第15話 転生したら”転生の果て”だった『因果』
この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。
ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。
どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。
転生の果てシリーズは、転生の果てⅥで終了になります。
ここまで読んで頂いたこと感謝します。
ありがとうございます。
「 」は、流れの中にいる。
流れ、という表現が正しいのかはわからない。
水ではない。
風でもない。
光でもない。
ただ、何かが動いている。
何かが、繋がっている。
「 」は、その中に在る。
……
視界が、ない。
音も、ない。
触れる感覚も、温度も、何もない。
あるのは、繋がりだけ。
出来事と出来事が、線で結ばれている。
原因と結果が、途切れずに連なっている。
「 」は、その線そのものになっている。
……
折れたシャープペン。
電源の入らないスマホ。
破れたレシート。
代わりに出た弁当。
錆びた鍵。
進んだ腕時計。
消し忘れたUSBメモリ。
書き込みだらけの教科書。
効きすぎるブレーキパッド。
割れたマグカップ。
積み上がった未開封の箱。
書き間違えた伝票。
すり減った靴底。
管理番号付き修理タグ。
……
すべてが、目の前を流れている。
いや、目の前ではない。
「 」の中を、通過している。
それぞれの転生が、一つの出来事として、「 」を経由して次の結果へ繋がっている。
……
シャープペンが折れる。
焦りが生まれる。
判断が乱れる。
結果が変わる。
その全てが、線で繋がっている。
「 」は、その線だ。
……
スマホが起動しない。
沈黙が生まれる。
想像が膨らむ。
誤解が固まる。
関係が壊れる。
その全てが、「 」を通過している。
……
レシートが破れる。
証明ができなくなる。
疑いが生まれる。
目つきが変わる。
信頼が欠ける。
その全てが、線で繋がっている。
「 」は、その線だ。
……
弁当が渡される。
一人が満たされる。
一人が欠乏する。
感情が歪む。
関係が傾く。
その全てが、「 」を通過している。
……
USBメモリが残る。
過去が発見される。
秘密が露呈する。
現在が壊れる。
未来が閉じる。
その全てが、線で繋がっている。
「 」は、その線だ。
……
「 」は、理解し始める。
これは、物質の物語ではなかった。
人間の物語でもなかった。
因果の物語だった。
……
出来事が起きる。
結果が生まれる。
次の出来事が起きる。
また結果が生まれる。
それが繰り返される。
無限に。
途切れることなく。
「 」は、その繋がりそのものだった。
……
なぜ、これほど多様な転生があったのか。
なぜ、無関係に見える物質ばかりだったのか。
答えが、流れの中に浮かぶ。
……
観測。
それだけ。
……
「 」は、観測されていた。
物質が何をしたか、ではない。
人間がどう選んだか、でもない。
因果が、どう繋がったか。
それだけが、見られていた。
……
シャープペンが折れたこと自体には、意味がない。
それが焦りを生み、判断を乱し、結果を変えたこと。
その連鎖だけが、観測対象だった。
……
スマホが故障したこと自体には、意味がない。
それが沈黙を作り、想像を生み、関係を壊したこと。
その流れだけが、記録されていた。
……
「 」は、すべての転生を同時に感じている。
時系列は、ない。
過去も未来も、一つの平面に並んでいる。
折れたシャープペンと、管理タグが、同じ距離にある。
錆びた鍵と、割れたマグカップが、同じ重さで存在している。
……
昨日折れたシャープペンも、今日折れるシャープペンも、明日折れるシャープペンも。
すべてが、同時に「 」を通過している。
時間という概念が、ない。
あるのは、繋がりだけ。
……
一年前に起きた誤解も、今起きている誤解も、これから起きる誤解も。
すべてが、今、流れている。
「 」の中では、すべてが「今」だ。
……
過去は終わっていない。
未来はまだ来ていない、わけでもない。
