暴き出していったのだった。
ティラルに寄り添い、彼を独占する自分――ゼームを
疎み、その死を望む自分――嫉妬、憎悪、独占欲。
それらは理性の抑制を離れ、毒々しい輝きをもってラ
ノの意識に顕在化していった。
かけがえの無い二神の友――そのどちらをも自分のも
のとして、自分の下に束縛しておきたいという思い。
「――ティラル――ゼーム……」
「深い闇」の呼び覚ます心の昏さに耐え切れず、ラノ
は意識を失った。
「ラノっっ!」
バギルがラノの許へと駆け寄るまで、大した時間はか
からなかった。
その僅かな時間の内に、幻獣はラノの「深い闇」を吸
収し終え、伸ばしていた鞭を体内へと戻したのだった。
飛び掛かってくるバギルを躱し、ファイオと最後の邪
神はテラスの手摺りの近くに跳躍した。
「おまえら、何てひどい事を……っ!」
バギルは、倒れ込んだラノの姿勢を正し、石床の上に
横たえた。
意識を失ってはいたものの、苦悶に歪む表情が、ラノ
の顔に拭い難く刻み込まれていた。
ファイオはバギルとラノとを交互に見ながら、
「そンなにコワイ顔しなくても、用は終わったから帰る
わヨ!」
見下した様なファイオの言葉に、バギルは弾かれる様
に立ち上がった。
「そっちの用は終わっても、こっちはまだ用があるんだ
よッ!」
ファイオに掴み掛かろうとするバギルの前に邪神が割
り込み、刺に被われた腕を振り下ろした。
「!」
バギルは寸前で飛びのき、邪神の腕はバギルの服を掠
るだけで終わった。
「アンタもロウ・ゼームのおトモダチなのかしら?」
射る様な視線で睨み、飛び掛かる間合いを計るバギル
に、ファイオはからかう様な口調で問い掛けた。
「俺はザードを、レウ・ファーの所から連れ戻したいん
だっ!」
叫ぶ様にバギルは答えた。
ザードは、自分がこうしている今、一体どうしている
のだろうか。
あの邪悪な機械神の下で、今も冷酷で残忍な笑いを浮
かべているのだろうか?
焦燥と不安は澱の様にバギルの心に沈潜し続けていた
のだった。
ザードがレウ・ファーに連れ去られたあの日から――
「――ラノと言い、アンタと言い、随分とオトモダチ思
いなコトよネ!」
嘲笑を浮かべながらも、しかしファイオの顔には、何
処か苦しく哀し気な翳りがあった。
一瞬、ファイオはきつい色の紅を引いた唇を噛み、
「何でそんなに必死になるの?バッカみたい!」
羨望なのだろうか、それとも。
言葉にはし難いファイオの感情を、バギルは漠然と感
じ取った。
そこに、バギルの隙を突く形で、邪神が眼球から光線
を吐いた。
殆ど威力は無かったものの、大量の爆煙が巻き上げら
れ、バギルの視界は妨げられた。
「――じゃあネッ!!」
爆煙に紛れて、ファイオと邪神の気配は遠ざかってい
った。
「しまった!」
バギルはファイオ達がいた辺りに見当を付けて走り寄
ったが、既に彼らの姿は無かった。
「――ん……。」
今の小さな爆発の衝撃に、ラノは意識を取り戻した様
だった。
「――バギル?」
ラノは横たわったまま、ぼんやりと目を開けた。
「気が付いたのか?」
ラノの側に戻り、バギルは屈み込んだ。
ラデュレーへの手掛かりに逃げられてしまい、バギル
は気落ちした様子で溜め息をついた。
「……。」
ひとりでに溢れる涙に、ラノの視界は霞んだ。
つい先刻の、自分の中の昏い心の姿が、残滓の様にラ
ノの脳裏を漂っていた。
幸いな事に、それらは次第に薄れていき、再び心の奥
底へと沈んでいこうとしていた。
ラノはただ、溢れる涙を拭いもせず、全ての力を抜き
去られたかの様に、いつ迄も横たわっていた。
◆
その部屋は、何かの臓腑の内側を連想させた。
大理石の白い壁は、全て赤黒い肉質の物に変わり果て
