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―転生の果てⅥ―  作者: MOON RAKER 503


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第13話 転生したら すり減った靴底だった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


転生の果てシリーズは、転生の果てⅥで終了になります。

ここまで読んで頂いたこと感謝します。

ありがとうございます。


――朝、七時三十分。


「 」は、足に履かれる。


靴紐が、結ばれる。


立ち上がる。


体重が、かかる。


「 」は、地面との間に在る。


ゴム製の、底。


黒い、表面。


だが――


均等には、減っていない。


右足の外側が――


特に、薄くなっている。


斜めに、削れている。


左足も、同じ。


外側だけが、極端に減っている。


片減り。


歩き方の、癖。


無意識の、傾き。


玄関を、出る。


アスファルトに、触れる。


カツ、カツ、カツ。


足音が、響く。


だが――


その音が、わずかに偏っている。


右足――カツ。


左足――カツ。


微妙に、違う高さ。


「 」の片減りが、原因。


バランスが、崩れている。


駅まで、歩く。


十五分の、道のり。


毎日、同じルート。


同じ歩き方。


「 」は、その全てを受け止めている。


アスファルトとの摩擦。


踏み込む力。


蹴り出す角度。


全てが――


外側に、偏っている。


右足を踏み出す時。


体重が、外側にかかる。


「 」の外側が、強く擦れる。


左足も、同じ。


内側は――


ほとんど使われていない。


新品同様の、ゴム。


駅に、着く。


階段を、上る。


一段、一段。


「 」が、段に触れる。


やはり、外側から。


バランスが――


悪い。


だが、本人は気づかない。


無意識の、癖。


ずっと、こうやって歩いている。


ホームで、電車を待つ。


立っている間も――


体重が、外側にかかっている。


「 」が、少しずつ。


削れていく。


電車が、来る。


乗り込む。


立ったまま、揺られる。


バランスを、取る。


だが――


「 」の片減りが、邪魔をする。


わずかに、傾く。


体が、揺れる。


つり革を、掴む。


なんとか、立っている。


降車駅に、着く。


降りる。


また、歩く。


会社まで、五分。


「 」が、また削れる。


外側が、さらに薄くなる。


オフィスに、着く。


デスクに、座る。


靴を、脱ぐ。


「 」は、デスクの下に置かれる。


休息の、時間。


だが――


既に、変形している。


外側が薄く、内側が厚い。


斜めの、底。


昼休み。


外に、出る。


また、履く。


歩く。


食堂まで、三分。


「 」が、働く。


外側が、削れる。


繰り返し。


毎日、同じ。


数週間後。


右足の外側が――


かなり、薄くなった。


ゴムの溝が、ほとんど消えている。


滑りやすく、なっている。


雨の日。


濡れた路面を、歩く。


「 」が、滑る。


ツルッ。


「うわっ」


バランスを、崩す。


手を、つく。


転びそうになる。


なんとか、持ちこたえる。


「……危ない」


呟く。


靴底を、確認する。


「……減ってるな」


外側が、ツルツル。


「そろそろ、替え時か」


だが――


「まだ、履けるだろ」


そのまま、使い続ける。


また、歩く。


「 」が、滑る。


慎重に、歩く。


だが――


歩き方は、変わらない。


やはり、外側に体重をかける。


無意識の、癖。


直らない。


数日後。


また、雨。


濡れた階段を、降りる。


「 」が――


滑った。


ツルッ。


完全に、バランスを失う。


体が、傾く。


手すりを、掴む。


間に合わない。


ドン。


尻餅を、つく。


階段の途中で。


「痛っ……」


周囲の人が、振り返る。


「大丈夫ですか?」


「あ、はい……すみません」


立ち上がる。


尾てい骨が、痛い。


だが――


怪我は、ない。


恥ずかしさだけが、残る。


靴底を、見る。


右足の外側――


完全に、ツルツル。


ゴムが、削れ切っている。


「……やばいな」


呟く。


「新しいの、買わないと」


だが――


その日も、買わなかった。


