幼馴染が勇者になりましたがトロフィーワイフなんてまっぴらです
「大人になったら結婚しようね」
村中の女の子にそう言っていたロクデナシが、村を出て勇者になって帰ってきた。……美少女ハーレムパーティ引き連れて。
「ただいま! 迎えに来たよ」
あげくに私にプロポーズとは、頭沸いているんじゃないだろうか。
「だって、君が村で一番かわいい」
とうに頭の中身蒸発して空っぽになっているらしい。
「いやです」
「なんで」
心底不思議そうにするな。鏡を見ろ。
「こんなにイケメンで国を救った人気絶頂の勇者が、こんなド田舎までわざわざ君を迎えに来たんだぜ」
頼んでないし、押し付けがましい。
「大丈夫。王城の姫様は優しい人だよ。国王になる僕が好きな子なら何人でも側妃にして後宮に呼んで一緒に住んでいいって言ってくれているんだ」
「側妃だの後宮だの、そんなものうちの国にありましたか?」
「僕のために作ってくれるって言うんだ。王宮の主寝室に何人も女の子を詰め込まれるより、そっちの方がいいって提案してくれたんだよ。賢くて優しい素晴らしい姫様だろう?」
コメントに困るけれど、お前が底抜けのクズだということは再認識できた。
「特に興味はないのでお引き取りください」
私は手にしていた箒で勇者の足元を軽く祓うそぶりをして、帰るように促した。
「なによ、あなた。勇者様に失礼ね!」
「そうだぞ貴様。この方にこれ以上無礼をはたらくと許さんぞ」
「ワタシ、このコ、キライ」
勇者の背後にいた、気の強そうな金髪美少女と、グラマラスな赤毛の女戦士と、人間味と色素の薄いお人形のような幼女が口々に私に文句を言った。服装を見る限り、金髪少女は神殿関係者、白髪の幼女は魔法使いか。女戦士は胸と腰だけを半端に覆ったへそ丸出しの格好なので、本職の戦士かどうかは疑わしい。
「うんうん。みんな僕をかばってくれてありがとう。でも彼女はちょっと人見知りで照れ屋なだけなんだ。こういうつれない態度は僕への好意の裏返しってわけさ」
何を言っているんだこいつは。
「身に覚えのない言いがかりはよしていただきたいのですが……」
「なんだよ。忘れたわけじゃないだろう? 昔から何をするのも一緒で、僕が"お兄ちゃんって呼んでいいんだよ"って言ったら、いつも"うぜぇ"って照れてたじゃないか」
どうしよう。言語や文法の問題ではなく、主張の論旨がわからない。
この男の父は私の父の弟で、脳筋気味で女にはだらしなかったがそれなりにまっとうなところはある人だった。こいつは親の顔の良さと、それ以外の悪いところ全部を抽出してすくすく育ったような男だ。
村にいた時からひどかったが、村での生活に耐えかねて飛び出して行ってから見事に悪い方にまっすぐ育った感じだ。
村の裏山の祭殿のお社を壊して、中の金目のお供え品をかっぱらっていったから罰が当たったのだろうか? いや、そんなことをやらかす時点で人間性が終わっているから当然の帰着か。
あの時は後片付けが大変だった。叔父さんは責任を取って村を出る羽目になったし、一応、血縁にあたるうちの家族も大いに面倒に巻き込まれ、私は大変な目にあった。
その後なんとか丸く収まったから、それはそれでと思っていたが、こうしてのうのうとしているこのバカの顔を見ていたら、あらためてその無責任さに腹が立ってきた。
私を取り囲んでやいのやいのと口々に好き勝手なことを言っている勇者と、その姦しい取り巻きの相手をこれ以上するのが、私はすっかり嫌になった。
「蹴りだされたくなかったら、王都でもどこでもいいので早めにお帰りください」
「おいおい。今日はもう日も傾きかけているんだ。早く家に上げて足を洗ってくれよ。夕食は肉がいいな。家畜小屋に手ごろな子牛がいただろう。あれを焼いてくれよ。みんな腹ペコなんだ」
「やった! 肉はいくらでも食えるぞ。酒も付けてくれ」
「お肉もいいけど、私は何か甘いものが欲しいわ」
「ワタシはハチミツがいい……」
どうして当然のように過剰な歓待を要求するのか。