て、その肉に浮き出た回路図の様な模様だけが、時折虹
色の光を放っていた。
ラデュレーの、レウ・ファー達が住まう神殿の中の一
室――そこは、レウ・ファーの細胞の影響を強く受けて
いた。
ファイオとパラが「深い闇」から創造した幻獣は、こ
の部屋に送り込まれて邪神に変えられていった。
「――これで一四七体。」
部屋の中から禍々しい気配を撒き散らして出てくる、
変わり果てた創造物を数えながら、パラは溜め息をつい
た。
ファイオやパラが幻獣を作り出す早さに比べて、幻獣
の邪神化は遅々として進まなかった。
時々その不満をレウ・ファーに訴えるものの、今はま
だ準備段階だという言葉の下に、大して取り合ってはも
らえなかった。
パラとファイオが広間へと戻ると、レウ・ファーの前
方の空間に、様々な数値や資料が映し出されていた。
その殆どは、極めて不鮮明なもので、ファイオやパラ
が読み取る事は出来なかった。
「――これは?」
パラが問うと、
「神国神殿から持って来た情報の分析だ。――お前達は
暫く下がって構わない。」
無機的な合成音で答え、レウ・ファーは精神を集中す
るかの様に仮面を上へと向けた。
「――神国から奪って来た全ての情報の内、三割が分析
終了。それから、ラデュレーの旧式コンピュータとの融
合と刷新が七割達成。――ここに浮かんでいるのは、レ
ウ・ファーの仕事の進み具合だよ。」
ファイオとパラに説明する声があった。
「ザード……。」
軽い驚きと、疎んじる様な感情がレウ・ファーの内に
起こったのだが、それらは合成音に反映される事は無か
った。
この幻神はまたしても、他の幻神の知り得ぬ事を見通
したのだった。
「こっちが終わる迄、キミ達の邪神作りは二の次なんだ
よ。」
邪神化の遅い理由を納得はしたものの、ザードの高慢
な口調は、パラとファイオとを苛立たせた。
――神霊石の反応は、胸部中央。そこに石を内蔵し、
ザードは神霊石のエネルギーを吸収。
レウ・ファーは、分析や融合の作業を進める一方で、
時にザードの分析も密かに試みていた。
――体内への神霊力の過剰な蓄積による人格の変容(
傲慢、残酷、など)
他の幻神や、時にはレウ・ファーをも見下し、周囲か
ら浮いているこの幻神の存在を、レウ・ファーは持て余
し気味だった。
それより――何よりも、ザードの体内に吸収された自
分の神霊石の片割れが取り戻せないでいた事に、レウ・
ファーは幾らか焦りを覚えていた。
――データ不足により、判断不能。
レウ・ファーの支配下にあるコンピュータの回答に、
レウ・ファーは落胆した。
恐らくは、ザードの精神力、神霊力によって、取り込
んだ神霊石と強く結合しているのだろう、と、コンピュ
ータは推測を述べた。
「キミ達、慌てる事は無いさ。――神国の連中への復讐
はもうすぐさ。」
復讐――その言葉を、ザードは陶然と口にした。
「塵芥から生まれた幻神だと、ボク達を見下し、蔑んだ
連中への復讐はもうすぐさ……。ボク達を見下した奴ら
を、今度はボク達が見下すんだ。」
心の底から楽しそうに、ザードは笑いを漏らしながら
呟いていた。
――慌てる事は無い。
幻神達の様子を睥睨しながら、レウ・ファーはザード
の分析を打ち切った。
ザードの腹の内はどうあれ、彼がレウ・ファーの手の
内にいるのは間違い無かった。
いずれ、ザードから神霊石を取り戻す機会も訪れるだ
ろう。
――そして何より、神国から持って来た全情報の分析
が終われば、神霊石を取り返すのに役立つ情報も見つか
るに違いない。
情報の分析に集中するべく、レウ・ファーは広間から
自分の内部へと意識を切り換えた。
第一部 完
第二部へ続く