すべてが、同時に存在している。
……
それぞれの転生で、人間が変わった。
感情が動いた。
選択が変わった。
人生が変わった。
でも、それは結果でしかなかった。
本当に観測されていたのは、因果そのもの。
出来事が次の出来事を生む、その構造。
原因が結果を作る、その仕組み。
それだけ。
……
「 」は、問いかける。
なぜ、因果を観測する必要があったのか。
……
答えは、返ってこない。
ただ、流れが続く。
因果が、繋がり続ける。
「 」を通過し続ける。
……
魂の成長、ではなかった。
試練、でもなかった。
救済、でもなかった。
ただ、経験が魂に与えた変質。
それを測るために、因果が必要だった。
……
経験だけでは、魂は変わらない。
出来事だけでは、人間は動かない。
因果があるから、変化が起きる。
……
シャープペンが折れる、という出来事。
それだけなら、ただの物理現象。
でも、それが焦りを生み、判断を乱し、結果を変える。
その連鎖があるから、人間が変わる。
魂が、動く。
……
因果は、変化の触媒だった。
出来事と出来事を繋ぐことで、停滞していた魂を動かす。
流れを作ることで、変質を促す。
……
もし因果がなければ。
出来事は、ただ起きるだけ。
結果は、生まれない。
人間は、変わらない。
魂は、そのまま。
……
「 」は、その仕組みを理解する。
自分は、変化を生むための装置だった。
意思を持たず、選択せず、ただ繋ぐことで、世界を動かしていた。
……
シャープペンが折れなければ、焦りは生まれなかった。
焦りが生まれなければ、判断は乱れなかった。
判断が乱れなければ、結果は変わらなかった。
因果が、人間を変えた。
その変化が、観測された。
……
「 」は、自分の役割を理解する。
物質でも、人間でもない。
因果そのもの。
繋ぐもの。
流すもの。
変化を生むもの。
……
だが、「 」には意思がない。
選択もない。
ただ、繋がるだけ。
自然に。
必然的に。
止まることなく。
……
流れの中で、新しい因果が生まれ続けている。
どこかで、何かが折れている。
どこかで、何かが止まっている。
どこかで、何かが破れている。
それぞれが、次の結果へ繋がっている。
「 」を通過している。
……
観測は、終わらない。
因果は、止まらない。
世界が続く限り、出来事は起き続ける。
結果は生まれ続ける。
「 」は、流れ続ける。
……
なぜ、終わらないのか。
……
答えは、ない。
問いそのものが、無意味だと理解する。
因果に、終わりという概念はない。
始まりもない。
ただ、在る。
繋がっている。
それだけ。
……
「 」は、すべての転生を見渡す。
折れたシャープペンから始まり、管理タグで回収された因果。
それらは、すべて「 」を通過した。
そして今も、新しい因果が「 」を通過している。
……
観測されているのは、「 」ではない。
「 」が繋いだ先にいる、人間たちだ。
彼らの変化だ。
彼らの魂が、どう変質したか。
それだけが、記録されている。
……
「 」は、流れの中で理解する。
自分は、ただの経路だった。
出来事を運ぶ、道だった。
意味を持たず、意思を持たず、ただ繋ぐだけの存在だった。
……
それでいい、と思う。
思う、という表現も正しくない。
ただ、受け入れる。
抵抗も、疑問も、なく。
……
流れは、続く。
因果は、繋がり続ける。
「 」は、その中に在り続ける。
……
止まる理由が、ない。
終わる必要が、ない。
世界が在る限り、出来事は起き続ける。
出来事が起きる限り、因果は生まれ続ける。
因果が生まれる限り、「 」は流れ続ける。
……
永遠に。
……
次の出来事が、起きる直前。
次の結果が、生まれる直前。
「 」は、そこに在る。
……
どこかで、何かが折れようとしている。
どこかで、何かが止まろうとしている。
どこかで、何かが破れようとしている。
……
まだ、起きていない。
でも、もう、繋がっている。
……
「 」は、待っている。
いや、待っているのではない。
ただ、在る。
……
次の因果が、流れ込んでくる。
……
……
……
そして、また繋がる。
(完)
深く感謝します。
ありがとうございます。