忙しかったから。


疲れていたから。


「明日、買おう」


そう、思う。


だが、明日も買わない。


また、忙しい。


また、疲れる。


「週末に、買おう」


先延ばし。


そして――


週末。


買い物に、出る。


靴屋へ。


新しい靴を、見る。


試着する。


「いいな、これ」


気に入った。


買おうとして――


値札を、見る。


「……高いな」


迷う。


「まあ、今履いてるのも、まだ履けるし」


結局、買わない。


帰る。


古い靴を、また履く。


「 」は、さらに削れる。


外側が、限界に近づく。


ある日の朝。


急いでいた。


遅刻しそうで。


走る。


「 」が――


滑った。


今度は、完全に。


転ぶ。


膝を、打つ。


手のひらも、擦りむく。


「痛っ……」


血が、滲む。


立ち上がる。


ズボンが、破れている。


膝の部分。


「最悪……」


靴底を、見る。


右足の外側――


ゴムが、剥がれかけている。


「……もう、無理だ」


諦める。


会社を、休む。


連絡して。


家に、戻る。


傷を、手当てする。


消毒して、絆創膏を貼る。


靴を、見つめる。


「 」の、姿。


右外側――削れ切っている。


左外側――同じく、削れている。


内側――ほぼ無傷。


歪んだ、形。


「……俺の歩き方、おかしいのかな」


初めて、気づく。


鏡の前に、立つ。


歩いてみる。


確認する。


――確かに。


外側に、体重がかかっている。


O脚気味。


膝が、外に開いている。


「……これか」


原因が、分かる。


だが――


直し方が、分からない。


無意識の、癖。


ずっと、こうやって歩いていた。


変えるのは――


難しい。


翌日。


新しい靴を、買う。


靴屋で。


店員に、相談する。


「歩き方の癖で、外側が減るんですけど」


「ああ、よくありますね」


「どうすれば、いいですか?」


「意識して、内側にも体重をかけるようにしてください」


「意識して……」


「あと、インソールを入れるのも、いいですよ」


インソールを、勧められる。


バランスを整える、中敷き。


「これを入れると、自然と正しい位置に体重がかかります」


「へえ……」


買う。


新しい靴と、インソール。


家に帰る。


インソールを、入れる。


履いてみる。


歩く。


――違和感。


内側にも、体重がかかる。


慣れない、感覚。


「……これが、正しいのか」


呟く。


続けて、歩く。


意識して。


バランスを、取りながら。


だが――


疲れる。


いつもと、違う筋肉を使う。


「……慣れるしかないな」


毎日、履く。


意識して、歩く。


内側にも、体重を。


バランスを、均等に。


だが――


無意識になると。


また、外側に偏る。


癖が――


抜けない。


数週間後。


新しい「 」を、確認する。


やはり――


外側が、減り始めている。


内側より、明らかに。


「……ダメか」


溜息。


完全には、直らない。


インソールを入れても。


意識しても。


長年の癖は――


簡単には、変わらない。


また、同じ。


外側が減る。


バランスが崩れる。


滑る。


転ぶ。


繰り返し。


「 」は、それを知っている。


同じ歩き方が、同じ結果を呼ぶことを。


意識されない癖こそ、最も強い因果になることを。


夜。


古い靴を、見つめる。


「 」の姿。


片減りした、底。


歪んだ、形。


それは――


自分の歩き方の、証。


無意識の癖の、痕跡。


「……変えられないのかな」


呟く。


だが――


変えられないから、人間。


癖があるから、個性。


そう、思うことにする。


古い靴を、ゴミ袋に入れる。


捨てる。


新しい靴を、履き続ける。


意識しながら。


バランスを取りながら。


だが――


いつか、また。


外側が、減るだろう。


また、滑るだろう。


また、転ぶだろう。


繰り返す、運命。


「 」は、ゴミ処理場で。


他の靴と、一緒に。


積み上げられている。


片減りの、痕跡と共に。


だが――


新しい「 」も。


いずれ、同じ姿になる。


同じ歩き方が――


同じ結果を、生むから。


癖は――


そう簡単には、変わらない。


(了)

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