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―転生の果てⅥ―  作者: MOON RAKER 503


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第3話 転生したら 破れたレシートだった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


転生の果てシリーズは、転生の果てⅥで終了になります。

ここまで読んで頂いたこと感謝します。

ありがとうございます。


――精算カウンターの、蛍光灯の下。


「 」は、レジから吐き出された。


機械音と共に、印字される文字。

商品名、単価、合計金額。


最後に切り離される、紙の端。


受け取られる。


「ありがとうございました」


店員の声。


「 」は、財布に挟まれる。


他のレシートと一緒に。折り畳まれ、革の間に押し込まれる。


暗闇。


圧力。


時間が、過ぎていく。


そして――


翌週。


財布が開かれる。


中から取り出される「 」。


だが、その時には既に。


端が、破れていた。


上から三分の一ほどのところ。

横に走る、不規則な裂け目。


ビリ、と。


紙の繊維が引きちぎれた跡。


「あ……」


小さな声が、漏れる。


「 」を持つ指が、破れた部分を確認する。


失われた部分には――


店名が、あった。


住所の一部も。

日付の上半分も。


残っているのは、商品名と金額。

そして、下部の合計欄。


¥12,800


その数字だけが、はっきりと読み取れる。


「……これ、経費で落とせるかな」


呟きながら、「 」を見つめる視線。


会社の備品を買った。

文房具と、小型のホワイトボード。


経費精算には、レシートが必要だ。


だが――


破れている。


店名が、ない。


「とりあえず、出してみるか」


「 」は、精算用の封筒に入れられた。


他の完全なレシートと一緒に。


経理部への提出。


翌日。


デスクに、内線電話がかかってくる。


「もしもし」


「あの、先日提出されたレシート、少し確認したいことがありまして」


経理担当の声。


「はい」


「一枚、破れているものがあるんですが」


「……ああ」


「店名が読めないんですよね。どちらで購入されました?」


質問。


当然の、確認。


「えっと……確か、駅前の文房具店だったと思います」


「駅前ですか。具体的には?」


「……ちょっと、名前が出てこなくて」


「そうですか」


電話の向こうで、紙をめくる音。


「金額は12,800円ですね。内訳は?」


「文房具とホワイトボードです」


「文房具、というのは?」


「ペンとか、ノートとか……」


曖昧な返答。


実際には覚えていない。

まとめて買った、いくつかの品。


「ホワイトボードは、どのサイズですか?」


「……60センチくらいの、小さいやつです」


「分かりました」


少しの沈黙。


「レシートに、購入日時は残っていますか?」


「日付が、半分破れてて……」


「そうですか」


また、沈黙。


「とりあえず、確認させていただきます」


電話が、切れる。


「 」は、経理部のデスクに置かれている。


蛍光灯の下。


破れた端が、影を作っている。


経理担当が、「 」を手に取る。


裏返し、透かして見る。


印字された文字を、読み取ろうとする。


だが、店名は読めない。

住所も、不完全。

日付の上半分が、ない。


残っているのは、商品名と金額だけ。


他のレシートと、並べられる。


コンビニのレシート。

飲食店のレシート。

全て、店名がはっきりと印字されている。


「 」だけが、不完全。


疑問が、浮かぶ。


本当に、経費なのか。


私的な買い物を、経費として申請していないか。


だが――確証はない。


ただ、破れているというだけ。


それだけで、疑うのは――


いや。


確認できない以上、疑念は残る。


上司に、報告される。


「破れたレシートがあるんですが」


「どれ?」


「 」が、手渡される。


上司の目が、細められる。


「……店名、ないな」


「はい」


「本人に確認したか?」


「しました。駅前の文房具店、とのことですが」


「具体的な店名は?」


「覚えてない、と」


上司が、「 」を見つめる。


数秒の沈黙。


「金額は?」


「12,800円です」


「内訳は?」


「文房具とホワイトボード、とのことですが、詳細は曖昧でした」


また、沈黙。


「……今回は通すけど、次からは気をつけるように伝えて」


「承知しました」


「 」は、承認印を押される。


だが――


その印には、いつもと違う重さがあった。


信頼ではなく、仕方なく。


証明できないから、通すしかない。


そういう、空気。


「 」は、それを感じている。


破れた部分よりも。

失われた文字よりも。


人の目つきが、変わった速さを。


デスクに戻ってきた、精算済みの封筒。


中に「 」が、入っている。


受け取る手。


開封する。


「 」を取り出す。


承認印が、押されている。


――だが。


何かが、違う。


経理担当とすれ違う廊下。


「お疲れ様です」


挨拶をする。


「……お疲れ様です」


返ってくる声が、微妙に冷たい。


視線が、一瞬だけ合って、逸れる。


「 」は、ファイルに綴じられる。


保管用の書類棚。


他のレシートと一緒に。


だが、破れた「 」だけが。


異質な存在として、残る。


翌月。


また、経費精算の時期が来る。


レシートを集める。


今度は、全て完全な状態で。


提出する。


経理部での確認。


だが――


今回は、いつもより時間がかかった。


一枚一枚、念入りに確認されている。


店名。

日付。

金額。

内訳。


全てが、精査される。


「 」の時とは、違う。


疑われている。


いや――


信頼が、下がっている。


一度の破れたレシートが。


その後の全てに、影響している。


「問題ありません」


最終的に、承認される。


だが、その声には。


以前のような、軽やかさがない。


「 」は、書類棚の中で。


他のレシートと共に、保管されている。


破れた端。

失われた店名。


それらが、結果を生んだ。


証明できないことが、疑いになる。


一度生まれた疑念は、消えない。


時間が経っても。

他の完全なレシートを提出しても。


「また破れてないか」

「今度は大丈夫か」


そういう目で、見られ続ける。


「 」は、それを知っている。


欠けた部分が、問題ではない。


人の心に刻まれた、小さな傷跡。


それが、最も消えにくいものだと。


やがて。


年度末の書類整理。


古いレシートが、処分される。


「 」も、その中に含まれていた。


シュレッダーにかけられる。


細かく裁断される音。


紙の繊維が、バラバラになっていく。


「 」は、消える。


だが――


残したものは、消えない。


経理部の記録に。

担当者の記憶に。


「あの時、破れたレシートを出した人」


そういう印象が、残る。


小さな出来事。


だが、確実に。


信頼という、目に見えないものを。


削った。


ゴミ箱の中で。


他の紙くずと混ざり合いながら。


「 」は、静かに在る。


破れた端と共に。


変えてしまった、関係と共に。


(了)

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