私は一度家に入って、叔父さんが村を出るときに私に預けて行った剣を手に、ろくでなし勇者一行の前にもどった。
「なんだその剣は?」
「あなたのお父さんが村を出るときに、私に預けて行った剣よ」
「なんだと? あの親父、なんだかんだ言って俺に継がせる剣をお前に預けて、俺がお前を迎えに来たら受け取れるようにしておくとは、なかなか面白いことをするじゃねぇか」
「なに?! 勇者殿の御父上というとあの剣聖殿の剣か。なるほど見事な剣だ」
長剣は華美な作りではないが、バランスの取れた良い剣だ。うちの村の鍛冶屋の渾身の作である。
叔父さんは大切にしていて、私も大事に手入れしてきた。
「剣聖様って、勇者様が王都で竜を倒したときに、勇者様の名声をねたんで、そもそも竜が世に出たのは勇者様のせいだとかなんとか言って悪評を広めようとした人でしょう? そんな人の剣を継がなくても勇者様は十分にお強いと思いますわ」
「アレは毒親。ワタシ、キライ。プンプン」
「まぁまぁ。バカなことをして政治犯として王宮の牢屋行きになっちまったとはいえ、あれでも剣聖だ。その剣ならなにか加護か特殊な魔法効果の一つもついているかもしれない」
何もなくても剣聖の剣だと言えば高く売れるかも、などと下郎は底抜けのクズ発言をした。
このバカが裏山のお社を荒らしたせいで野に放たれた竜を討つために、叔父さんは旅に出たのに、その叔父さんを牢屋に放り込むとはどうかしている。……牢屋にあっさり放り込まれる叔父さんもどうかしているが、衛兵が美人だったからとかそういうくだらない事情かもしれない。
どちらにせよ、こんな奴にこの剣は渡さない。
私は剣の鞘をはらった。
「お、刀身を見せてくれるのか」
「……叔父さんは私にこの剣を託しました。剣が欲しくば実力で奪いなさい」
「へぇえ、そういう趣向か」
ゲスな笑みを浮かべた愚か者との間合いを図りながら、私は家の前の三段ほどの石段をゆっくりと降りた。
「王都を恐怖のどん底に陥れた独眼竜を倒した勇者殿に剣を向けるとは馬鹿な奴」
「貴女が勝てるわけないでしょう」
「ムダすぎ」
「お前って昔からそうだよな。いつでも俺に勝てると思い込んでてさ。いいぜ。その話のってやる」
ゲス勇者はしかしそこで「だが、相手をするのは俺じゃない」と己の取り巻き達の後ろに下がった。
「お前のために公平を期して、俺じゃなくて彼女達と戦ってもらおうじゃないか」
立ち回りの姑息さが手馴れている。
どうやらこの調子で足りない実力をごまかして、勇者などと名乗るご身分になったのだろう。"スカーフェイス"などというあだ名がつけられているということは、王都に出現した時点であの竜は叔父さんに何度かやられて満身創痍だったのに違いない。……いや、その状態でとどめを刺せずに人口密集地に逃がしちゃった時点で、叔父さんの牢屋行きは割と適正かもしれないな。
「この際、もうなんでもいい。さっさと片を付けよう」
「なんですか、その口のききようは。勇者様はお優しいから、幼馴染の貴女に剣を向けたくないのに。そのお心配りがわからないのですか!」
さっぱりわからない。
「ふふふ、素人の手とはいえ剣聖の剣と立ちあえるというのは良い趣向だな。勇者殿、感謝するぞ。ついでにこの生意気な奴に少々しつけをさせてもらうが構わんな」
「いいよ。ここで強さの順位をきちんと決めておいた方が、後宮で夜伽の順序を決めるときに楽だろう」
あまりの嫌悪感に手が震えた。
「ブルってる。楽勝」
白髪の幼女が開始の合図もなしに指輪から攻撃魔法を放ってきた。
私は飛来した光球を半歩引いて避けた。そこに赤毛の女戦士が突っ込んでくる。これは二歩ほどサイドに避ける必要があった。玄関わきの花壇に踏み込んで、せっかくきれいに咲いていた紫星花を革のブーツで潰してしまう。
相手が抜きかけた剣の柄を、自分の剣の柄頭で強打してバランスを崩させる。半端に上体が反ってガラ空きになった腹を、頑丈さが取り柄のブーツで蹴りつけると、ブーツに付いていた潰れたローレンティアの白い汁がべっちょり相手のむき出しの腹に付着した。
