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―転生の果てⅥ―  作者: MOON RAKER 503


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第6話 転生したら 5分進んだ腕時計だった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


転生の果てシリーズは、転生の果てⅥで終了になります。

ここまで読んで頂いたこと感謝します。

ありがとうございます。


――朝、六時三十分。


アラームが、鳴る。


手が伸びて、止められる。


ベッドから、起き上がる。


「 」は、サイドテーブルの上に在る。


銀色の文字盤。

黒い革のベルト。


手に取られる。


腕に、巻かれる。


文字盤が、確認される。


六時三十二分。


――いや。


正確には、六時三十七分。


「 」は、五分進んでいる。


だが、それに気づかれることは、ない。


昨夜、時刻合わせをした時。


わずかに、ずれていた。


電波時計ではない、手動式。


秒針を見ずに、合わせた結果。


五分、早く進む時間。


朝の支度が、始まる。


顔を洗う。


服を着替える。


朝食を準備する。


トーストを焼く音。


コーヒーを淹れる香り。


「 」の秒針が、規則正しく刻む。


カチ、カチ、カチ。


時間が、進んでいく。


だが――


その時間は、世界より五分早い。


テレビをつける。


ニュース番組。


画面の隅に、時刻表示。


「6:48」


「 」を見る。


「6:53」


「……進んでるな」


呟き。


だが――


「まあ、遅れるよりはいいか」


そのまま、放置される。


遅刻するよりは、早く着く方がいい。


そういう判断。


朝食を終える。


バッグを持つ。


玄関を出る。


ドアに鍵をかける。


「 」を確認する。


七時五分。


――実際には、七時ちょうど。


「急がないと」


足早に、駅へ向かう。


いつもより、五分早い出発。


意図せずに。


「 」が、そうさせている。


駅に着く。


改札を通る。


ホームへ。


電車の発車時刻を確認する。


「七時十二分発」


「 」を見る。


七時十五分。


「……あと三分ないか」


焦る。


小走りに、ホームを移動する。


だが――


実際の時刻は、七時十分。


まだ、二分ある。


ホームに着く。


電車は、まだ到着していない。


「……間に合った」


息を整える。


周囲を見回す。


いつもと、違う。


いつもより、人が少ない。


「今日は空いてるな」


呟き。


だが、理由は違う。


五分早く来たから。


いつもの時間帯より、前だから。


電車が、到着する。


ドアが開く。


乗り込む。


席が――空いている。


「ラッキー」


座る。


いつもは、立っている時間。


満員電車で、揺られる時間。


だが、今日は座れた。


「 」のおかげで。


意図せず、早く来たおかげで。


電車が、発車する。


窓の外を、景色が流れていく。


次の駅。


また、次の駅。


そして――


三つ目の駅。


電車が、停車する。


ドアが開く。


――そこから。


ひとりの人物が、乗り込んできた。


見覚えのある、顔。


「……あ」


視線が、合う。


相手も、驚いた表情。


「おはようございます」


「あ、おはようございます」


会釈。


相手は――


以前、同じプロジェクトで働いた、別部署の人。


最近は、顔を合わせていなかった。


「久しぶりですね」


「ええ、本当に」


「こんな時間に、珍しいですね」


「ああ、今日はたまたま、早く出たもので」


「そうなんですか」


会話が、続く。


近況。


仕事の話。


何気ない、やり取り。


だが――


その会話の中で。


「そういえば、来月から新しいプロジェクトが始まるんですよ」


「へえ」


「まだ人手が足りなくて、募集してるんです」


「そうなんですか」


「もし興味があれば、どうですか?」


提案。


予期していなかった、誘い。


「……詳しく聞かせてもらえますか?」


「もちろん」


説明が、始まる。


プロジェクトの内容。


期間。


条件。


興味深い、話。


「いいですね」


「でしょう?」


「前向きに、検討します」


「ありがとうございます。また、詳細送りますね」


「お願いします」


電車が、目的の駅に着く。


「じゃあ、また」


「はい、ありがとうございました」


降りる。


改札を出る。


歩きながら、考える。


新しいプロジェクト。


もし、五分遅かったら――


あの人と、会わなかった。


いつもの時間なら、違う車両にいたはず。


違う席に、座っていたはず。


会話も、生まれなかった。


「 」が、五分進んでいたから。


偶然が、起きた。


会社に着く。


デスクに座る。


