表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Drop Prisoner  作者: 西谷 黯
2/2

第一章 この手紙はアヤマチを拾い

「山岸、どうかしたか」

「何が」

考え事の邪魔をされ、脩人は不機嫌に言う。

「箸が止まってるぞ」

クラスメートの江藤は茶化して笑う。

それが何だか妙に癪に障った。そういえば今日は寝不足だった。

脩人は誰が見ても不機嫌な顔で江藤を見上げた。

「別に……」

小さく低く呟き、卵焼きを頬張る。

江藤はそんな『用がないなら話しかけるな』と言わんばかりの視線に貫かれ、むぅ、と呻いた。

「いや、なんかあったのかなってさあ」

江藤はへらへらと半笑いで脩人の隣の席のイスにどかっと腰を下ろした。

「ほら、俺でよければ相談に乗るけど?」

「……そうだな」

脩人は片手で机の横に引っかけてある鞄のチャックを開けて中から薄い何かを取り出した。

「これ」

口数少なく脩人はそれを机の上に置いて見せた。

江藤の相談に乗るという意見に乗ったわけではない。

ただ好奇心だけが取り柄の江藤である。

己の納得がいくまでしつこく食い下がってくるのに違いがなかった。

それよりは早く納得してもらったほうがずっと楽なものである。

実際、江藤は幼い少年のように目を輝かせ、それに飛びついた。

「封筒か、コレ」

「みたいだな」

「中、見ていい?」

「ああ」

その封筒は上質な紙で仕上がっていた。

表には脩人の名と住所が恭しく記されている。

格調高いパーティーの招待状のように見えないこともないが、封筒をぐるりと囲む黒縁がせっかくの雰囲気をぶち壊し禍々しいものへと変えていた。

脩人がすでに開封しているため、たやすく中からそのまま手紙を引っ張りだせる。

二つ折りにされた便箋も江藤にとって初めて見るような良い紙だった。

野次馬の高揚する気分で便箋を開く。

真っ白ではなく古めかしいセピアな色調の紙に、手書きで文が綴られていた。

曰く、




  貴方の罪が見つかりました。

  心よりお悔やみ申し上げます。

  今日中に全てのご用意を済ませて下さい。

  明日午後一時に最寄りの駅にてお迎えいたします。


     ――――国設刑務所 罪科収容所





「ああ?何だこれ」

江藤が素っ頓狂な声を上げる。

「分かんね。昨日の夕方机の上に置いてあったんだ」

「昨日の夕方……。じゃあ今日の一時……って、あと三十分じゃんか」

「馬鹿。誰かの悪戯だろ」

言い捨てる。

悪戯なら、それはそれで些か気味が悪い。

「ポストに入ってたのか?」

「いや、親に聞いても知らないらしくて。気味が悪いから捨てなさいとだけ言われた」

「あー」

「でもなんか捨てづらくて」

「ストーカーじゃねえの?」

「やめろ、気色悪い」

暗い雰囲気に茶々を入れた江藤だったが、あっさり切り捨てられてしまった。

しかし、脩人も少し気が楽になったのか手紙をしまうと、昼食を再開した。


そのあと他愛のない話に移り、チャイムが鳴った。

脩人は押し流されるように忙しく退屈な“今日”に身を投じていった。






五時限目が終わり、脩人は口の中の眠気をペットボトルの水で押し流した。

さっぱりとまではいかないがそれなりに気持ちがクリアになった。

「よう」

真後ろから江藤の声がした。

振り返ると予想外に真剣な顔つきである。

「どうかしたか?」

「い、いや。過ぎたなって」

「何が?」

「時間だよ、ほら。一時なんだろ」

そう言って、時計に目をやる江藤を追って脩人も時刻を確認した。

二時二十三分。

もう一時間半近く経っている。

「ああ」

脩人はそこでようやく手紙の存在を思い出したように頷いた。

「でも時間は関係なかったみたいだぞ。何も起きていない」

「確かに……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