「この……っ!」
無駄に胸の大きい赤毛の女戦士は、自分の腹に付いた白い足跡を腹立たしそうにぬぐおうとした。
薄く広がってしまったローレンティアの汁が付いた部分の皮膚は、たちまち赤くなった。ローレンティアは花はかわいらしいのだが、葉や茎から出る汁は毒があるのだ。
「……っく、痒いっ」
ひるんだ女戦士と、彼女を治そうと回復呪文を唱え始めた金髪神官少女に、まとめて麻痺と拘束の魔法をかけて花壇に蹴り飛ばす。白髪幼女魔法使いがもう一度攻撃魔法を放とうとしていたので、指輪をはめた手を切り飛ばす。思った通り生き物を切った手応えはなく、手首から血は出なかった。どこかの遺跡から出てきた魔導人形か何かだろう。この手の輩に麻痺は聞かないので、電撃拘束の魔法だけかけて花壇とは逆側の溜池に蹴り込んだ。
「あわわわわ、そ、それじゃあ、君が最初の番ということで……何なら今夜から……」
取り巻きが秒殺されて泡を喰った勇者は、この期に及んで何やら寝言のような戯言をぬかしていたので、私は問答無用と言って剣の腹で徹底的に叩きのめした。
§§§
「容赦ないな」
一部始終を見ていたらしい我が家の居候は、全部終わってから出てきて喉奥でくっくと笑った。
私は居候に手伝わせて、簀巻きにした勇者一味を「お尋ね者をお届けに上がりました」と村の集会場に放り込んできた。あのバカがお社の宝具を盗んで逃げた時は村の大人は全員怒り狂っていたから、それなりに適正な対応を取ってもらえるだろう。
太古の龍を封印するためにこの地に村を作って代々いるというのに、修業がつらくなったからと、封じの宝具の一部をかっぱらって逃げるとは言語道断である。強い血筋の者を得るために、代々、腕の立つ男を婿にしては、生まれた子を徹底的に英才教育して、いつか龍に立ち向かえるほどの英雄を育成しようと村中みんなで頑張っていたのだから、あまりにひどい裏切りだ。
幸い、解けてしまった封印からわらわら出てきた竜はほとんどうちの父と私で倒せた。村の外に逃げたのは小さいの一匹だったので、その程度はお前が責任を取れと、叔父さんが退治に出かけたのだ。
「そういえば叔父さん、牢屋に入れられたって言ってたなぁ。助けに行かないとダメかな?」
「いらぬだろう。出てきたければ本人が好きな時に出てくればよい」
「まぁ、そうか」
「我も特に出なくてもいいと思っていた間は、大人しくしていたからな」
楽し気にしているこの居候は、古龍だ。
今は人と並べるサイズになっているが、本当の姿は巨大な古の龍である。
「なんでうちの居候になってんだか」
「それは、そなたが気に入ったからだ。嫁に欲しいと言ったのにそなたの父が許さぬからいけない」
山に籠って修行してくるから首を洗って待っていろ! と叫んで、裏山の魔境の洞窟に突撃していった父は馬鹿だと思う。母は「ああはなっちゃダメよ」と私に強く言い聞かせた。私は母似でよかった。
「もう面倒だから父を待たずに結婚しちゃおうか」
「我は面倒でもきちんと皆に祝福されて、そなたが恥を感じない正しいやり方で番いたい」
封印されていた龍の方がよっぽど人の道に沿っているのはなんなんだろう。
「我は待つぐらいどうということはない」
「……私が待つの嫌なんだけどな」
うっかり本音を漏らしてしまったら、我が家の居候はびっくりした顔で私を見た。
へえ、そんな顔できるんだ。かわいいな。
「よし。決めた。結婚しよう」
なあに、こちとら覚醒した歴代最強の英雄だ。反対するような奴は父親だろうが何だろうが全員叩きのめせば、実質、全員に祝福されたも同然になるから問題ないだろう。
そう言ったら、我が愛しの古龍殿はしばらく沈思黙考していたが、「ではそうしよう」と同意してくれた。
私は子供のころからひそかに憧れていた最強の龍と結婚した。
主人公もけっこう父親譲りの脳筋w
お読みいただきありがとうございました。
感想、評価☆、リアクションなどいただけますと大変励みになります。