パソコンを起動する。


「 」を見る。


八時二十分。


――実際には、八時十五分。


まだ、始業まで時間がある。


コーヒーを淹れに、給湯室へ。


そこで――


また、誰かと会う。


「おはようございます」


「あ、おはようございます」


普段は会わない、上司。


いつもは、もう会議に出ている時間。


だが、今日は――


「今日は早いですね」


「ええ、ちょっと」


「実は、相談したいことがあったんですよ」


「はい?」


「ちょうど良かった。今、時間ありますか?」


「はい、大丈夫です」


会議室へ。


話が、始まる。


新しい業務の提案。


責任ある立場への、打診。


「……考えさせてください」


「もちろん。でも、前向きに検討してほしい」


「ありがとうございます」


会議室を出る。


デスクに戻る。


座る。


「 」を見る。


八時三十五分。


――実際には、八時三十分。


始業時刻。


周囲が、騒がしくなり始める。


出勤してくる、同僚たち。


「おはよう」


「おはようございます」


いつもの、朝。


だが――


今日は、違った。


五分早く来たことで。


二つの、出会いがあった。


二つの、機会が生まれた。


「 」が、作った偶然。


五分のズレが、生んだ結果。


昼休み。


食堂へ。


「 」を確認する。


十二時十分。


――実際には、十二時五分。


「まだ混んでないな」


列が、短い。


スムーズに、食事を取る。


席も、選べる。


窓際の、良い席。


座る。


食べ始める。


そこへ――


「ここ、いいですか?」


声をかけられる。


見上げると――


朝、電車で会った人。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


座る。


また、会話が始まる。


プロジェクトの詳細。


条件の確認。


興味が、深まっていく。


「ぜひ、参加したいです」


「本当ですか? 嬉しいです」


握手。


決まった。


新しい、道が。


五分のズレが、開いた道。


午後。


仕事が、進む。


集中する。


「 」の秒針が、刻み続ける。


だが――


その時間は、世界より早い。


いつも気づく前に、次の予定が来る。


いつも準備できる前に、時間が迫る。


焦りが、少しずつ募る。


だが――


結果的には、遅刻しない。


むしろ、早めに動ける。


五分の余裕が、生まれる。


意図せず。


偶然に。


夕方。


仕事を終える。


「お疲れ様でした」


「お疲れ様です」


帰り支度。


バッグを持つ。


オフィスを出る。


エレベーターを待つ。


――そこで。


「あ、待ってください」


声が、聞こえる。


振り返ると――


別の部署の、知り合い。


「一緒に、帰りませんか?」


「ええ」


エレベーターに、乗る。


会話。


最近の仕事。


プライベートの話。


駅まで、一緒に歩く。


「そういえば、今度飲みに行きませんか?」


「いいですね」


「じゃあ、また連絡します」


「お願いします」


別れる。


改札を通る。


ホームへ。


電車を待つ。


「 」を見る。


六時四十分。


――実際には、六時三十五分。


「次の電車、もうすぐか」


だが――


実際には、まだ時間がある。


ベンチに座る。


スマホを取り出す。


メッセージを確認する。


朝会った人から、プロジェクトの詳細が送られてきている。


読む。


返信する。


電車が、到着する。


乗り込む。


帰路。


窓の外を、景色が流れていく。


考える。


今日一日。


いつもと、違った。


五分早く、動いたから。


会わなかったはずの人と、会った。


知らなかったはずの話を、聞いた。


開かなかったはずの道が、開いた。


「 」が、作った偶然。


五分のズレが、変えた未来。


家に着く。


ドアを開ける。


中に入る。


「 」を外す。


サイドテーブルに、置く。


文字盤を見る。


七時三十分。


――実際には、七時二十五分。


「……このままでいいか」


呟き。


時刻を、合わせない。


五分進んだまま、放置する。


遅刻するよりは、いい。


早めに動ける方が、いい。


そう、判断する。


「 」は、そのまま。


五分早い時間を、刻み続ける。


明日も。


明後日も。


ずっと。


そして――


その五分が。


また新しい、偶然を生むだろう。


会うはずのない人と、会うだろう。


起きるはずのないことが、起きるだろう。


「 」は、理解している。


正しい時刻でなくても。


結果だけは、正確に積み上がっていくことを。


わずかな進みが。


世界の流れを、変えることを。


夜が、深まる。


「 」の秒針だけが。


静かに、刻み続ける。


五分早い、時間を。


(了)

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